羊日記

大石次郎のさすらい雑記 #このブログはコメントできません

アルスラーン戦記 1

2015-04-15 19:56:15 | 日記
3年の年月が経ち、成長したアルスラーンは剣術稽古でヴァフリーズに食い下がるようになっていた。ヴァフリーズは変わらず片手だが上着を取り、木剣ではなく刃の無い練習刀? で王子の相手をしていた。「せぁあッ!!」気合いと共に打ち込むアルスラーンだったが、剣は弾かれた。以前のようにふっ飛ばされたりはしていないが、端正な顔を曇らせるアルスラーン。「またか、何度やってもダメだぁ」「確実に上達しておいでです」「言われても実感が、戦にでも出れば解るのだけどろうけど」「パルスに今、戦を仕掛ける輩がいるとは思われませんな。殿下の御活躍は先になりそうです」ヴァフリーズは泰然と言った。と、ここでヴァフリーズの元へ伝書が届いた。暫く目を通し、細い目を見開くヴァフリーズ! 「何が書いて有る、ヴァフリーズ?」「戦が始まるようです、殿下」唐突な話にアルスラーンは呆気に取られた。
ルシタニアは力を付け、パルスの隣国マルヤムを滅ぼし、再びパルスへ進軍! パルス軍は『晴天』のアトロパテネ平野でこれを迎え撃とうとしていた! 初陣となるアルスラーンは側に居た万騎将カーラーンは、緊張した様子の王子にパルス軍には名だたる猛将名将が揃っており、更にパルス軍はアトロパテネ平野の地形に精通していて有利であると語り、王子を勇気づけた。話す内に上空からアズライールがアルスラーンの元へ舞い降りて来た。アズライールに触れたアルスラーンは奇妙に感じた。「アズライールの羽が湿っている」側のカーラーンは堅い表情をした。「こんなに晴れているのに、おかしくないか?」「もう一度偵察に行って参ります」わざわざ自ら馬を出すカーラーン。周囲の兵はアルスラーンの不安気な様子を頼りないといった風に囁いた。
     2に続く

アルスラーン戦記 2

2015-04-15 19:56:06 | 日記
その場に残るような素振りを見せたが、アルスラーンに促され、アズライールは国境を守るキシュワードの元へと飛び去った。
程なく、不可解な濃霧がアトロパテネ平野を覆った。益々不安気なアルスラーンにかつて救った少年兵達は命を捨てて守ると改めて誓ったが、「一緒に帰ろう」とアルスラーンは答え、少年兵を感激させた。そこにヴァフリーズが馬で現れた。「殿下、余り陣から離れなさるな」「この霧では道を見失ったら大事ですぞ」「この霧は不利ではないか?」心配するアルスラーンを、ヴァフリーズがまた稽古を付けよう等と混ぜっ返して慌てさせていると、使いの兵がヴァフリーズの元へ来た。ダリューンがアンドラゴラス王を怒らせたという!
「見損なったぞダリューン! そなたの口から退却等という言葉を聞こうとはな!!」馬鞭を手に怒りを露とするアンドラゴラス王。「私は臆病で申し上げているのではございません」「戦士が戦いを避ける。それが臆病でなくて何だというのだ!」「陛下、お考え下さい。我がパルス軍の騎兵が強力であることは諸国に知れ渡っております。何故、ルシタニアは騎兵に有利な平原で待ち受けているのでしょうか? 何やら罠を仕掛けていると思えます。ましてこの霧です。味方同士の動きさえよくわかりません。一先ず後方へ下がって王都エクバターナの手前に陣を敷き直すべきかと」「弓や剣よりいつの間にか口の方が達者になったようだな」馬鞭を突き付けるアンドラゴラス王。「地理に暗い蛮人どもがどのような罠を仕掛けると?」「そこまでは分かりません。ですが、ルシタニア軍に手引きするものが居れば」
     3に続く

アルスラーン戦記 3

2015-04-15 19:55:57 | 日記
「彼等が地理に暗いとは言えなくなります!」「我が国の者が蛮人どもに協力していると? 有り得ぬ!!」「御言葉ですが有り得ることです!」アンドラゴラスの怒りが増す中、ヴァフリーズと何故か付いてきたアルスラーンが王の天幕に入って来た。「逃亡した奴隷が復讐の為にルシタニアに協力するかも知れません」アンドラゴラスは馬鞭でダリューンの肩を打った! 息を飲むアルスラーン。アンドラゴラスはダリューンを間近で睨み付けた。「奴隷がどうしたと? 何やら利口気な口を利くと思ったら、あの追放者、ナルサスめにろくでもない考えを吹き込まれたか?!」「友人ではありますが、ここ数年、一度も会っておりません」「あ奴が友人だと? よく言った!」馬鞭を投げ捨てたアンドラゴラスは抜き打ち様に剣でダリューンの胸章飾りを斬り落とした! 「汝のマルズバーン(万騎将)の任を解く。マルダーン(戦士)とシールギール(獅子狩人)の称号を取り上げぬのはせめてもの情けと思え! 出てゆけ! 二度とわしの前に姿を現すな!!」激昂するアンドラゴラスはアルスラーンに気が付いた。
「呼びもせぬのに何をしに来たか?! アルスラーン! 己の武勲のことだけ考えておれ!!」ヴァフリーズはダリューンに歩み寄った。「叔父上?」ヴァフリーズは無言でダリューンを平手で殴り付けた!「この慮外者が! 大恩有る陛下に口答えするとは何事か!」「叔父上! 私は」ヴァフリーズは食って掛かる様子を見せたダリューンを裏拳で殴り付けた! 鼻血をだすダリューン。しかしダリューンは我に返り、一息で鼻血を抑え、畏まりアンドラゴラスに頭を下げた。「身分をわきまえず、出過ぎた真似を致しました。陛下」ヴァフリーズも膝を着き頭を下げた。
     4に続く

