本日7月2日は、唐の初代皇帝李淵の次男李世民が宮中に乱入して長兄の皇太子李建成と弟李元吉を暗殺して実権を掌握した日で、山崎の戦いで羽柴秀吉が明智光秀を破りった日で、イタリア王国による教皇領の占領後初めてイタリア国王ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世がローマに入城した日で、チャールズ・J・ギトーがワシントンD.C.でジェームス・ガーフィールド大統領を銃撃して重傷を負わせた日で、ドイツのフリードリッヒシャフェンで飛行船ツェッペリン号が初飛行を行った日で、田中義一内閣が総辞職した日で、長春北西に位置する万宝山に入植中の朝鮮系日本人とそれに反発する現地中国人農民との水路に関する小競り合いで中国の警察と日本の警察と中国人農民が衝突した事件が起こった日で、世界一周飛行中の女性飛行士アメリア・イアハートが南太平洋で消息を絶った日で、金閣寺放火事件が起こった日で、毛沢東が発動した大躍進政策の失敗が明らかとなったあとの中国共産党中央政治局拡大会議と第8期8中全会で中国共産党幹部が彭徳懐ら4人を「彭徳懐反党集団」と政治的なレッテル張りをし『彭徳懐同志を中心とする反党集団の誤りに関する決議』や『党の総路線を守り右傾機会主義に反対し闘争する』議案を採択して4人が大躍進を批判して経済発展に反対したとして彭徳懐ら4人を失脚させた日で、学生が安田講堂を再びバリケード封鎖した日で、タイ政府がタイバーツの変動相場制を導入した日です。
本日の倉敷は曇りでありましたよ。
最高気温は二十七度。最低気温は二十二度でありました。
明日は予報では倉敷は雨となっております。お出かけの際はお気を付けくださいませ。
今は昔。狐がまだ幼かった頃のこと。
枕に就いたのは黄昏の頃。
之を逢魔時、雀色時などといふ一日の内で人間の影法師が一番ぼんやりとする時に起つた事。
狐が十の夏のはじめ。
部屋は四疊敷けた。
薄暗い縱に長い一室、兩方が襖で他の座敷へ出入が出來る。
詰り奧の方から一方の襖を開けて、一方の襖から玄關へ通拔けられるのであつた。
一方は明窓の障子がはまつて、其外は疊二疊ばかりの漆喰叩きの池で金魚が居る。
其日から數へて丁度一週間前の夜。
夕飯が濟んで部屋の卓子の上で燈下に本を讀んで居た。
前後も辨へず讀んで居ると、狐の卓子を横に附着けてある件の明取りの障子へ、ぱら/\と音がした。
忍んで小説を讀む内は木にも萱にも心を置いたので、吃驚して振返へると又ぱら/\ぱら/\といつた。
雨かしら?
時しも夏の初め也。
洋燈に油を注す折りに覗いた夕暮れの空の模樣では、今夜は眞晝の樣な月夜でなければならないがと思ふ内も猶其音は絶えず聞こえる。
おや/\裏庭の榎の大木の彼の葉が散込こむにしては風もないがと、然う思ふと、はじめは臆病で障子を開けなかつたのが、今は薄氣味惡くなつて手を拱ぬいて思はず暗い天井を仰いで耳を澄ました。
一分、二分、間を措いては聞こえる霰のやうな音は次第に烈しくなつて一時は呼吸もつかれずものも言はれなかつた。
暫くして少し靜まると、再び怠けた連續した調子でぱら/\。
思ひ切つて障子を開けた。
池はひつくりかへつても居らず、羽目板も落ちず、月は形は見えないが光は眞白にさして居る。
とばかりで、何事も無く手早く又障子を閉めた。
音はかはらず聞こえて留まぬ。
何だか屋根のあたりで頻りに礫を打つやうな音がした。
ぐる/\渦を卷いちやあ屋根の上を何十ともない礫がひよい/\駈けて歩行く樣だつた。
一週間が經つた。
黄昏は少し風の心持ち。狐は熱が出て惡寒けがしたから掻卷にくるまつて寢た。
眠くはないので、ぱちくり/\目を明いて居ても、物は幻に見える樣になつて、天井も壁も卓子の脚も段々消えて行く心細さ。
枕頭へ……ばたばたといふ跫音。
ものの近寄る氣勢ひがする。
枕をかへして頭を上げた。
が、誰れも來たのではなかつた。
しばらくすると再び、しと/\しと/\と摺足の輕い譬えば身體の無いものが踵ばかり疊を踏んで來るかと思ひ取られた。
また顏を上げると何にも居らない。
其時は前より天窓が重かつた。
顏を上げるが物憂かつた。
繰返へして三度、また跫音がしたが、其時は枕が上がらなかつた。
室内の空氣は唯彌が上に蔽重つて、おのづと重量が出來きて壓へつけるやうな!
鼻も口も切なさに堪へられず、手をもがいて空を拂ひながら呼吸も絶え/″\に身を起こした。
足が立つと思はずよろめいて向うの襖へぶつかつたのである。
其のまゝ押開けると、襖は開いたが何となくたてつけに粘氣りけがあるやうに思つた。
此處では風が涼しからうと、其れを頼みに恁うして次の室へ出たのだが矢張り蒸暑い。
押覆つたやうで呼吸苦い。
最う一つ向うの廣室へ行かうと、あへぎ/\六疊敷を縱に切つて行くのだが瞬く内に凡そ五百里も歩行いたやうに感じて、疲勞して堪へられぬ。
取縋るものはないのだから、部屋の中央に胸を抱いて、立ちながら吻と呼吸をついた。
かの恐しい所から何の位ゐ離れたらうと思つて怖々と振返へると、ものの五尺とは隔たらぬ狐の居室からちうと鳴き声がする。
ちう?
思はず駈け出した狐の身體は疊の上をぐる/\まはつたと思つた。
其のも一つの廣室を夢中で突切つたが、暗がりで三尺の壁の處へ突當つて行處はない。
此處で恐しいものに出遭うのかと思つて、あはれ神にも佛にも聞こえよと叫んだ。
小さな獣め。ちうちう鳴くあ奴等。天井裏で跋扈するだけでなく室内にまで版図を広げたか。
怖いよぉ。
熱に魘されながら叫んでいた狐は其の儘気絶した。
ちうちう鳴くあ奴等がどうなったのかは知らない。
其の日からあ奴等の足音は聞こえなくなつた。
何処かにお引越しをしたのだろうと思ふ。