夏の怪奇小説特集 水本爽涼
第三話 抜け穴(4)
「なっ、相談相手にはならんだろうが、心配事があるんだったら云ってくれよ」
「いや、云ってもいいが、信じないだろ?」
「まあまあ、ともかく云ってみな」
「……、実は、子供のことでな…」
「病気か?」
「いいや、それだったら、いいんだが…」
「事故か?」
「でもない…」
「勿体ぶらないで、云えよ」
「…、消えたんだ」
「何が消えたんだ」
「だから、俺の子がさ」
「誘拐か?」と、同僚の顔が、先程とは、うって変わりました。私は、「いや…」とだけ否定しました。
「どういうことだ?」
理解できないというような、怪訝(けげん)な表情で、同僚は私を窺いました。
「やっぱりね信じてくれんだろうな…」
「と、いうと?」
「だから俺も、最初は、『そんな馬鹿な話しがあるか!』って、家内に云ったんだが…」
「ん…」
「うちに井戸があるのは知ってるだろ? そこに落ちたのなら、別に妙でもなんでもないんだ。家内が消えたというから、話がややこしくなってきた」
「消えたというと?」
「だから消えたんだよ、スゥーっと。これは飽くまでも家内の話なんだが…。信じられんだろ?」
「ふーむ、信じられん。奥さんさぁ、精神的に疲れてんじゃないだろうな?」
「いいや、そういう風にも見えんのさ」と、私も食後のコーヒーをオーダーしながら小声で云いました。
その時、同僚が腕を見ながら、「もうこんな時間か…、一度休みにお前ん家へ行くよ。俺もちょいと、ややこしくなってきた。今日はこの辺にしておこう」と席を立ったのです。
この話は、一応ここで途絶えたのですが、先程も云いましたように、これが解決への、きっかけとなったのでした。
続