水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

分析ユーモア短編集  <52>  食べ物

2019年01月21日 00時00分00秒 | #小説

 食べ物を分析すれば意外なことが分かってくる。世界の食糧自給率は農水省の統計データ(カロリーベース)によれば、数百%の国があるのに比べ、我が国では40%を・・くらいのお粗末さなのである。ということは、私達の口に入っている食べ物の50%以上が…ということになる。これ以上は先々が怖(こ)くて語れない、語れないっ!^^
 食糧以外の食料[主食以外の食べ物]を含めての話となるが、食べ物は私達が生きていく上で一日も除(のぞ)けない命を繋(つな)ぐ糧(かて)なのである。糧かどうかそんなことは分かり切ってるじゃないかっ! 勝手(かって)にしろっ![糧と勝手をかけたダジャレのつもり ^^]などと怒られる方は、風呂上りに美味(うま)い肴(さかな)で一杯やっていて下さればいいだろう。^^
 とある未来の一場面である。
『臨時ニュースを申し上げますっ! 来月からの食糧危機が現実のものとなり、政府は対応措置を講ずべく、総理官邸で緊急閣僚会議を開いておりますっ! 皆さんっ! 冷静に落ちついて行動して下さいっ! 』
 テレビの各局が一斉に臨時ニュースを報じた。
「ふ~~ん、そうなのか…」
 田園地帯が広がる地方では、あまり深刻には受け取られてはいなかったが、都会、特に大都心では暴動にも似た深刻な食糧パニックが起きようとしていた。
 三日後である。テレビは都心の各地で発生する暴動場面を映し出していた。
「とうちゃん! これから、ひとっ走(ぱし)りして肥料用のキャベツ、持ってってやっべっ!」
「おう! そりゃ、いい功徳(くどく)だっ! 豚よりは人様だわなぁ!!」
 二人はお互いの顔を見ながらニヤっとした。
 まあ、こんな大げさな話にはならないだろうが、分析の結果、食べ物がなければ、人は笑えなくなるようだ。^^

                                


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分析ユーモア短編集  <51>  和歌(わか)

2019年01月20日 00時00分00秒 | #小説

 日本文化を象徴(しょうちょう)するものの一つに和歌(わか)がある。短歌、俳句、川柳など、それぞれ趣(おもむき)が深く、人々の心を和(なご)ませる。和ませる歌だから和歌なのだろう。^^
 とある和歌同好会が公民館を貸し切って開催されている。
「ほお! あなたは俳句部門でしたかっ? ですと、そちらのお部屋ですかな。私は川柳部門でしてな、こちらで…」
「ああ、さよでしたか。ではっ…」
 二人の老人が話していると、そこへもう一人の老人が息を切らせて入ってきた。
「も、もう始まっとりますかなっ!?」
「… いえ、まだ20分ほどありますが…」
「あっ! 昨日(きのう)、時間を合わせたときです。1時間、間違っとりました、ははは…」
 早とちりなお方だ…と二人の老人は思ったが、そうとも言えず、笑って暈(ぼか)かした。
「で、あなたは?」
「… 私? 私は短歌部門です。ははは…和歌の世界は奥深く、[分か]りませんなっ!」
 息を切らせて入ってきた老人は、ようやく息を整えながら返した。二人の老人は、ダジャレの下手(へた)なお方だ…と、また思ったが、それも言えず、ふたたび笑って暈かした。
 和歌を分析すれば、暈かすことが求められる奥深い世界のようだ。^^

                                


