本日9月15日は、東ローマ皇帝コンスタンス2世が暗殺された日で、コスタリカ・グアテマラ・ホンジュラス・ニカラグア・エルサルバドルがそれぞれスペインからの独立を宣言した日で、ビーグル号による世界探検の途上のチャールズ・ダーウィンがガラパゴス諸島に到達した日で、戊辰戦争で二本松城が落城した日で、日清戦争で平壌の戦いがあった日で、伊藤博文らが立憲政友会を結成した日で、中華民国の直隷派と奉天派の間で第二次奉直戦争が勃発した日で、日満議定書が調印されて日本国が満州国を承認した日で、国家社会主義ドイツ労働者党ナチス・ドイツがユダヤ人の定義を規定しその市民権を否定するニュルンベルク法を制定した日で、文部省が戦後教育の基本方針「新日本建設ノ教育方針」を発表した日で、朝鮮戦争の仁川上陸作戦で国連軍がソウルを奪還した日で、朝日麦酒が日本初の缶ビールを発売を始めた日で、ニキータ・フルシチョフがソビエト連邦の指導者としてはじめてアメリカ合衆国を訪問した日で、最高裁判所が特別抗告を棄却して麻原彰晃=松本智津夫の死刑が確定した日で、アメリカ証券大手リーマン・ブラザーズが連邦倒産法第11章の適用を申請し倒産した日です。
本日の倉敷は雨でありましたよ。
最高気温は二十八度。最低気温は二十三度でありました。
明日は予報では倉敷は曇りとなっております。
靜な晩である。
空気は柔かく湿つて、木々からは甘酸い酸性の馨りが快く重く眠たい夜気の中に放散している。
到るところに陰翳の錯綜があつた。
夏と空きの混り合つた穏やかな何処となく淋しい景物が、今ぱつと咲いた銀色の大花輪のやうな月光の下で微かに震えながら擁き合つている。
何処にも動くものがなかつた。
何処にもものを云う声が聴えなかつた。
其の沈黙が一層聞えない囁きの優しさと見えない魂の団欒を想わせるような夜の内を二人はパブリツク・ハウスに向つていた。
二人はいつかあらゆる日常生活の煩しさから開放されていた。
単調になりがちな関係にさつと差した輝きのやうな新鮮さが二人の内に夢をかきたてた。
忘我と魂の鼓動がまるで月光のやうに二つの心を耀かせているのである。
長い林を抜けると道は急に開いて、二人の前には寝靜まつて森閑とした大通りが黒く現われた。
其処を横切る踏切りを抜けて一二丁行つた処に二人が向かうパブリツク・ハウスが大きな樺の樹に覆われて建つているのである。
過去幾年か通り過ぎ踏み馴れた其の道を今二人は輝きに騎るやうな心持で履み越えやうとしているのである。
眠つた家々の屋根や動かない樹々の重い梢々が高い透明な大空の穹窿の下に見えない刻々を彫みながら少しばかりずつ地殻の彼方へずり落ちて行くような感じを与えた。
樹蔭の闇から月光を反射する窓硝子や扁平な亜鉛屋根の斜面が不思議に悒鬱な銀色で周囲の闇を一層際立たせ、同じやうな薄ら寒い脊骨を刺すやうな光線は土に四本並んで這う鋼鉄の線路からも反射しているのである。
線路の傍に小さく建った番小屋の傍まで来ると、今まで先輩に体を持せかけるようにしていた狐は、急にぱつちりと眼を見開きながら身を起して空を見詰め、「好い月ですね」と云つた。
先輩は「ん? その台詞は『我愛你』と捉えてよいのかな? ん?」と云つて澄ました顔をしている。
狐は頭を傾けて彼方に流眄を与えると其の儘先輩の自信を無視して歩調を速めた。
月が照つている。
窓々の硝子は光り、樹々が眠つている。
深閑とした夜の空気……。
其のパブリツク・ハウスは極小さかつた。
然しパンの神の額の下には赫い鉢に植ゑたゴムの樹が一本、肉の厚い葉をだらりと垂らしてゐた。