【連載】呑んで喰って、また呑んで(90)
花見に謎の中国人が
●東京・新宿御苑
待ちに待った花見シーズンである。私の住む白井は桜が満開だ。北総線に添って桜並木が続く。うーん、美しい。これぞ日本の美だ。見事としか言いようがない。
私のマンションの隣は公園だが、ベランダから満開の桜を見下ろせるので、贅沢な気分が味わえる。花見には格好の場所が市内のあちこちにあるのだが、いかんせん、新型コロナの真っ最中なのだ。
会食が好きな日本人だから、春の花見はカーニバルみたいなものかも。酒やつまみを持ち寄って、ワイワイガヤガヤで日ごろの憂さも晴れるというものだ。なのに、武漢から始まった疫病のせいで、いままでのような花見は「夢のまた夢」となってしまった。あー、コロナが憎い。
花見で思い出した。もう随分昔のことだが、友人のクリスから花見に誘われた。
「新宿御苑で花見をするんですよ。日本に住む外国人の友人も何人か集まるので、来ませんか」
「うん、行く」
当日、新宿御苑に集まったのは、総勢10人ばかり。私以外は全員外国人である。女性の方が多かった。名前を覚えているのは、英国人のヘザーと日系アメリカ人のパトリシアぐらいか。
ヘザーは編集者なので、一緒に仕事をやった。パトリシアとは新宿のタイ料理屋で夕食を。このとき彼女がローズ奨学金でオックスフォード大学に留学したことを知った。その後、わが家のパーティーにも来たことがある。なんとワシントンDCでばったり会ったことも。地球は狭い。
話を花見に戻そう。
ブルーシートの上に車座になって缶ビールで乾杯! プハーっ、美味い。屋外、とくにきれいな公園で呑むビールは最高だ。盛り上がっていると、一人の男がにじり寄ってきた。中国人だという。途中で遅れてきて参加したのかなと思っていると、
「あなたの電話番号を教えてください」
「いいよ、何か困ったことがあったら、いつでも相談に乗るよ」
「有難うございます」
花見が終わって、営団地下鉄・丸ノ内線の新宿御苑前駅近くにある餃子専門店で二次会を。ここの餃子は定評があるだけに、美味そのものだった。例の中国人はいなかったので、クリスに尋ねると、
「ん、お友達じゃなかったんですか?」
「ぜんぜん。クリスたちが呼んだんじゃないの」
「いいえ、中国人は誰も呼んでいません」
ということは、勝手に私たちのグループに紛れ込んだというわけか。大した度胸である。
そして翌日―。
その中国人から電話がかかってきた。
「お願いがあるんです」
「どんなお願い?」
「私の身元保証人になってください」
「えっ?」
「身元保証人です」
「けど、君のことを知らないんだけど……」
「大丈夫です。年収がいくらか教えてください」
「何?」
「年収です」
図々しいというか、遠慮がないというか。ま、それなりに面白いので、生活保護一歩手前の額を教えてあげた。
数時間後、中国人から電話が。
「あなた、年収少ないです。役所の人に言われました。年収が少なすぎる人は身元保証人になれない、と。あなた、貧乏人ね」
そう言い終わると、中国人は一方的に電話を切った。なんて失礼な奴だ。もう馬鹿らしいやら、悲しいやら。今思い返しても、ハラワタが煮えくり返る。