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分析ユーモア短編集  <50>  満足感

2019年01月19日 00時00分00秒 | #小説

 物事が達成された…と感じる満足感は個人によってその程度が異なる。ある人は酒を五合は飲まないと飲んだ気がしないだろうし、別の人は缶ビール一本で満足することだろう。^^ 要は、その人の身体(からだ)の感じ方の違いによるものだから、どうこう言っても致し方がない。致し方はないが、その満足感の違いを分析するのも面白い。などと書けば、怒られる方もあろうから、面白いとは言わず、興味が増す・・とでも書いておきたい。^^
 とある列車に乗り込んだ二人の旅行客が席に座って話し合っている。
「この列車、遅いと感じませんか?}
 せっかちな性分(しょうぶん)のAは、腕を見ながら言った。どうも時間が気になる様子である。
「? …そうですか? 私はこれくらいの方が満足感が…。鈍行ですからっ! ははは…」
 Bはのんびり派なのか、すぐに全否定した。
「そうでしょうか? いくらなんでも、この速度じゃ…。ちゃんと着きますかね、時間に」
「ええ、そらもう時刻表どおりに着くと思いますよ」
「そうかなあ~?」
 Aは、なおも列車の速度に不満感が募(つの)った。Bは、『この人、なぜ鈍行を選んだんだろう? 新幹線で行けばいいのに…』とは思ったが、口には出さず、思うに留(とど)めた。共(とも)にするこれからの旅を気拙(きまず)いものにしたくなかった・・という事情もある。孰(いず)れにしろ、両者の満足感には違いがあった。二人は満足感の違いで楽しい旅とはならなかった。
 旅は満足感の感じ方が近い者と共にした方が楽しい・・というのが満足感の分析結果となる。^^

                                


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分析ユーモア短編集  <49>  決め台詞(ぜりふ)

2019年01月18日 00時00分00秒 | #小説

 ━ 男は度胸(どきょう)! 女は愛嬌(あいきょう)! 坊さんお経(きょう)! ━ という、誰が言ったか分からないような決め台詞(ぜりふ)がある。^^ この決め台詞を分析すれば、[きょう]を共通にしたダジャレであることが分かるが、その言おうとする内容の奥には、なるほど! と得心(とくしん)出来る深い意味合いがあることにも気づかされるのである。確かに男性は、ここぞっ! というときに度胸は必要だし、女性だって愛嬌がなければ付き合えたもんじゃないだろう。当然、お坊さんも、お経の真意が分からず、世俗(せぞく)に塗(まみ)れるようなお方は、ただの人・・に違いない。^^ このように、それぞれあるべき姿を暗(あん)に堂々と言って退(の)けるのが決め台詞・・である。決め台詞は千差万別(せんさばんべつ)で、歌舞伎の口上(こうじょう)から映画のトラさんが売り言葉にするいい決め台詞など、いろいろだ。^^
 とある秋近い田舎道(いなかみち)を、畑帰りの婆さんがヨロヨロと歩いている。同じ村に住む男がその姿を見て、決め台詞のように、ひと声、投げた。
 「婆さんっ!! …そろそろ茄子(なすび)どきですなっ!!」
「…? はあ?」
 婆さんは耳が遠く、その声が聴こえなかった。
「茄子どきですよっ!! 茄子どきっ!!」
「ああ、茄子ですかいのう。茄子は、もう萎(しお)れる頃ですかのう…」
「ははは…、いや、まだまだっ! もうひと花っ! 二度なりの今の時期、美味(うま)いですからなあ~!」
「ご冗談をっ!」
 婆さんは、どういう訳かスンナリと聴こえ、小笑いした。
 分析の結果、決め台詞は本人に都合がいいと聴こえるようである。^^

                                


