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「楽宮」のオモロイ日本人たち① 【連載】呑んで喰って、また呑んで㊾

2020-06-10 14:53:51 | 【連載】呑んで喰って、また呑んで

【連載】呑んで喰って、また呑んで㊾

「楽宮」のオモロイ日本人たち①

●タイ・バンコク

山本徳造 (本ブログ編集人)  

 

 

 楽宮大旅社(以下=楽宮)に泊まっていた日本人を紹介する前に、一人の人物に登場願おう。
 バンコク中央駅からほんの数分も歩くと、「タイ・ソン・グリット」と呼ばれる、バックパッカーに人気の安宿があった。そこに私が泊まっていたのだが、1階の食堂でタイ風の焼うどんをツマミに「メーコン」の炭酸割を呑んでいると、体格の良い日本人から声をかけられた。
「あんた、ここに泊ってるのん?」
 関西弁である。
「そうやけど。あんたもこの宿に?」
「いいや」その男は恐ろしく太い首を振った。「ここはメシ喰いに来ただけや」
 ちなみに、この食堂も不味い。何を喰っても、調味料よりも中華鍋の錆びたような味が舌にこびりつくのだ。そんな食堂にわざわざ食事に来るなんて、ヘンな奴だ。
 聞くと、兵庫県出身でしばらくイスラエルのキブツで働いていたらしい。その後、ヨーロッパ、インドと回って、タイにやって来たという。バンコクは何度も来ているというから、情報通に違いない。つき合って損はないだろう。

 そんなわけで、彼に案内されて、楽宮に引っ越したのである。その夜は、私の引っ越し祝いも兼ねて、宿と中華街(ヤワラー)の中間地点にある店で酒盛りが始まった。それから半年間、この店に毎晩のように通うことになる。
 さて、私を楽宮に連れてきた男は、仲間内で「レスラー」と呼ばれていた。レスラーのような頑丈な体格だからだろう。とにかく楽宮では、みんな本名ではなく、ニックネームで呼び合っているようだ。楽宮の「住民」にとって、本名なんかどうでもいいのだろう。
「宿泊者」ではなく、「住民」と記したのは、彼らのほとんどが長期滞在者だからである。1カ月なんて短いほうだ。1年という長きにわたる日本人も珍しくない。ちなみに、私の場合は半年だった。
 だから、ほとんど顔見知りなのだが、本名を知らなければ、尋ねたこともない。ただ、気心が知れ、帰国後も連絡を取りたい人物なら、別れ際に本名と連絡先を交換し合う。
 航空自衛隊出身のSは、ミャンマー女性と結婚して神戸に住んでいた。たまたま私が正月休みで大阪の実家に帰ったとき、S夫婦を実家に招いて、すき焼きを御馳走した記憶がある。はて、彼のニックネームは何だったのか。いかん、忘れた。
 もっとも印象的な人物と言えば、「ボクサー」だろうか。最初、宿の廊下で擦れ違ったとき、なぜアラブ人が泊まっているんだ、と不思議に思った。顔の彫が深く、しかも浅黒かったからだ。以前、日本でキックボクサーだったから、みんなから「ボクサー」と呼ばれるようになった。
 英語もうまかったので、その理由を聞いてみたところ、こんな答えが返ってきた。
「決まってるじゃないですか。白人の女の子にモテたかったからですよ」
 ドイツ人の彼女と1カ月ほどヨーロッパ各地を自由気ままに旅をしていたとか。彼女の写真を見せてくれたが、かなりの美人だった。この「ボクサー」も帰国後、神奈川県の工場で数か月働いては、また数カ月海外に出かけるという生活を送っていた。その合間をぬって、よく高円寺の拙宅に顔を出していたが、ある日突然、音信不通に。今頃、どこでどうしているやら。

 通称「ガイムショウ」は、外務省を一時休職中のRだ。同じ大阪人同士なので、気が合ったのだろう。楽宮の仲間数人と連れ立って、チェンマイまでも物見雄山したこともある。ふとしたことで知り合ったチェンマイ大学の女子学生たちとピクニックしたことも、よき思い出だ。

 帰国したRは外務省に復帰する。仕事柄、海外勤務が多かったが、一時休暇で帰国した際なんか、よく会ったものである。一昨年、外務省を退職したので、度々拙宅に遊びに来る仲である。つい先日も、パソコンやスマートフォンを使って、セミナーや会議をオンラインで行うZOOMに誘われた。といっても、二人だけだが…。

 そんなわけで、もはや彼のことを「ガイムショウ」とは呼ばない。彼が来るたびに「あのレスラーはどうしてるのかな」「パリに行った『13歳』は生きているのかな」「そういえば、『18センチ』がいたなあ」という話題が出るほどだ。次号も楽宮の変人たちに登場してもらおう。(つづく)


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