アルスラーン戦記 4

2015-04-15 19:55:45 | 日記
「陛下! 不心得な甥めが失礼を致しました。この老骨がお詫び致します。何とぞ御慈悲を持ちまして甥めの罪を御許し賜れ」二人を見下ろしていたアンドラゴラスは幾らか静まってきた。「もうよい、ヴァフリーズ。ダリューン、復職の機会をくれてやろう。本陣付きの騎士としてこの度の戦に臨め。武勲次第で罪を購うこともできよう」「御厚恩、感謝の言葉もございません」アルスラーンの姿が再び目に入ったアンドラゴラス。「何だ? まだおったのか!」「直ぐ、出て行きます。御安心を」アルスラーンは視線を逸らした。
王の天幕を出るとダリューンはアルスラーンを気遣ったが、アルスラーンは「構わないよ、お前は正しいことを言ったのだろう?」と柔らかく答え、件の少年兵達と共に自分の陣に去って行った。「アルスラーン殿下の御顔立ちをどう思う?」唐突にヴァフリーズはダリューンに問うた。「は?」「国王と王妃とどちらに似ておいでだろうか?」「強いて言えば、王妃様の方でしょうか?」「なるほど」ヴァフリーズは思案顔をした。「ダリューン、アルスラーン殿下に忠誠を誓ってくれぬか?」「私はパルス王家に」「殿下個人にじゃよ」「分かりました。叔父上が御望みと有らば」「剣に賭けて誓うか?」「はい、剣に賭けて。何なら誓約書を差し上げましょうか?」ダリューンは冗談めかした。「いや、充分じゃ。お前にだけは殿下の味方であって欲しいのじゃ。お前はマルダーンフ・マルダーン(戦士の中の戦士)でもあるから」「叔父上」ダリューンが冗談ではないことに驚いていると、出撃の合図が鳴った!!
「武勲を立てれば、王子として認めて貰えるだろうか?」髪を解いたアルスラーンは呟き、兜を被った。
     5に続く

アルスラーン戦記 5

2015-04-15 19:55:30 | 日記
「ヤシャシーン(全軍突撃)ッ!!!」アンドラゴラスの号令と共にパルス軍は霧の向こうに見えたルシタニア軍に突貫を始めた! 「殿下!」呆然としていたアルスラーンも兵に促され、慌てて自分の隊に「ヤシャシーン!」と号令を出した。
カーラーンの話では『前方』は何も無い平原で馬に任せて突撃して問題無い、筈だった。「デァアアッ!!! おおぉッ?!!」前方の平原一面の横一文字に深い壕が掘られていた!! 為す術無く壕に落ちて行く先陣のパルス兵達!! 更に壕の中には油が! ルシタニア兵は壕に火矢を放った!! 「いけない!」不用意に先陣に加わったものの何とか壕への落下は回避したアルスラーンは愕然とした。壕は燃え上がった!! 焼き尽くされる壕に落ちたパルス兵! 更に霧に隠されていた攻城搭まで投入され、パルス軍は総崩れとなった!!
馬の尻を打たれ無理矢理単騎で逃がされたアルスラーンは、追い縋った敵兵に馬を突かれ落馬させらるが、意外な剣技で敵の矛先を落とし、落とした矛先を相手の馬に刺して相手も落馬させると「異教徒めッ!!」と突き掛かってきた相手を逆に剣で刺し貫き、仕止めた!
兜を飛ばされ、返り血を浴びたアルスラーンは動転したまま戦場をさ迷った。「ハァハァ、父上、ダリューン! ヴァフリーズ。アズライール、誰か」自分を庇って突貫したお付き少年兵の一人の死体を見付けると「誰かぁーッ!!」アルスラーンは絶叫した。
とあるルシタニア兵二人が拾ったアルスラーンの兜でふざけていた。禿げた方が被ってみせ、もう片方が「これ以上光り物乗せてどうすんだ?」等と言っていると、禿げは即ダリューンに首を落とされた。「その兜、何処で拾った?」ダリューンは残った一人に問うた。
     6に続く