水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

楽しいユーモア短編集 (18)マンネリ

2019年10月14日 00時10分00秒 | #小説

 マンネリという言葉がある。いくら楽しいことだって、常態化すれば、ちっとも楽しくなくなる状態だが、この状態をマンネリと人は言う。相思相愛でアツアツだった二人が、結婚後、数十年経つうちに、どちらかといえば相手が煙(けむ)く思える状態・・これはマンネリというより倦怠(けんたい)だろう。^^
 街の商店街にある餅屋の前を一人の老人ご隠居がスゥ~~っと通り過ぎた。それを見ていた店主が訝(いぶか)しげに声をかけた。
「おやっ! ご隠居!! 今日は寄られないんですかっ!?」
「ああ、これはご主人…。いや、少し腹具合が悪いもんでしてねっ!」
 実のところ、腹具合など少しも悪くないご隠居だったが、軽く暈(ぼか)した。
「毎日、寄られるので、どうかされたのかと思いましたが、そうでしたか。お大事に…」
 店主は軽く頭を下げた。軽く暈したご隠居は、店主に軽く頭を下げられ、思わず自分が悪人にでもなったような気分がした。時代劇ファンのご隠居にとって悪人は正義の味方にバッサリ斬られるとしたものだったから、自分も斬られてはっ! …と思えた。
「い、いや…そ、そんなに悪いってこともないんですがな。そうだっ! 腹具合が治(おさ)まってから食えばいいか…。いつものように包んでもらいますかな」
 ご隠居としては、マンネリで今日は余り食べたくないもんで…とは、口が裂(さ)けても言えなかったから、また軽く暈した。
「あっ! さよですか。では…」
 店主には理由が薄々(うすうす)、分かっていたが、ご隠居を甚振(いたぶ)るようなことはせず、軽く応じた。ご隠居はいつもの額を支払うと、餅の包みを受け取って店先から軽く消えた。
 楽しくないマンネリ気分は、軽く暈すことで楽しい気分に変化する訳である。お相撲では、これを軽くいなす・・と言う。…言わないかっ!^^ 

                                


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