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水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

甘辛(あまから)ユーモア短編集 (78)具合

2021年08月06日 00時00分00秒 | #小説

 人に限らず全ての物には具合が存在する。人が具合悪ければ病気である。物なら故障といったところだろう。要は、具が合うか合わないかだが、具は合った方がいいに決まっている。^^ ただ、この具合の感じ方にも辛(から)い甘(あま)いがある。辛く感じる人だと放っておけなくなるし、甘い人は放っておいても気にならないといった差になる。一つ言えることは、辛めに考えて放っておかない方がいいに決まっているということだ。^^ トイレに行きたければ不具合になる前に行った方がいいに決まっているだろう。洗濯しなくてもいいからだ。^^
 とある家庭の一コマである。浮気相手の女性から社長の夫にかかってきた電話に応対したのは妻だった。妻の横には応接セットの長椅子で寛(くつろ)ぎながらテレビに観入る夫がいた。
「えっ? 宅の主人でござぁ~~ますかっ? はい! しばらくお待ちくださいまし・・・ あなた、電話っ!」
「んっ? 誰からだ!?」
「・・・あのう、どちらさまでござぁ~ましょう?」
 浮気相手の女性は瞬間、具合が悪いわ・・・と感じた。
『社長秘書の豚野(とんの)と申します…』
「トンノさま? あなた、とんのさんから…」
 その名を聞いた夫は瞬間、こりゃ、具合が悪い・・・と瞬間、感じた。
「おっ! ああ、そうか! …はい、私だがっ! き、君、具合が悪いから、ここへは電話するな、と言っただろうがっ!」
 受話器を手にし、夫は少し焦(あせ)った声で呟(つぶや)くように言った。だがこのとき、妻はすでに浮気相手からだと知っていたのである。内々に探偵社に夫の素行調査を依頼していたのだ。そのことを知らない夫は詭弁(きべん)を弄(ろう)したのである。
 電話を短く切り、受話器を置いた夫に、妻は嫌味(いやみ)をポツリと言った。
「あなた、具合が悪いんでしょ! 診(み)ておもらいになったらっ!」
「んっ! いやいや、大事ない大事ないっ!」
「そおう?」
「あ、ああ…」
 この先、この夫婦の関係がどうなったか? まで、私は知らない。
 一つ言えるのは、甘い辛いに関係なく、具合がいいに越したことはない・・ということだ。^^


                   完


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