水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

分析ユーモア短編集  <54>  要領(ようりょう)

2019年01月23日 00時00分00秒 | #小説

 同じ物事をしても、要領(ようりょう)の良し悪(あ)しで結果に大きな差が出る。要領を分析すれば、その良し悪しの差は時間差に限ったことではなく、その後の生活に多大な影響を与えることになる。というのも、一つの物事が要領が良いことによって、次の物事をやり易(やす)くするからだ。ただ、要領がいいからといって、結果が必ずしも良くはならないという点だけは留意(りゅうい)しておくべきだろう。要領が良すぎると、あいつは要領のいいヤツだっ! …などと思われることもあるからだ。そんなことはどうでもいいっ! 自分は好きなことをして好きに生きるっ! と言われるお方もあろうが、確かにその考えも一理あり、否定は出来ない。杓子定規(しゃくしじょうぎ)に生きず、好きなことをして愚直(ぐちょく)に生きる人生には、新しい可能性が芽生(めば)える可能性もあるからだ。^^ ただし、危険と隣(とな)り合わせということも覚悟しておかねばならないだろう。その危険性を避(さ)けたいなら、人がなんと言おうと思おうと、同じことを愚直に繰り返して生き続けることが懸命(けんめい)だということになる。
 とある中学校の美術の時間である。美術室の中では生徒達が粘土の塑像(そぞう)作りをやっている。モデルは小皿(こざら)の上に盛られた三本のバナナだ。
「どうだっ! 出来たかっ!!」
 偉そうに生徒達へ声をかけたのは美術教師、秋野(あきの)である。
「おお、なかなかいい出来じゃないかっ、田野(たの)っ!!」
 田野は要領のいい生徒で、なかなか上手(うま)く出来ないものだから、チャッカリと斜め前の生徒、仮庵(かりほ)の塑像を真似(まね)て僅(わず)か5分で作ったのである。
「ええ、まあ! 僕はこういうの得意ですからっ!」
 田野は悪びれもせず、したり顔で答えた。
「そうかっ! これなら十分、展覧会へも出せるぞっ!」
「そうですかぁ~?」
 田野は、ますます、したり顔になった。二人の会話を何げなく聞いていた斜め前の仮庵は、『そ、それは僕の真似ですっ!…』とは思ったが、そうとも言えず粘土の手で、ぅぅぅ…と泣けた。
 ━ 秋の田の 仮庵の庵(いほ)の 苫(とま)をあらみ わが衣手(ころもで)は 露(つゆ)に濡(ぬ)れつつ ━ である。^^
 まあ、そんなことで、でもないが、分析の結果、要領よくやられると、要領の悪い人々は泣けることになるようだ。^^

                                


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