ドイツのオイゲル・ヘリゲルは、1924年に仙台の東北帝国大学に招かれ約5年間、哲学等を講じた
ヘリゲルは来日直後から熱心に弓道の修行に励んだ。帰国の際には五段の免状を与えられる程の本格的な鍛練だった
また、彼が弓道を志したのは日本文化を体得しようとしたからだ
ともかく、さっそく彼は阿波研造師範の下に弟子入りしたのだが、阿波氏の教えは脅威の連続だった
まず師は言う
「弓道はスポーツではない。。
弓を腕の力で引いてはいけない
心で引くこと
つまり、筋肉をすっかり弛めて、力を抜いて引くことを学ばなければならない」
事実、強い弓を引いてる阿波先生の腕に触ってみると、その両腕は、何にもしていないときと同様に弛んでいた
とはいえ、弓を引くにはやはりそれなりの腕力が必要だから、本当は何かコツがあるはずだとヘリゲルは思った。しかしそのコツはどうやっても見つからない
行き詰まったヘリゲルは、師にこのことを告白した。すると師は
「肺で呼吸せず、腹で呼吸せよ」
と教えてくれた
はじめて正しい呼吸法を知ったヘリゲルは、もうひとつ大切なことを学んだ
それは、最終的な目標「矢を的の真ん中に当てること」に向かって先へ先へと急ぐのではなく、その時その時のなすべきことをなす、という心境だった
これを彼は「内的発展の先を越さず、物事をその自然の重力にゆだねる忍耐」と述べている
呼吸法を整えることによって
ヘリゲルは次第に筋肉を弛めたまま弓を引くことができるようになった