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恥をかく命名は世界中に 【連載】藤原雄介のちょっと寄り道㊸

2024-03-02 05:31:22 | 【連載】藤原雄介のちょっと寄り道

【連載】藤原雄介のちょっと寄り道㊸

恥をかく命名は世界中に

 

 


 北朝鮮関連情報の検索(ネットサーフィン)をしていたら、NADAという言葉に目が止まった。NADAとは、北朝鮮の国家宇宙開発局(National Aerospace Development Administration)の英語を略語にしたもの。
 だが、待てよ。スペイン語だと、'nada'は「無」「虚無」という意味である。日常会話では文脈によって、「役立たず」「何もできない」「カス」などの意味にもなってしまう。つまり、良い意味で使われることはほとんどないのだ
 また、NADAのロゴがNASA(アメリカ航空宇宙局=National Aeronautics and Space Administration)のパクりではないかと言われるほど酷似しているのも興味深い。

 ヒスパニック(ラテンアメリカ出身のスペイン語を話す人々)が多いアメリカでは、既に‘nothing’ (ない、別に、何でもない)の代わりに 'nada’がスラングとして定着している。金正恩はこの事実をご存じなのだろうか。'NADA'の命名とロゴ策定に携わった当事者が処罰されないことを祈るのみだ。

 さて、NADAについて調べていたら、面白いことが分かった。NADAは2023年9月27日にNATA(国家航空宇宙技術総局=National Aerospace Technology Administration)に名称変更したという。これまでの「局」から「総局」に格上げされたというわけだ。
 北朝鮮は、格上げ後の11月22日にめでたく軍事用偵察衛星の打ち上げに成功した。ところが、打ち上げ成功を喜び合う作業員達が来ているベスト(チョッキ)に印字されたロゴは、なぜかNADAのままである。
 新しい衣装の準備が間に合わなかったのだろうが、普通の日本人なら「こんな公式の場で、今はない過去の組織の服を着るなんて、あり得ないだろ」と突っ込みを入れたくなるはずだ。しかし、多分、北朝鮮の人々にとっては、「ケンチャナヨ!(小さなことに目くじら立てるな! 大丈夫、心配ない、気にするな!)なのかも知れない。

 

▲NADAとNASAのロゴ比較 

 

▲新組織NATAのロゴ。NADAより一層NASAに近づいてきた

 

▲打ち上げ成功を喜ぶ作業員が来ているベストのロゴはNADAのまま(韓国連合ニュースから)

▲キム総書記を取り囲む「NATA」のロゴが入ったシャツを着用した幹部たち(2023年11月23日、NHK国際ニュースナビから)

 

 外国のことばかり笑ってはいられない。日本にだって相当変な名前の商品や組織がある。外国語(ヨコモジ)で名称を付けるなら、広報部や経営企画部、営業部などは、最低限その言語のネイティブスピーカーにその名称の是非をチェックしてもらうべきだろう。そうしないと、とんだ恥をかくことになる。

 たとえば日本の自動車メーカーだ。世界中で活躍しているので、日本人として誇らしく思うが、どうしてこうも変な名前の車が多いのだろうか。昔から気になっていたのは、某メーカーの軽自動車「MOCO」だ。「MOCO」はスペイン語で「ハナクソ、ハナミズ」の意味である。

 こうした例はMOCOの他にも枚挙にいとまがない。例えば、三菱のパジェロ(PAJERO)。スペイン語読みでは「パヘロ」。自慰をするヤツという隠語だ。まだある。

 マツダのラピュタ(LAPUTA)は、(『ガリバー旅行記』のLAPUTA島からとったらしいが、LA PUTAと区切れば、スペイン語で「売春婦」となる。
 ダイハツのネイキッド(NAKED)は、言うまでもなく「全裸の」という意味だ。いすゞのビッグホーン(BIGHORN)はどうだろう。本来、ロッキー山脈に住む大角羊を指すが、隠語では「大きな男性器」である。

 こんな残念で恥ずかしい名称がどうして一流企業の社内決裁システムをくぐり抜けることができたのだろうか、不思議で仕方がない。日本車にはヘンな名前が多いが、外国の車だって日本語でカタカナ発音すればヘンなものが結構ある。

 フランス・ルノーのメガーヌ(MEGANE)だ。普通の日本人なら、「メガネ」と読んでしまうだろう。しかし、そもそもMEGANEは造語で、フランス語をしゃべる者にとっては「安心感」「高級感」「力強さ」を感じる語感らしい。

 

▲ルノーのMEGANE(メガネ?)

