羊日記

大石次郎のさすらい雑記 #このブログはコメントできません

アルスラーン戦記 1

2015-04-29 19:59:09 | 日記
一度アルスラーンの姿を認めてから、改めてダリューンに絵筆を差し向けたナルサス。「丁度筆が乗ってきたのによくも邪魔をしてくれたな、ダリューン」「おう、それは良いことをした。ガラクタの絵が世に出るのを阻止してやったぞ」軽口で答えるダリューン。「何をぅ!」ムッとしてみせたナルサス。旧友同士は少しの間、向かい合った。ダリューンはアルスラーンと共にナルサスに歩み寄った。「こちらは」紹介しようとしたダリューンを遮り、アルスラーンは自分で名乗り始めた。「ナルサス、アンドラゴラス王の子、アルスラーンだ。噂は聞いている」「今は隠者に過ぎませんよ。アルスラーン殿下」ナルサスは答えた。
アルスラーン達はナルサスの山荘に通された。「エラム、ご苦労だが、食事の用意をしてくれ」「はい」エラムが手早くと料理の支度を始めた。「大したもてなしもできませんが」ナルサスは絵具を片付け始めた。「世話になる」アルスラーンは中へ進み、噂のナルサスの画を見た!「ヘェぇッ?!」息を飲み凍り付くアルスラーン!「見てはなりませぬ」うんざり顔のダリューン。震えるアルスラーン!「これは、絵?」アルスラーンが混乱しているとナルサスが振り返った。「どうなさいました?」慌てるアルスラーン。「ふわぁッ! よ、凄い物を、おわッ?!」後退りつまずいて転んでしまった!「殿下!」すかさず助け起こそうするダリューンだった。
エラムの作る料理が揃った。ランプの灯る食卓は低く、アルスラーン達は胡座をかいてそれを囲んだ。串焼きやシチュー、薄切りのパン等の素朴な物だった。「さあどうぞ、温かい内にお召し上がり下さい」ナルサスに促され、アルスラーン達は食事を始めた。「旨い!」エラムが鋭く見詰める中、アルスラーンはシチューに感動した。
     2に続く

アルスラーン戦記 2

2015-04-29 19:58:59 | 日記
「宮廷にいたのか?」「はい、書記官として」「こやつは、大層な奇策でパルスを救ったことがあるのです」やたら串焼きの串でナルサスを指し示すダリューン。「ほお、どのような策だ?」「昔の話です」ナルサスは慎重に答えた。
5年前、隣国のトゥラン、シンドゥラ、チュルクの3国が同盟を結び、パルスに進行した。ナルサスは急死した父に代わり、手勢と共にアンドラゴラスの元に参上したが、奴隷を解放してしまい騎士の多くも呆れて去り、ナルサスの兵は父の代よりも大幅に縮小しており、アンドラゴラスの不興を買っていた。これに「陛下、お望みとあらば私の策を持って三ヵ国同盟を退散させて御覧に入れます」動じずに言って見せたナルサス! アンドラゴラスは「失敗した時の面を拝んでやろう」と面白がり実行させた!
ナルサスは自軍に説明無く手勢を率いて暫く消え、戻るとシンドゥラ軍の捕虜を解放してしまった。当然現場のパルス兵は激怒し、決闘を挑まれる等したが、ナルサスはそれなりの剣技で挑んだ者を退け、「仲間割れしている場合かッ! 今夜の内に三国同盟は崩れ去る!!」と宣言し、その夜、ナルサスの言葉通り三国同盟は崩壊! 同士討ちを始め、乗じてパルス軍は突貫し、三国纏めて打ち払い、その騎馬の強さを大陸中に轟かせた!
昔話に、「どのような策を労したのだ?」わくわくしてきたアルスラーン!「一片の流言は十万の兵に勝ると申します」当時、ナルサスはチュルクに対しシンドゥラはパルスと内通しており、その証拠にパルスはシンドゥラの捕虜を解放した、と流言を流し。トゥランにはチュルクがパルスと内通している。と流言を流し、解放したシンドゥラの捕虜にはトゥランとチュルクはパルスと講和を取り付け、
     3に続く

