水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

甘辛(あまから)ユーモア短編集 (85)心(こころ)

2021年08月13日 00時00分00秒 | #小説

 心(こころ)ほど得体(えたい)の知れないものはない。というのも、私達は人だからだ。どうゆぅ~~ことっ!? と思われる方もあろうが、その訳を大相撲の超有名な親方のように解説すれば、人も動物ということで、その心は変化し易(やす)いということである。いくら徳を積んだ名僧や牧師さんの類(たぐ)いでも、人である以上、辛(から)い…と感じるだろうし、これは甘(あま)い…と感じるだろう。私も当然、いい加減な心だから、もう少し味が…などと思ったりします。^^
 渋滞中のとある高速道路である。家族を乗せた中年男が、アングリした顔で欠伸(あくび)をしている。もちろん車は、前も後ろも車また車の真っただ中で停車している。
「あああっ!! なんとかならんかっ!!」
 妻の顔を見ながら中年男は愚痴った。
「私に言われても…」
「俺もまだまだ修行が足りんなっ!」
「そうよっ! 心が出来てないのよっ!」
「そう言うお前はどうなんだっ!?」
「私っ! 私は…これだけのものよっ!」
「ほぉ~~! これだけのものか…。確かにそれは言える。これだけのものだな…」
「なによっ! 失礼なっ!」
 そこへ、七才になる長男と五才の長女が口を挟(はさ)んだ。
「パパもママも、やめてよっ! 大人気(おとなげ)ないっ!」
「そうよっ! 心が出来てないんだからっ!」
「…」「…」
 子供二人に諫(いさ)められた夫婦は形無しで黙(もく)した。
 そのとき、どういう訳か渋滞が緩み、車列が静かに動き出した。
 心の出来不出来は辛いようで甘く、甘いようで辛い感覚なのである。

                  完


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