 

 そんなこんなの誤解を避けるためかどうかは知らないが、BMWは昔から数字だけか、数字とアルファベットを組み合わせたコードネームを使っている。メルセデス・ベンツも、「Aクラス」「Bクラス」「Cクラス」「Eクラス」「Sクラス」の5種類のほか、SUVモデルの「Gクラス」という呼称で、いわゆるペットネームはない。

 マツダはこれらドイツメーカーを真似たのだろうか、グローバルブランド戦略として、デミオはマツダ2、アクセラ(旧ファミリア)はマツダ3、アテンザはマツダ6というコード名に変更した。
 SUV車は排気量によってCX-番号、MX-番号で統一されている。巷ではこの名称変更の是非について、様々な意見が飛び交ったらしいが、私は無機的な新名称(コードネーム)が結構好きだ。

 もっとも、マツダ以外の日本メーカーがこの風潮に便乗するのは、ブランドイメージにそぐわないのでやめておいた方が良いかも知れない。いずれにしても、ヘンな名前にして笑われないよう知恵を絞って、素晴らしい名称をひねり出して、楽しませて欲しいものだ。

 ついでに、他の外国自動車メーカーの車名についても調べて見た。
 キャデラックは、コードネームとペットネームが混在する。ルノーはラテン語由来の単語や造語など工夫を凝らしたペットネームにこだわっているようだ。プジョーは、総ての車種名が番号だけ。

 早々に日本撤退を余儀なくされた中国のEVメーカーのBYDは、造語(ATTO 3)の他にも、SEAL(アザラシ、アシカ)やDOLPHINE(イルカ)などの海獣の名前にこだわっている。

 各メーカーが工夫を凝らしていて、命名者達の意気込みや思いが伝わって来るではないか。興味のある方は調べてみては如何。結構面白いですぞ。

 最後に、ヘンな名前の日本の組織について触れたい。
「ほふり」をご存じだろうか。「証券保管振替機構」の略称である。これは「社債、株式等の振替に関する法律」に基づく振替機関で、「証券会社から預けられた投資家の株式などを集中保管し、名義書き換えや売買に伴う受け渡し、発行会社への株主通知などを行う」組織らしい。

 ただでさえ分かりづらいものを唐突に「ほふり」などといわれれば混乱が増すばかりだ。「ほふり」という単語は無条件に「屠る」という動詞を思い起こさせる。「屠り去る」という使い方をすれば、正に「ほふりさる」だ。
 大切な株式を「屠られては」困るのだ。もう少しデリカシーのある命名ができないものだろうか。とは言っても、「で、おまえならどうする?」と訊かれれば、プレバトの特別永世名人、梅沢富美男のように「急に言われても…」と言葉を濁すしかないのだが…。

                    

 

 

  

【藤原雄介(ふじわら ゆうすけ)さんのプロフィール】
 昭和27(1952)年、大阪生まれ。大阪府立春日丘高校から京都外国語大学外国語学部イスパニア語学科に入学する。大学時代は探検部に所属するが、1年間休学してシベリア鉄道で渡欧。スペインのマドリード・コンプルテンセ大学で学びながら、休み中にバックパッカーとして欧州各国やモロッコ等をヒッチハイクする。大学卒業後の昭和51(1976)年、石川島播磨重工業株式会社(現IHI)に入社、一貫して海外営業・戦略畑を歩む。入社3年目に日墨政府交換留学制度でメキシコのプエブラ州立大学に1年間留学。その後、オランダ・アムステルダム、台北に駐在し、中国室長、IHI (HK) LTD.社長、海外営業戦略部長などを経て、IHIヨーロッパ(IHI Europe Ltd.) 社長としてロンドンに4年間駐在した。定年退職後、IHI環境エンジニアリング株式会社社長補佐としてバイオリアクターなどの東南アジア事業展開に従事。その後、新潟トランシス株式会社で香港国際空港の無人旅客搬送システム拡張工事のプロジェクトコーディネーターを務め、令和元(2019)年9月に同社を退職した。その間、公私合わせて58カ国を訪問。現在、白井市南山に在住し、環境保全団体グリーンレンジャー会長として活動する傍ら英語翻訳業を営む。


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