アルスラーン戦記 3

2015-04-29 19:58:50 | 日記
シンドゥラを攻撃すると流言を流した! 三国は疑心暗鬼に駆られついには同士討ちを始めたのであった!!「ふわぁ! 大した策士だなぁ!」感心するアルスラーン。食事もいつの間にか済んでいた。「おかげで一心地着いた、礼を言う」「礼には及びません、殿下。私は先程お話しした奇策で、御父君から一万枚もの金貨を頂きました。今日の食卓は銀貨一枚にも及びません。さて」エラムが食器を下げる中、ナルサスはダリューンに向き直った。
「詳しく話しを」「カーラーンが裏切った」「業と策と人斬りと、裏切り者を使う、どうやらルシタニアの蛮族どもに知恵者がいるようだな」「そうだ。そこで殿下の為にお主の知恵を借りたいのだ」「ダリューン、今更浮世と縁を持つ気は無い」「しかし!」ダリューンは詰め寄った!「山奥で下手な絵を描き散らしているより遥かにマシだろう!」カチンと来たナルサス! 卓を叩き、アルスラーンに訴えた!
「この男を信用なさってはいけませんぞ、殿下! こいつはマルダーンフマルダーン(戦士の中の戦士)で物の道理を弁えておりますが! 芸術を理解する心を持ちません!!」「何が芸術だ!」ナルサスは立ち上がり、天を仰ぎ右手を胸に当て左手は明後日の方角を指し示した!「芸術は永遠! 興亡は一瞬!」エラムは残りの食器を下げた。「ふふ」アルスラーンは吹き出した。「一瞬が今この時とすれば、手をこまねいてはいられない!」アルスラーンも立ち上がった。
「どうかナルサス、お主の考えを聞かせてほしい!」ナルサスを見詰めるアルスラーン。「さて、考えと言われましても。殿下、今更申し上げるのも詮無きことながら、父王陛下は奴隷制度廃止なさるべきだったのです」
     4に続く

アルスラーン戦記 4

2015-04-29 19:58:41 | 日記
アルスラーンとダリューンは戸惑った。ナルサスは一瞬顔を抑え、また少し弛んだ表情に戻った。「このような考えゆえ、私は父王に大層嫌われてしまいました」「それなら、私もダリューンも父上に嫌われておる。どうせなら仲良く嫌われようではないか」驚くナルサス、まっすぐナルサスを見るアルスラーン。「誠に非礼かと存じますが御約束はできません。ただ、ここにおいでの間はできるだけのお世話をさせて頂きます」「わかった。無理を言って済まなかった」ナルサスはアルスラーンを見ていた。
話し合いの後、アルスラーンは眠りに就き、エラムはアルスラーンとダリューンの馬の世話をしていた。ダリューンとナルサスは酒を飲み、まだ話していた。「俺がセリカに行っている間に、追放されているとはな、ナルサス」「どうだぁ? セリカにいい女はいたか?」「ナルサス!」ナルサスは軽口は諦めた。「アンドラゴラス王は戦には強いが政治を軽んじ過ぎる。アトロパテネもそうだ。過信し、戦法を軽んじた結果がこれだ」「殿下には王の轍を踏んでほしくない」「どうだ? ダリューン、お前から見てアルスラーン殿下という人物は?」ダリューンは思い返した。
「此度は、置き去りにした兵を気に掛け落ち込んでおられた。カーラーンの裏切りにも怒りよりも悲しみが勝ったようだ。繊細で優しい方だ。だが、そこが心配だ。伯父上も殿下個人に忠誠を尽くせと」「ヴァフリーズ殿が?」「あの言い方は引っ掛かる。タハミーネ王妃にあれ程甘い王が、殿下に妙に冷たくてな。王妃も殿下を遠ざけているかのようだ」ナルサスはその話に何か思い当たるようでもあった。
明けた早朝、山荘の側の水辺でナルサスが例の、画を描いていた。
     5に続く

アルスラーン戦記 5

2015-04-29 19:58:28 | 日記
目覚めたアルスラーンはその様子を見ていた。作品はともかく、本人は至って真剣な様子だった。調理場ではエラムがシチューを作っていた。「エラム」「おはようございます」「何か、手伝いをさせてくれ」と言って手近な皿を次々と落として割るアルスラーン!「すまない」「どうかお手を出されませぬよう。手伝いには及びません」手伝いを諦めたアルスラーンだったが、その場に残りエラムの仕事ぶりを眺め始めた。
「手馴れたものだ」「長いこと仕えておりますから」「一つ、聞かせてくれぬか? エラムの両親は奴隷から解放されたのであったな」「はい、ナルサス様が相続なされた時のことでございます」「ならば、自由の身であろう」エラムは振り返った。「私の意思で、お側におります!」いつかのルシタニア人の『人は皆、平等だ!』という言葉を思い出すアルスラーン。『だが異教徒は殺し、差別する』の件はここでは思い出さない人の良いアルスラーン。「やはり、奴隷は解放すべきなのだろうか?」「御自分で御考えなさいませ」つんけんするエラムだった。
騎馬のパルス兵数名が山荘近くに来た! ナルサスは足早に山荘の中に戻り、ダリューンは様子を伺った。カーラーンの部下達だった。最初は追っ手の手際に感心したナルサスだったが、すぐに察した!「お前、カーラーンの城の近くを通ったな?! この悪党めッ。最初から俺を巻き込むつもりだったな!」「お前の知略を尊しとすればこそだ。こうなったら芸術とやらは諦めて殿下にお仕えするのだな、クックックッ」悪い顔をするダリューン!
カーラーンの部下達は断り無く、山荘に入ってきた。ナルサスとエラムは対峙した。アルスラーンとダリューンは天井だ!「ナルサス卿、それに相違ありませんな?」
     6に続く