白井健康元気村

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《注目の書籍》防衛大学校―知られざる学び舎の実像

2023-02-13 05:58:41 | 書評

《注目の書籍》防衛大学校―知られざる学び舎の実像 

國分良成 著 

中央公論新社刊

定価2,200円(+税)

 

前防衛大学校長が描く、知られざる学び舎の実像!

日本を
 守り抜くために……。
  国防の原点が
    ここにある。

8人1部屋の全寮制。朝6時にラッパで起床。髪型、恋愛、外出の規則。朝から夜までみっちりと詰まった「日課時限」と、陸海空1005時間の実践訓練……。
世間一般には、大学といえばモラトリアムともいわれる緩んだ期間だが、国防のために寸暇を惜しんで学び続ける若者たちがいる。厳しい日々にもかかわらず、多くの卒業生は「生まれ変わっても防大に入りたい」と口をそろえる。
他者のために生きるプライドを秘めた人材を育成する学び舎の実像、そのすべてを前防衛大学校長が語りつくした。
(同書の帯より)

 

「ネット上には、十分に科学的根拠に依らない主観的な印象論によるランキングがいくつか転がっている。それらを見ると、やはり米国のウエストポイント、英国の各士官学校、フランスのサン・シールなどの欧米の士官学校が上位に位置づけられている。それらを見ると、防衛大学校は10位以内に位置づけられられたものが多い。素直に言って、防大がそんなに低いはずはない」

 著者の國分良成さんは、そう断言する。それどころか、防大は「世界一の士官学校」を目指しているのだそうだ。

 一昨年3月まで國分さんは防衛大学校長を務めた。第9代目である。どういうわけか、本ブログ編集人の周囲には、防衛大学校出身者がやたらと多い。学生時代からの友人の長兄、フォークランド紛争時にブエノスアイレスで何かと協力してくれた日本大使館員、ハノイで活躍中の友人、数年前に台湾人約100人が靖国神社を公式参拝したときに一緒に世話をした元海上自衛艦艦長など10本の指では足りないくらいだ。
 そうそう、もう一人忘れてはならない人が。白井健康元気村の玉井秀幸村長である。防衛大学校を卒業(7期生)した玉井村長は、海上自衛隊の哨戒機P2Jのパイロットとして全国の航空基地に勤務した。
 その間、防衛庁(六本木)海上幕僚監部装備体系課、自衛隊広島地方連絡部長を経て、平成5(1993)年に海自下総教育航空群司令に。3年後に退官し、平成18(2006)年、白井に移り住む。趣味は毎週のようにプレーするゴルフ。この数年でエイジシュートを6回も達成した。83歳とは思えないほど若々しい。さすが防大出身者だ。
 そんな玉井村長も学んだ防衛大学校の授業はというと、前学期と後学期の2学期制である。朝8時30分から夕方5時15分までみっちり。一般大学では卒業に必要な取得単位は124単位であるのに対し、防衛大学校は152単位もある。卒業単位は30単位近く多いのに、一般大学のように学位を授与する権利はない。
 じつに厳しい授業内容だが、著者はミリタリーの世界とは離れた伝統芸能や文化芸術などにも目を向け、関心を持つように学生に薦めた。「能や狂言や落語などの伝統芸能の公演を積極的に推奨し、実際に歌舞伎人間国宝の坂東玉三郎氏、能楽師の坂井音重氏、落語家の柳屋さん喬師匠など」を招く。坂東玉三郎を招いた時の女子学生との質疑応答は面白い。
 3学年になると、硫黄島研修がある。激戦地の歴史を学び、慰霊するのだ。著者も在任中、3回ほど学生の研修に同行した。そして、興味深い事実を明かす。なんと硫黄島で戦死したロスアンゼルス・オリンピックの馬術競技で金メダルを獲得した西竹一大佐(バロン西)が遠い親戚にあたるというのだ。
 ところで、防衛大学校が「大学」ではなく「大学校」と呼ばれていることからわかるように、形式的には専門学校と同格である。
「ブライドに関わる問題であり、国家・国民の平和と安寧のために一生を捧げる人生を歩む若者を育てる唯一無二の学校を国家がどのように位置づけるかの問題である」とし、著者は提案する。「防大卒の学校長を誕生させることをぜひ一考してもらいたい。言うまでもなく、防大卒業生にも立派な人材が数多くいるのだ」
 著者が指摘するように、中谷真一(衆議院議員)、宇都隆史(元参議院議員)、油井亀美也(宇宙飛行士)、折口雅博(グッドウィル・グループ会長)、佐藤正久(参議院議員)、村井嘉浩(宮城県知事)、竹原信一(元鹿児島県阿久根市長)、中谷元(衆議院議員、元防衛大臣)、森本敏(元防衛大臣)、志方俊之(防衛問題評論家)など防大出身者には優秀な人材が少なくない。
「たとえ短い期間に終わるとしても、一度は防大卒業生に防大学校長を任せるべきであると強く思う。私はそう考え、挑戦もしたが、うまくいかなかった。学生の前で自分たちの先輩が学校長として語りかけたとき、学生たちの自衛官意識はさらに高まるはずである。防大プライドを確固としたものにする一つの方途として、今後その可能性をぜひとも探ってもらいたいと思う」
 この本の中で著者が強調したいのは、「人間的な強さと優しさであり、その両者を使い分けることのできる大きなハート」が危険と隣り合わせの自衛官に必要だというこだ。それが「日本的美徳」だという。
 