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分析ユーモア短編集  <48>  巡りあわせ

2019年01月17日 00時00分00秒 | #小説

 物事や人が上手(うま)い具合に噛(か)み合って接触することを巡りあわせ・・と表現する。この巡りあわせ・・という事象を分析すれば、様々(さまざま)な状況があり、その状況のそれぞれに違った漢字が割り当てられていることが分かる。巡り逢(あ)わせ・・なら親しい人と人が出会う状況、巡り遇(あ)わせ・・の場合は、バッタリと出会う状況、巡り遭(あ)わせ・・ともなれば、悪い出来事に遭遇(そうぐう)した状況、巡り合わせ・・は、人以外の物に出会う状況などと、それぞれ使い分けられている。もう少し簡単なら国語の点数も上がるのに…と学生が思うようにもなる訳だ。^^
 とある教授と学生の会話である。
「それが、どういう訳か、出会わないんですよっ!」
「すれ違い・・なんてことはっ?」
「いや、それが妙なことにタイミングがズレまして…」
「プラスとプラス、あるいはマイナスとマイナスなんだな、君達のこういう関係はっ!」
「はあ? …どういうことでしょう?」
「つまり、君達は磁石(じしゃく)の極(きょく)なんだよ」
「… 極?」
「ああ、磁石のっ!」
「… ?」
「分からない人だなっ! マイナス極とマイナス極、プラス極とプラス極の磁石を近づければ、どうなる?」
「… 近づけません」
「そう!! つまり、それなんだよ。君達の巡りあわせはっ!」
「はあ…。そういうものでしょうか?」
「ああ。そういうものなんだよ、巡りあわせ・・って奴(やつ)はっ!」
「はあ…」
 訊(たず)ねた学生は、一方的に教授に押され、なんとなく得心(とくしん)した。
 巡りあわせ・・を分析すれば、男女差とは別に、人にはプラス極とマイナス極がその時々(ときどき)で生じることが窺(うかが)える。^^

                                


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分析ユーモア短編集  <47>  出来る

2019年01月16日 00時00分00秒 | #小説

 個人差があったとしても、人はある程度までは本人の努力で出来るのである。この出来る・・という言葉を分析すれば、そこには[出来る]という気持の有る無しが影響していることが分かってくる。早い話、出来ると思う気分次第ということだ。単に「ホニャララが出来る」と自慢して言う場合は、ただ出来るのであって、本人の努力とは関係がない。^^ 「やれば出来るから頑張りなさいっ!」と言われたときの出来るは、今は出来ないが、努力をすれば出来る・・という気持を含んでいる訳だ。「いや、私ならそれくらいは食べられるっ!」と自慢する場合の出来るは内臓の能力であって、本人の努力とは関係がない。^^
 とある総合体育館でママさんバレーの練習が行われている。女子コーチは地元出身の元オリンピック選手だ。
「もう少しっ!! あなた達なら必ず出来るからっ!」
 と言いながら、コーチは内心では『この人達には無理かも…』くらいの気持で、奇跡以外、とても出来るとは思っていない。
「はいっ!!」「はいっ!!」…
 ママさん選手達から明るい声が異口同音(いくどうおん)に飛び出す。
 そして、数日が経ったとき、コーチの思っていた奇跡が起こったりする。^^
「やれば出来るじゃないっ!! ねっ!」
 コーチは言った言葉どおりになったことで、『自分の指導で選手達は出来る…』と、自(みずか)らの出来る能力に自信を持つ。^^
 出来る・・という言葉を分析すれば、まあ、このように分析出来る。^^

                                


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分析ユーモア短編集  <46>  味(あじ)

2019年01月15日 00時00分00秒 | #小説

 囲碁のテレビ解説を観ていると、「あっ! そう出ますとホニャララですから、味(あじ)がなくなりますよねっ!」などと解説者が、さも全(すべ)てを知っているかのような口調(くちょう)で語っておられるが、[失礼! ^^]この味という言葉も、分析してみれば、味わい深いことが分かってくる。^^ 例えば、料理の味だと、「…なかなか深みがある、いい味ですなっ!」となる。芸能方面だと、「あの俳優さん、なかなか渋いいい味を出すねぇ~!」である。他にも、「女足軽のSF時代劇ですが、なかなか味わい深い、見応(みごた)えある作品に仕上がってますなっ!」などとなる。^^ 孰(いず)れにしろ、味わい深いことに変わりはないのだが…。^^
 とあるテレビ局の料理番組の収録中である。有名な早口の女性料理家が料理を作っている。裏方のマネージャーが料理家に合図を送るものだから料理家は作りにくくって仕方がない。だが、そうとも言えず、マネージャーのせいにするだけで、多くは語らないようだ。
「ど、どう!?」
 女性料理家は味見(あじみ)用の小皿(こざら)に鍋(なべ)の汁(しる)を少量入れ、忙(せわ)しなく女性アナウンサーの前へ差し出す。
「美味(おい)しいですねっ!」
 アシスタント・ディレクターが『あと、2分。急いで!』と書かれたカンペ[カンニング・ペーパーの略で、台本内容や構成を出演者に掲示する紙(主にスケッチブック)]を、見て下さいっ! と言わんばかりに、女性料理家の前へ突き出す。
「わ、分かってるわよっ!」
 笑いながら、女性料理家は呟(つぶや)く。
「えっ?」
 女性アナウンサーが怪訝(けげん)な顔で女性料理家を見る。
「いいえっ! いいお味でしょ!?」
 女性料理家は味で話を暈(ぼか)す。
「あっ、ああ! はい…」
 キツネに抓(つま)まれたように、女性アナウンサーは返す。
 分析の結果、味は、味よくいろいろな場面で使われている言葉だと分かる。^^

