水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

分析ユーモア短編集  <6>  先読み

2018年12月06日 00時00分00秒 | #小説

 将棋や囲碁のプロ棋士は必死に先を読む。読むのはいいが、読み過ぎて振り出しへ戻(もど)る・・ということもある。
「10秒ぅ~! … 20秒ぅ~~!! 1っ! 2っ! 3っ!」
 と、急(せ)かすように時計係に告げられると、やかましいわっ! とは思わないのだろうが、恨(うら)めしく思え、思わずエエイッ! と、つまらない手を指したり打ったりする破目になる。分析すれば、不言実行(ふげんじっこう)の四字熟語が示すとおり、先読みをせず、浮かんだことをスンナリとやった方が上手(うま)くいく・・ということにもなる。まあ、これも程度もので、スンナリやり過ぎた挙句(あげく)、失敗する・・ということも当然、起こり得るから、微妙な間合(まあ)いの判断力が必要視される・・というのが分析結果だ。
 通勤途上のとある男が、車を運転している。
『この時間だと…アノ道はいつも混んでるから、コッチだな…』
 瞬間、そう思った男は、ハンドルを回して十字路を右折した。ところが、である。空(す)いているはずの道路が車で数珠(じゅず)繋(つな)ぎになっている。男は思わず、ウゥ~~! と困ったような呻(うめ)き声をあげた。先読みせず、スンナリと直進していれば、スンナリと職場へ到着出来たのである。結局、男が会社へ入ったのは、出勤20分遅れだった。
『シメシメ、誰もいない…』
 男がそう思いながら辺(あた)りを見回したそのときだった。
「あとからでいいから、届け、出しときなさいよっ…」
 徐(おもむろ)に入ってきた上司の小声である。
「は、はいっ!」
 男は身を竦(すく)めた。
「ははは…冗談だよ、冗談! 渋滞だろっ! 私も三日前、20分遅れさっ、ははは…」
「そうでしたか?」
「君は出張でいなかった日だ。先読みはいかんな。いや、いかんいかん…」
「ははは…なんだ、そうでしたか」
「仕事は先読みしてくれよっ!」
 二人は賑(にぎ)やかな笑い声を上げた。
 このように、先読みも分析すればケース・バイ・ケース[場合によりけり]なのである。^^

                                 


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