水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

分析ユーモア短編集  <53>  馬鹿正直(ばかしょうじき)

2019年01月22日 00時00分00秒 | #小説

 世の中で使われる言葉の一つに馬鹿正直(ばかしょうじき)という譬(たと)えがある。この言葉を分析すれば、悪口ではないものの、その正直さには、聊(いささ)か疑問を感じる・・といった意味合いで使われる場合が多いことが分かる。何事(なにごと)も程度ものだ・・という意味を含んでいる言葉ということだ。そんなことはどうでもいいっ! と思われる方は、カラオケでも唸(うな)っていただいていればいい。ただし、ご近所迷惑にならない程度でお願いをしたい。^^
 ここはとある釣(つ)り堀(ぼり)である。客の老人が朝から糸を垂(た)れているが、いっこう当たりがない。時はすでに昼前になっていた。その姿を少し離れた対面の岸から別の中年男が気の毒そうな顔で見ていた。というのも、その男の釣果(ちょうか)は上々で、腹が減ったからそろそろお開きにしようか…と思った矢先だったのである。一匹も釣れずに居続ける老人を、なんとも、気の毒に思えたのも無理からぬ話で、馬鹿正直なお方だ…とも思えていた。
「こっちは、よく釣れますよっ!!」
 中年男は、思わず声を飛ばしていた。
「ああ、どうもっ!! 私、ここが気に入っておりますのでっ!!」
「ああ、そうでしたかっ!! ははは…!!」
 中年男は、言わなきゃよかった…と後悔(こうかい)した。
 分析の結果、すでに一つのスタンス[物事に取り組む姿勢]となっている馬鹿正直な人には、何を言っても無駄だということが分かる。^^

                                


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