■奥田弁護人から被告人質問
「非常階段の所に遺体を運んでから、最終的にその場を離れるまでの時間、どの位そこに座っていたんですか?」
「ずーっと、従姉妹の夫に電話するまで、ずっと座っていました」
■弁論
検察官の主張によっても、被害者を殺害した午後三時から、従姉妹の夫と前夫に電話をして運搬依頼した午後七時との間には約四時間の空白の時間帯が生じることになる
検察官は「本件犯行は、被告人があらかじめ被害者を殺害した上、その所有する金品を強奪するとともに、その犯行発覚を防ぐべく、事前に綿密かつ周到な計画を樹立し、入念な準備をした上で、その計画に従って遂行されたものである」と主張するのであるから、当然、このような時間帯が何に充てられるべく計画され、どのように使われたのかを明らかにしなければならない
ところが、検察官は被告人が従姉妹の夫や、夫の到着を待つために、「長時間被害者方付近の非常階段で待機していた」と主張するだけで、「綿密かつ周到な計画」とは明らかに矛盾する
検察官の主張によれば、本件犯行当時の昼頃には、従姉妹の夫が自宅に戻っており、被告人は事前にそれを知っていた、というのであるから、綿密かつ周到な計画を立てるとすれば、殺害直後に搬出できるよう、あらかじめ、日時を特定して従姉妹の夫に依頼しておくのが道理ではなかろうか。仮にそうでないとしても、計画通りに殺害しているのであれば、計画通りに直ちに従姉妹の夫、または夫の勤務先などに電話をするのが至極当然の成り行きではないだろうか。被告人はそのような行動は一切とっていない
この空白の時間帯について被告人は、偶発的に被害者を殺害してさはまって、頭が真っ白になってしまい、無声映画のワンシーンの中に自分がいるゆわうな感じで、周りの音も何も聞こえず、自分の心臓の音だけがドキドキ聞こえるような状態で、テレビの前に座り込んでいた
そこに突然電話がかかってきて飛び上がるほどびっくりして、被害者の死体を隠さなければと思い、被害者宅にあった紐や毛布を用いて梱包し、非常階段の方へ運んで行った
非常階段でボーッとしていると、自分が裸足でいることや、バッグを置いたままにしていることに気づき、部屋に入り片付けをし、鍵を探していると、通帳を見つけ、財布もとったこと、その後また非常階段に戻り、あれこれ思案しているうちに家財道具を運搬して、被害者の失踪を装おうことを思いつき、従姉妹の夫や夫に電話をしたと供述している
この供述によってはじめて時間帯の空白を埋めることができるのである