水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

忘れるユーモア短編集 (53)書いておく

2020年06月06日 00時00分00秒 | #小説

 忘れるという生理的現象は誰にだってある。老いれば必然的にそうなるが、若い人でも忘れるときには忘れるのである。ならば、どうする? ということだが、忘れないよう、思っていることをメモするなどして書いておく・・というのがカルテの処方箋(しょほうせん)となるだろう。まあ、その書いておくメモを忘れる人は、川柳のような話でどうしようもないが…。^^
 とある家庭のキッチンである。朝早くから、この家の主婦が朝食の準備をしている。子供達に持たせる弁当作りもあるから、その労は並大抵(なみたいてい)のものではない。そこへ、いつもは遅刻をしない程度にギリギリで起きる夫が、現われなくてもいいのに珍しく現われた。
「あら、早いわねっ!」
「そりゃ、俺だって、たまには早く起きるさっ! おっ! メモがいっぱいだなっ!」
 夫は小さな掲示板に画ピンで刺された多くのメモ用紙を見て、ひと言、呟(つぶや)いた。
「ああ、これ? 書いておくと忘れないでしょ?」
「ああ、まあ、書いておけば忘れるこたぁ~ないよなっ!」
「そうなのよっ! 毎日、同じものは作れないでしょ?」
「ああ。まあ、そうだな…」
 そこへ、現われなくてもいいのに、また現われたのが、今年で高校二年になる長男だ。
「お母さん、昨日(きのう)も同じオカズだったよっ!」
「そうお? そんな訳ないと思うんだけど…」
 母親は訝(いぶか)しげに掲示板のメモを見た。
「あっ!」
 母親は一昨日(おととい)のメモを、そのまま刺しておいたのである。早い話、メモした紙を刺しかえるのを忘れたのだ。  このように、忘れることがないように書いておくからといって忘れる保証はない・・ということになる。ドジで書いておくことを忘れる人に付ける薬はなく、どぉ~~しようもない。^^
 
                                     


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