                                


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分析ユーモア短編集  <45>  暑い

2019年01月14日 00時00分00秒 | #小説

 冬に近づけば、寒い・・となるが、当然、夏に近づけば、暑い・・となる。これが四季の移ろいのいいところであり、悪いところでもある。[常夏(とこなつ)の地]と聞けば、快適なハワイのオアフ島とかフィージー諸島のいい気候を連想するが、正確には[常に過ごしやすい快適な気候の地]なのだ。暑いっ暑いっ!! と額(ひたい)の汗を拭(ふ)き、暑いを強調する人々が萎(な)える我が国の猛暑とは雲泥(うんでい)の差なのである。
 暑い・・という言葉を分析すれば、その感じ方にも人によって温度差があることが分かる。この場合の温度差は程度の違いを意味する言葉であり、「ニホンゴ ハ ムズカシイデスッ!」と外国の方々が困惑(こんわく)される気持も分かるような気がする。^^
 とある喫茶店である。クリスマスの夕方、クリボッチ[現代用語で、一人で寂(さび)しくクリスマスを過ごす人]がクリボッチを楽しんでいる。クリボッチの年数が続けば、羨(うらや)ましくなくなり、それはそれで楽しくなる・・というのが分析結果である。^^ 
 店内は暖房が利(き)いていないのか、冷えるほど低い。
「寒いなぁ~! ちょっと暖房、強くしてもらえませんかっ!!」
 店内にいる別の客が、思い余って、ひと声、店員にかけた。クリボッチにすれば、いい頃合いの温度だったから、少し不満が募(つの)ったが、彼は、言うでなく思うに留(とど)めた。
 しばらくすると、店内は暑くなってきた。暑い…と益々(ますます)、クリボッチの不満は募っていった。そのときだった。
「お待ちどうさまっ!!」
 顔馴染(かおなじみ)の女店員が、クリスマス限定サービスのケーキを運んで現れた。クリボッチは毎年のことでそのサービスを分かっていたから、ニッコリ微笑(ほほえ)み、軽く会釈(えしゃく)した。そして、
「もう一杯、いただけますかっ!」
 クリボッチはコーヒーを、おかわりした。
「はい…」
 女店員はトレイへ空(から)になったコーヒーカップを乗せ、微笑みながら去った。クリボッチは、いつの間にか、暖房が強まった暑さの不満を、女店員の微笑で忘れていた。
 分析の結果、暑い・・と思う気分は、小さないいこと・・があれば忘れ去られることが窺(うかが)える。^^

                                


