あの頃・・そう、この私が育った昭和二、三十年代の話だが、人々がどこか一生懸命、辛(から)く生きていたように思える。ただ、その辛さは決して嫌(いや)な辛さではなく、どこかに甘(あま)さを秘めた辛さだったように記憶する。今は? と問えば、物資には恵まれたいい時代だが、どこかその甘さの中に棘(とげ)を隠した気が抜けない殺伐感を漂わせているように思える。これは飽くまでも老齢の域に達しつつある私個人の私見です。^^
いつやらも他の短編集に登場した、とある公園である。木々の葉が黄色く色づき始めた小春日和の中、登場経歴を持つ二人の老人がベンチに腰を下ろし、語り合っている。話すのではなく語り合っているのである。自分の体面を保とうと、少し言葉遣いに化粧を施(ほどこ)している訳だ。^^
「いやぁ~、あの頃はよかったですな。なんといっても、自然に囲まれてましたからなぁ~」
「そうそう! この前のビルもなかったですし、私なんか、よくここの森で遊んだものですっ!」
「ええ、私もそうでしたっ! しかし、お出会いしなかったのは妙ですなぁ~」
「ははは…世間は狭いようで広いっ!」
「ははは…確かにっ!」
「で、今日は?」
「ああ、コレです。少し高めでしたが…」
「いやぁ~、値段のことはお気になさらないで下さい。どれどれっ!」
老人は、もう一人の老人から受け取ったコンビニ弁当とお茶のペットボトル入りのビニール袋を手渡した。
「そうそう! 明日からでしたかっ? 袋も有料になるそうですなっ!?」
「ええ…。とか、言っとりましたなっ!」
「まあ、袋は家にたんと残してありますからなっ!」
「私も袋はたくさんございます。とゆぅ~か、捨てるのがもったいなく思えましてな、結果、溜(た)まっとる訳ですが…」
「そういや、あの頃は紙袋でしたな?」
「さよう! いつからか、こんなポリ袋になりました…」
「紙は木から出来ますから自然に戻(もど)りますが、ポリ袋は…」
「それが社会問題になっとります」
「そうそう! 有料化はそれもあるんでしょうなっ!」
「はいっ! それもありますが、いろいろとあるんでしょう…」
「あの頃は、いろいろが少なかったですからなぁ~」
二人が語り合うあの頃がいつかは分からないが、辛くない甘い時代だったことは確かなようだ。^^
完