本日11月3日は、太安万侶が『古事記』の編纂に着手した日で、ルイ16世の処刑に反対したオランプ・ド・グージュにギロチン刑の判決が下り即日処刑された日で、宮中で「君が代」が初めて披露された日で、ドイツ革命が始まった日で、日本国憲法が公布された日で、ソ連がライカ犬を乗せた人工衛星「スプートニク2号」を打上げた日で、蜜柑の日です。
本日の倉敷は晴れでありましたよ。
最高気温は二十度。最低気温は八度でありました。
明日も予報では倉敷は晴れとなっております。
狐が知人の家の門を出る時、友人達は桜の樹の所に集まつてゐました。
其れは星祭に青い灯りを拵えて川へ流す烏瓜を取りに行く相談らしかつたのです。
けれども狐は手を大きく振つてとことこと知人の家の門を出ていきました。
藏屋敷が立ち並ぶ町の家々では銀河の祭りにいちゐの葉の玉を吊るしたり檜の枝に灯りをつけたりいろいろ仕度をしてゐました。
家へは帰らず狐が三つ曲つて或る大きな活版処に入つて直ぐ入口の計算台に居ただぶだぶの白い襯衣を着た人に御辞儀をして靴を脱いで上りますと、突き当りの大きな扉を開けました。
中は電燈が点いて沢山の輪転器がばたりばたりと回り、布で頭を縛つたりラムプシェードをかけたりした人達が何か歌ふやうに讀んだり数へたりしながら沢山働いて居りました。
狐は直ぐ入口から三番目の高い卓子に座つた人の所へ行つて御辞儀をしました。
其の人は暫らく棚を探してから「これだけ拾って行けるかね?」と云ひながら一枚の紙切れを渡しました。
狐は其の人の卓子の足元から一つの小さな平たい函を取り出して向ふの電燈の沢山点いた立てかけてある壁の隅の所へ座り込むと小さなピンセットでまるで粟粒ぐらゐの活字を次から次と拾ひはじめました。
青い胸当をした人が狐の後ろを通りながら「お早う」と云ひますと、近くの四五人の人達が声もたてずこつちも向かずに冷く嗤ひました。
狐は何回も眼を拭ひながら活字をだんだん拾いました。
狐が拾う活字で組み立てられる文章はエロい文章です。
セクハラであります。
羞恥プレイであります。
狐は屈辱に身を震わせました。
でもお仕事であります。
狐は顔を真つ赫にして無言で活字を拾いました。
暫らくたつた頃。
狐は拾つた活字をいつぱい入れた平たい箱をもう一度手に持つた紙切れと引き合わせてからさつきの卓子の人へ持つて来ました。
其の人は黙つて其れを受け取つて微かに頷きました。
狐は御辞儀をすると扉を開けてさつきの計算台の處に来ました。
するとさつきの白服を着た人がやつぱり黙つて小さな木の葉を一枚狐に渡しました。
狐は俄かに顔色が良くなつて威勢良く御辞儀をすると台の下に置いた鞄を持つて表へ飛びだしました。
それから元気良く口笛を吹きながら麺麭屋さんへ寄つて麺麭の塊を一つと角砂糖を一袋買ひますと一目散に走りだしました。