水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

世相ユーモア短編集 -61- 歩く

2025年01月21日 00時00分00秒 | #小説

 最近は歩くにも注意が必要な世相である。人が起動する機械類が闊歩していて、実に危ういのである。馬鹿を絵に描いたような現実の世相には、ただただ恐れ戦(おのの)くしかない訳だ。困った世になったもんだ…と、怒る他ない訳だ。ああ、情けないっ!^^
 漆原は料理で足らなくなった醤油を買おうと家を出た。漆原の家からスーパーまでは車を使うほどの距離ではなく、せいぜい歩いても十分程度だったから歩くことにした。
 家を出てしばらくしたところに十字路がある。車が頻繁に通る道路だから当然、信号機があった。いつも通る道だったから、漆原には馴れがあった。ところが、この日だけは勝手が違っていたのである。信号機の前が工事中で、数人の作業者が工事していた。まあ、そんな光景はよくあることだが、この日は加えて事故があったのか交通課の警官二名がアレコレと事故当事者の二人から事情を聴取していた。それでなくても交通量が多い場所だったから、危険極まりなかった。
「すみませんっ!! 危険ですから迂回して下さい…」
 警官が突然、歩く漆原に声をかけた。
「えっ! あそこに見えるスーバーまでなんですが…」
「それはそうでしょうが、ともかく迂回(うかい)して下さい…」
「ダメですか!?」
「私が怒られますから、すみませんがご協力を…」
 鋭い視線で警官にそう言われたのでは従う他はない。目に見えない圧力が漆原を取り囲んでいた。漆原は、イラッ! とはしたが、グッ! と我慢して迂回した。たかが醤油一本で、このざまか…と、歩くのも考えものだなと無性に怒れた。車で出ればスゥっ~と迂回しないで通れたのである。漆原は激しく通り過ぎる車を恨めしく思いながら遠回りした。
 漆原さん、最近は車が闊歩する時代です。そんな世相を我慢して、ビクビクしながら歩きましょう。^^

                   完


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