テキスト主体

懐中電灯と双眼鏡と写真機を
テキスト主体で語ろうとする
(当然、その他についても、語ったりする)

理詰めで解けない問題

2012-04-10 23:09:37 | 脱線して底抜け
夏、非常に人口の少ない県の、県庁所在の小都市の外れ、深夜遅くまで、少年二人が話し込んでいた。
一人は地元の住人、一人は大都市から、ひとり暮らしの初老の叔母のうちに避暑にきた中学生。

年の差や、生活の違いなどを越えて共通の趣味を持つ二人の間では会話が尽きることなく続いた。

午前一時を過ぎ、田舎とはいえお盆の盛夏の夜であり、のどを潤すために、飲料水の自動販売機まで、行くことになった。
昔のことなので、こんな田舎にコンビニなんて無く、バス通りの酒屋まで行かねばならなかった。
二人はその日に撮った写真のことなど話ながら、笠のある電球の街灯が、ところどころを慰め程度に照らしている道を歩いた。
都会から来た少年がふと気づくと、バス通りに面した道路沿いの、結構高いコンクリート塀の上に何かが見えた。
ちょうど街灯のあるところではっきりと見えた、アメリカの大学のロゴマークが大きく入ったTシャツ、をきた少年が、おそらくは塀の向こうの高くなった構造物のうえで、ローラーボードでもしているのか、上半身が塀の上から見える高さを、自分の足元を見る具合にうつむいて、滑るように移動していた。
見上げた視線がTシャツ少年の目をとらえ、Tシャツの少年は、軽く驚いた様子で、少し恥ずかしげに目線をそらした。
都会から来た少年は、Tシャツ少年が、深夜まで練習か何かをしているのを他人に見られて気まずい思いをしたのだと受け取って、視線をそらし、また会話に興じながら歩いていった。

翌日、その街の主要公共交通であるバスに二人して乗って、市内の中心部に出掛けた。
昨夜のコンクリート塀のトコロにさしかかり、都会から来た少年は何気なく、昨夜みたTシャツ少年のことを話した。田舎で、深夜までローラーボードに興じる子どもがいるのを珍しく感じたからだった。

住民は訝しげに言った。あそこの塀の向こうはちょっと前に焼失した木造平屋の紡績工場が有った場所で何もないよ、草ボウボウのガレ場のハズだけど、と。
都会の少年は、じゃあ、また空き地に何か作るべく、足場組んだんじゃないの、と、訝しげな様子の住民とは全く違った軽い様子で応え、その話題は終わったと思った。昨夜見た滑るTシャツ少年は、時間と場所こそ奇異であるかもしれないが、ふっと目が合い、それまでしっかりとした表情が、気まずそうに翳る様子を目の当たりに思いだせるほどで、街灯に照らされたTシャツのロゴも画像として記憶しているくらい鮮烈なので、疑う余地もなく、Tシャツ少年はそこにいたと感じていた。

帰り道、二人は、バス停から家までの道のりを遠回りして、コンクリート塀の向こう側にやってきた。住民の少年が、都会の少年が見たコトを、あり得ないはずだとして固執したからだった。

向こう側にはやはり何もなかった、あらためてコンクリート塀のスグそばまで来るとよく分かるのですが、昨夜のように上半身が塀の上に乗り出すほどの位置を滑ったとすると、大人の背より高いところを滑るように移動していたことになる。

塀の向こう側は、好き放題に草が生い茂り、風雨にさらされ、汚れたがれきがあるばかりで、物理的にあり得なく、いたはずのないモノをみた、もしくは見えるはずのないモノをみた事になる。

後になって気づき、慄然としたのでありました。