「防大は世界の防大でなければならない。また、同時に戦後の日本が生んだ文化的土壌をもった士官学校である。伝統は絶えず革新していくなかで生き残る。創造的な革新のないただの伝統賛美では、伝統は滅ぶ。防大も同様だ」と防大生にエールを送る。「防衛大学校は日本という国家とそこに住む国民を守り、世界平和に貢献する人材を養成する学校である。この基本を忘れてはならない」

 台湾情勢、中国や北朝鮮の軍事力増強、ロシアの不気味な動きなど、日本を取り巻く情勢が不安定な今、国防を背負って立つ防大生が何を学んでいるのか。それを知るには最適な一冊である。(本ブログ編集人・山本徳造)
 

【内 容】

■本書の目次(一部抜粋)■
はじめに 防大学校長九年の思い
・密かなコンプレックス
・「持ち場を捨てるな」
・卒業生たちの部隊に赴き、感謝の気持ちを噛み締める
・時代がようやく自衛隊に追いついてきた
・複雑化する自衛隊の任務と防大
・大学としても士官学校としても少し中途半端
・チャレンジ精神に火がついた

第1章 防大の日本的特殊性 大学でも士官学校でもない
・横須賀で学ぶ2000人の防大生
・学力だけでなく徳力や体力も採用基準
・なぜ「大学」「大学院」と名乗れないのか
・学生の8割弱が理系である理由
・陸・海・空を統合した特殊な「士官学校」
・自衛隊との結びつきが弱い「士官学校」
・11カ国から長期留学生を受け入れる
・防大主催の国際士官候補生会議と防大生の海外派遣

第2章 防衛大学校の三大行事と11種競技
・入校式。親御さんとの「今生の別れ」にもらい泣き
・開校記念祭。「防大、どうだい」の衝撃
・観閲式、空挺降下、儀仗隊のドリル、棒倒し……
・卒業式。帽子を天高く投げて、走り出せ!
・任官辞退、任官拒否
・11種競技。「リョウセイ」コールがこだまする
・演劇祭、ビブリオバトル、クロスカントリーなど

第3章 防大の教育と訓練
・国防論教育室、戦略教育室、統率・戦史教育室
・居眠りは世界の士官学校の共通課題
・伝統芸能、文化芸術、読書のススメ
・英語教育は、まさに死活的に重要な課題
・第1志望はパイロット
・1005時間の実践訓練

第4章 防大生の日常生活
・8人1部屋の学生舎生活
・6時、ラッパの音で起床
・髪型、恋愛、外出の規則
・部活動としての校友会
・二人の学生を失う
・詐欺事件といじめ
・上級生による威圧的指導の禁止

第5章 防衛大学校の原点
・戦前の陸軍士官学校
・防大誕生に関わった3つのグループ
・士官学校卒の米軍顧問団の助言
・戦中の精神主義を排した吉田茂
・校長紹介の仲人役として貢献した小泉信三
・槇智雄初代学校長の誕生

第6章 槇智雄初代学校長の願い
・学生から絶大な支持を受けた槇学校長の教育理念
・「国の独立を見失うての平和は何の意味ももたない」
・学生の「自主自律」
・慶應義塾時代の槇智雄の挑戦と挫折
・厳しかった草創期の防大カリキュラム
・防大の「学生歌」と「逍遥歌」
・槇学校長が退任時に述べた「更迭」という言葉
・槇学校長以後の防大

第7章 防衛大学校長の仕事とは
・学校長の「日課時限」
・内局との折衝に気を遣う
・全国で展開される防大生の訓練視察
・潜水艦、護衛艦、攻撃用ヘリに乗る
・広告塔として
・任官辞退者から多額の寄附をいただく
・フランス、スウェーデン、米国へ
・タイ、ベトナム、ポーランド
・フィリピン、東ティモール、韓国、モンゴル
・ミャンマー、ラオス、カンボジア

第8章 防衛大学校の未来を考える
・防大を取り巻く環境の変化
・知・徳・体。知的武装を求めて
・「新たな高みプロジェクト」。防大3つの課題
・「さらなる高みプロジェクト」(100年ビジョン)
・100年の夢に向けて
・大学ランキングと防大
・世界一の「士官学校」を目指す。その7つのポイント

 

▲硫黄島にあるバロン西の慰霊碑の前で(同書より)

 

【國分良成 (こくぶん りょうせい )さんの略歴】

1953年生まれ。 81年慶應義塾大学大学院博士課程修了後、同大学法学部専任講師、85年助教授、 92年教授、 99年から2007年まで同大学東アジア研究所長(旧地域研究センター)、07年から11年まで法学部長。 12年4月から21年3月まで防衛大学校長。 法学博士、 慶應義塾大学名誉教授。この間、 ハーバード大、ミシガン大、復旦大、北京大、台湾大の客員研究員を歴任。 専門は中国政治・外交、東アジア国際関係。 元日本国際政治学会理事長、元アジア政経学会理事長。 著書に「中国政治からみた日中関係」 (2017年樫山純三賞)、 「現代中国の政治と官僚制」(2004年サントリー学芸賞)、 「アジア時代の検証 中国の視点から」 (1997年アジア・太平洋賞特別賞)などがある。

 


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