夏の怪奇小説特集 水本爽涼
第四話 ゴミ人間(1)
朝起きると、何だかいつもと状況が違うのに気づいた。
どこかザラツいた感触なのだが、それでいて気分は心地いい。
もう、勤めに出ねばならないから、そろそろ床を離れねばならない。だが、今日は目覚ましが鳴らなかったようにも思える。前夜の疲れで熟睡していた為だろうと、その時点では思っていた。
「… …」と、無言で寝ぼけ眼(まなこ)を薄く開けると、目の前の視界が塞がれている。それどころか、ベッドに寝ていた筈が、シュラフにでも寝ている感覚で、しかも身体の位置が不安定だ。よく見れば、薄い黒ビニール袋の中に自分がいる。
徐(おもむろ)に身体を立て直そうとすると、自由が利かず、窮屈この上ない。着ているものはというと、確か昨夜に着替えたパジャマであるから、これは怪(おか)しくない。
踠(もが)いて袋を突き破ると、急に朝の冷気が身体を包む。辺りは早朝の静けさが覆い、通る人の姿もない。場所は? といえば、見慣れた通勤途中の風景が展開する道筋だ。私は訳が分からなくなり、一瞬、途方に暮れたが、我を取り戻して、とり敢えず袋から出た。
ふたたび、よく見れば、靴下も履いていないし靴とてない。冷えが足下から鈍く伝わってくる。夏とはいえ、早朝なのだ。当然といえば当然である。
仕方なく裸足のまま、ウロウロと、その場所を逃れた。その、というのは、勿論、ゴミを搬出する置き場所である。時計を見ると、まだ四時半近くだった。もう数時間すれば、間違いなくパッカー車がゴミを回収にやってくるだろう。私はその光景を、通勤途上でよく目の当たりにしている。
なんという情けない格好で歩いているんだろう…と、思いつつ、両足は確実に我が家の方へ向かっている。何故、あんな所にいたのか? こんな状況になったのは何故なんだろう? と、不可解な事実に対しての様々な疑問が脳裏を交錯した。
幸い、家からはそんなに離れていなかった。これには助かった。早朝で人の動きはないのだが、出来るだけ人目を避けようと、足早に歩き、とにかく家へ辿り着いた。
家族はまだ寝静まっているようだった。起こさないよう、静かに二階へ上がり…、そうだ、これも不思議なことなのだが、玄関の鍵は施錠されていた筈なのだが、妙なことに開いていた。
ベッドに横たわると、これも妙なことに温かみがある。夢遊病にでもなって辺りを徘徊していたのだろうか…と、寝つけぬまま、つまらなく考えた。だが、そんな風でもないようだった。
続