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分析ユーモア短編集  <44>  寒い

2019年01月13日 00時00分00秒 | #小説

 冬に近づけば当然、寒くなるが、その寒いという言葉を分析すれば、なにも寒暖(かんだん)だけに使われる言葉ではないことが分かる。例(たと)えば、「ワッ、寒ッ!」 と、聞こえた場合、その言葉の真意として、[1]冷えて寒い、[2]言われたダジャレとかが拙(まず)く、その場の雰囲気が冷える。あるいは、とても笑えない・・といった二通りに分かたれることが分かる。
 一人の老人が古びた居酒屋で暖(だん)を取りながら一杯やっている。昔ながらの練炭(れんたん)炬燵(ごたつ)の上に金網(かなあみ)を置き、さらにその上には美味(うま)そうに焼けた油揚(あぶらあ)げが香(こう)ばしいいい匂(にお)い放(はな)つ。すでに前もって薬缶(やかん)の中で燗(かん)された酒をチビリチビリとやりながら、老人は焼けた熱々(あつあつ)の油揚げを小皿の醤油につけ、美味(おい)しそうに頬張(ほおば)る。顔がほんのりと赤味を帯び、老人はなんともいえないような笑顔で気持よさそうだ。
「おお、寒いっ! …ほう! 一杯、やられてますなっ!?」
 もう一人の老人が身体(からだ)を震(ふる)わせながら店へ入ってきた。顔馴染(かおなじみ)なのか、二人は顔と顔で挨拶するだけで、多くを語らない。入ってきた老人は向かい合いの椅子へ、練炭炬燵を取り囲むように座る。
「同じでよろしゅうございますかなっ?」
「ああ、はい。いつものように…」
 店主との会話が、このひと言で、すべてが事(こと)足りるのは、常連の強みだ。
「吟醸(ぎんじょう)・常夏(とこなつ)で寒さがやっつけられますからなっ! ははは…」
「仰(おお)せのとおりでっ! ははは…」
 談笑しながら飲み食いし、寒い冬の夜が過ぎていく。
 寒い・・を分析すれば、このように酒の肴(さかな)になることもある。だが店主は、二人の会話をいつも寒いっ! と感じて聞いている。^^

                                


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分析ユーモア短編集  <43>  思いついたが百年目っ!

2019年01月12日 00時00分00秒 | #小説

 思いついたが百年目っ! ・・という気持いい歌舞伎のような言い回しがある。正確には、ここで逢(お)うたが百年目ぇ~~! とかなんだろうが…。^^ この言い回しは、ふと、思いついた以上、やってしまうかっ! …といった前向きの気分で口にする言葉だが、これを分析してみると、良い場合、悪い場合の両方があることが判明する。良い場合は、やったお蔭で間に合った、やっていなければド偉いことになっていた・・ということになる。悪い場合だと、あのときやっていなければ…と後悔(こうかい)する破目になる早とちりによる失敗などだ。
 とあるサラリーマン家庭の一場面である。日曜ということもあり、この家のご主人は、かねてより思い描いていた日曜大工[DIY=do it yourself]を朝から始めていた。ところがこのご主人、そう手先が器用ではなかったから、少しやっては作業が停滞(ていたい)していた。
「これでは、昼どころか一日かかっても出来んぞっ!」
 怒る相手もなく自分に切れて愚痴りながら、ご主人は、とうとう腕組みをすると、さて…と考え込んだ。そのとき、ご主人に思いつかなくてもいいのに、妙な考えが浮かんだ。
「思いついたが百年目~~っ!」
 歌舞伎のようなひと言(こと)を小さく呟(つぶや)き、ご主人は何か得体(えたい)の知れないモノに取り憑(つ)かれたかのように忙(せわ)しなく動き始めた。その姿を遠目(とおめ)に、この家(や)の奥さんが眺(なが)めていた。ご主人の動きは尋常(じんじょう)ではなく、懸命に何かを探しているように奥さんには見えた。
「もう、お昼よっ! なに探してるのっ!?」
 奥さんは問いかけてみた。
「この棚(たな)に置いといた缶の蓋(ふた)はっ!?」
「缶の蓋? …ああ、それなら、一昨日(おととい)、燃えないゴミに出したわよっ!」
「遅(おそ)かりしぃ~由良介(ゆらのすけ)ぇ~~っ!」
 ご主人は、ふたたび歌舞伎のような言葉を小さく呟くと、作業を中止した。
 分析の結果、思いついたが百年目っ! は、必ずしも百年目ではないようだ。^^

                                


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