鬱陶(うっとう)しい日は、何も天候が悪いという場合だけではない。職場の仕事上の問題、あるいは健康面の問題etc.と、様々な個人を取り巻く環境面の問題も付随する。新しい話を掲載しないと…と、編集者に迫られれば、これはもうノルマ的となり、鬱陶しいが、私の場合は出版社とは無縁の三文作家だから不幸中の幸いとでも言いましょうか、快適に浮かべば書き綴る兼好法師のような生活で、鬱陶しい日はまったくありません。^^
超有名作家の荻窪(おぎくぼ)は、今日も朝から鬱陶しい日を迎えようとしていた。昨日から降り続いた雨も上がり、朝から気分のいい日差しが寝室に差し込んでいる。荻窪はテンション高めにベッドを抜け出ると両腕を広げ、大欠伸を一つ打った。そこへ、ベッド上に置いた携帯のバイブした振動音が響いた。
「チェッ!」
数年前の、しがない三文作家の頃は、待ってましたっ! とばかり、携帯を手にした荻窪だったが、塵川賞を受賞して以降、新進作家の道をひた走り、今や超売れっ子のサスペンス作家になっていたから鬱陶しかったのである。
『おはようございます。先生! 新作の原稿は、まだでしょうか?』
「君な、昨日もかけてきたじゃないか。昨日の今日で書けてる訳がなかろう!?」
『ええまあ、それはそうなんですけどね。仕事が早い先生のことだから、どうかなって思いまして…』
「ははは…いくら仕事が早いからといって、昨日の今日だよ君」
『ええまあ…』
いい天気だというのに荻窪にとって鬱陶しい日の始まりだった。
「一週間ほどしてから、また電話してくれるかな?」
『分かりました。朝からどうもすみません…』
「ああ、じゃあ切るよ…」
最近の世相は急ぐから鬱陶しい…と荻窪は、しみじみ思った。
荻窪さんの鬱陶しい日は、平和で贅沢な悩みと私には受け取れます。^^
完