水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

疑問ユーモア短編集 (44)冗談

2020年02月17日 00時00分00秒 | #小説

 冗談も場合による・・ということがある。どういうことか? といえば、意気投合した会話や有り得ない論外の話なら、本気にされないからそれでいいのだが、片方が本気にした場合は厄介(やっかい)なことになるということだ。それがどういう場合[シトゥエーション]で起こるか? は疑問だが、━ 嘘(うそ)から出た誠(まこと) ━ という諺(ことわざ)もあるくらいだから、注意を要する。^^
 とある臨時国会の衆議院本会議場である。国会議員による棄捐令(きえんれい)法案の無記名投票が行われている。与野党の議席が伯仲(はくちゅう)しているため、挙手による採決が出来ないからだ。^^ 国家が担(にな)う償還金[国債発行残高]の赤字を帳消しにしよう・・という虫のいい法案が議会に上程されたのである。要は、国の債務をチャラ[帳消し]にしよう・・という法案だ。この法案が上程された背景には、起債残額が実に一千数百兆円に膨(ふく)らんだからである。このまま推移すれば、国は財政の破綻(はたん)を余儀なくされることは明々白々(めいめいはくはく)だった。そこで出されたのが急場凌(きゅうばしの)ぎのこの法案だったが、当然ながらマスコミや国民の顰蹙(ひんしゅく)を買っていた。
 少し時が遡(さかのぼ)った頃の、総理の記者会見である。
「棄捐令法案が出されると、もっぱらの評判になっていますが、そこんところはっ!?」
「ははは…冗談、冗談ですよっ! 冗談に決まってるじゃないですかっ! 江戸時代じゃあるまい…。そんな馬鹿な法案を、私どもが出す訳がないっ!」
「そら、そうでしょ! 民間経済に大きな影響を与えますからねっ! 私どもも冗談だと思っておりました。とんだジョークだっ! 総理もお人が悪いっ! ははは…」
 記者達と総理はともに大笑いをした。それが、つい数ヶ月前のことだった。そして今日、棄捐令法案の採決が国会の衆議院本会議場で行われている訳である。
 しばらくして、無記名投票が終了し、議場閉鎖が解かれると、開票結果を衆議院議長が読み出した。
「…よって、棄捐令法案は否決されましたっ!」
 議場の至るところから、「そら、そうだろっ!!」の声が湧(わ)き起こった。
 まあ、こんな疑問も湧(わ)かない馬鹿な冗談が国会で起こる訳がない…と、私は信じたい。^^ 

                                


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