【連載】腹ふくるるわざ⑯
連日の新記録 ～東京五輪と新型コロナで
桑原玉樹（まちづくり家） 
オリンピックも日本チームの活躍で盛況なうちに進んでいる。テレビを見ていても、試合会場に一般入場者こそいないものの、関係者の歓声や拍手が聞こえてきて、熱気は十分に伝わってくる。
ところでマスメディアでは、連日のように「今日も新記録」と報道している。オリンピックかと思ったら新型コロナ感染者数の記録が日々更新されているというニュースだ。東京都知事の記者会見では「このままオリンピックを継続してよいのか」と尋ねる記者もいた。
また首都圏では８月２日、東京に加えて埼玉、千葉、神奈川の３県でも緊急事態宣言が発令された。某知事などは「医療体制は今まで経験したことのないレベルで逼迫している」など、大規模災害が迫ってくるかのような表現でさらに危機感を煽っている。
以下の図のうち４つはＮＨＫの新型コロナ特設サイトにあるグラフだ。図１はよく報道されている内容だが、これを見ると確かに感染者数はこれまでになく多い。従来型よりも感染力が高いデルタ型に置き換わりつつあるために増加していると言われている。欧米でもワクチン接種が進んだにもかかわらず、デルタ型に置き換わったために再度新規感染者数が増加しているが、これらに比べると日本は相変わらず「さざ波」ではある。しかし過去最多であることは間違いない事実だろう。
ところで図２の死者数も見てほしい。この内容がマスメディアで報道されたのを見たことがない。死者数は今年の最低水準になっている。高齢者へのワクチン接種が進み、高齢者層の死亡が激減したため、あるいは現在の新規感染者の多くが若い世代であることに加えて、ワクチン接種による重症化予防効果が寄与しているためと言われている。
ＣＤＣ（米国疾病予防管理センター）は図３のように感染力は高まったが病原性は変わらないとみているようだが、一般的にはウィルスは感染力が強くなると病原性は低くなると言われている。自らが生き残り続けるためには宿主を死亡させるわけにはいかないからだ。
そのために感染者数のわりに死者数が少ないのかもしれない。ともあれ感染症対策の最終目的は死者数を減らすことだろう。死者数を見る限りでは、緊急事態とはとても言えないのではないか。
▼図３ 主な感染症の感染力と病原性 CDC（米国疾病管理予防センター）の報告書より
そうは言っても図４を見ると、現在重症者数は増加傾向にあるので、これに伴ってやがて死亡者数も増えるのかもしれない。が、少なくとも現在は死亡者数は今年の最低水準にある。できればこのまま死亡率が低く推移することを期待したい。
次に図５を見てみよう。入院中や療養中の人数が増加していることが分かる。しかし、今年の１月や５月のピーク時の半分程度だ。「医療機関は今までに経験したことがないレベルで逼迫している」とまでは言えないのが実態ではなかろうか。逼迫している病院があるとしても偏在しているのだろう。偏在をなくすか、あるいは現在20％もないといわれる新型コロナを受け入れる民間病院を増やすよう政治、医療界で努力すべきではないか。
いずれにせよ、「新規感染者数は過去最多記録を更新」ということは事実には違いないが、同時に「死者数」「重症者数」「入院・療養者数」「受け入れ病院数」を合わせて報道するとともに、総合的、俯瞰的に分析してもらいたいものだ。
「記録更新」報道は、オリンピック報道で十分である。唯一、テレビの見出しで「止まらない日本の○○○○○」の○○に「新型コロナ」ではなく、「メダルラッシュ」と入ったものだけは歓迎したい。
【桑原玉樹（くわはら たまき）さんのプロフィール】
昭和21（1946）年、熊本県生まれ。父親の転勤に伴って小学校７校、中学校３校を転々。東京大学工学部都市工学科卒業。日本住宅公団（現（独）ＵＲ都市機構）入社、都市開発やニュータウン開発に携わり、途中２年間ＪＩＣＡ専門家としてマレーシアのクランバレー計画事務局に派遣される。関西学研都市事業本部長を最後に公団を退職後、㈱千葉ニュータウンセンターに。常務取締役・専務取締役・熱事業本部長などを歴任し、平成24（2012）年に退職。現在、印西市まちづくりファンド運営委員、社会福祉法人皐仁会評議員。
