悪(あく)は栄える・・という。だが、果たしてそうだろうか? と、世の中の動きを見ていると思える訳だ。^^ 悪事を重ねて有頂天になって逮捕され、奈落(ならく)の底へと落ちる人も多い。誰がっ! とは言わないが、まあそういうことだ。^^ 自分自身は欺(あざむ)けないから、いくら世の中を誤魔化(ごまか)して否定したとしても、結局、悪事は事実として残ることになる。完全犯罪は成立しない・・ということだ。^^ とはいえ、善(ぜん)がいいの? と問えば、必ずしもそうはならないようだ。善の裏には悪が付き纏(まと)うという。世の中には完璧(かんぺき)な善も悪も存在しないことになり、世の中のすべての事象は、濃さの違いこそあれ灰色だということになる。と、いうことは、生きていく上で善悪は余り深く考えず、ファジー[曖昧(あいまい)]に生きた方がお利口・・ということに他ならない。そういえば、善が悪で、悪が善だった・・などと疑問が湧(わ)くような真逆(まぎゃく)の事実も多々ある。^^
とある街の人通りである。身形(みなり)のいい一人の老人が大きな袋を肩にかけて歩いている。息切れがするのか、時折り立ち止まり、しばらくするとまた歩き出す。学生風の若者が、見かねて声をかけた。
「おじいさん、大変だねっ! 僕が持ったげるよっ!」
「これはこれは学生さん、ご親切に…。それじゃ、お言葉に甘えますだ…」
老人は、ヨッコラショ! と袋を歩道へ下ろした。若者には少しの下心があった。『まあ、これならいくらかっ? ヒヒヒ…』という下心だ。
「おじいさん、どこまで行くの?」
「倅(せがれ)の家(うち)ですだっ!」
「分かった! どっち?」
「あの建物の向こうと聞いておりますがのう…」
学生は大きな袋を背負うと老人とともに歩き出した。学生は、すぐそこだろう…と早合点(はやがてん)していた。ところが、歩いて20分経っても、いっこうに向かう家(いえ)が見えない。
「おじいさん、まだなのっ!?」
「これは妙だ…。はて?」
二人は立ち止まった。学生は瞬間、『こりゃダメだっ! 早く遁(トン)ズラしないとっ!』と感じた。
「おじいさん、悪いんだけどさぁ~。僕、大学の講義があるんだよっ!」
「はあ! そうでしたかのう。ならば、あとは自分で…」
「そおう!? 悪いねっ!!」
学生は大きな袋を下ろすとスタコラと来た道を戻(もど)っていった。
学生の姿が消えたあと、老人は大きな袋を肩にかけ、ふたたび、ゆっくりと歩き出した。そしてその5分後である。
「おお! ここだ、ここだ…」
老人はとある神社の大鳥居の前に立っていた。
「あの若者、もう少しじゃったが、惜しいのう…。福を授けてやろうと思うたが…」
その言葉のあと、老人は大きな袋とともに跡形(あとかた)もなく社(やしろ)の中へと消え去った。皆さん、お分かりだろうか? この老人こそ、あのっ! あのっ! 有名な大黒様だったのである。^^ 若者は善の心を起こし、最後は悪い心へと傾いた結果、大きな幸せを逃(のが)したのだった。
まあ、こんな出来事が起こるか? は疑問だが、思いつきの善悪は慎(つつし)んだ方がいいようだ。^^
完