【連載】腹ふくるるわざ④
「同期の桜」と厄介な葛
桑原玉樹(まちづくり家)
今年も桜が咲き始めた。白井市は桜が美しい。今井の堤、七次台からけやき台までの歩道、桜台の歩道、市役所と文化会館周辺に咲く桜が人々の目を楽しませてくれる。このほかにも住宅地のそこかしこで咲く。千葉ニュータウンは昭和54(1979)年に入居が始まった。西白井駅圏、白井駅圏は千葉ニュータウンでも最も早い時期の入居地区だ。入居に先立って国道464号線沿道、幹線道路の歩道、歩行者専用道路、公園に多くの桜が植えられた。同じ白井の土地に咲く「同期の桜」だ。
▲国道464号線沿いの桜
しかし「同期の桜」でも植えられた場所によってその後の運命が大いに違った。歩道、歩行者専用道路、公園に植えられた桜は、40年を経過して立派な桜に成長し、住民に季節の訪れを教えてくれる憩いの桜になった。一方、国道464号線沿道に植えられた桜は悲惨な状況に陥っている。なかなか管理が行き届かないために、法面にはびこる葛(くず)などのつる草が絡まり、そして木全体を覆い、時には宿り木も寄生し、根元には篠竹も繁茂してきた。栄養が行き渡らず枯れてきた枝もある。
平成25(2013)年、ある自治会から市経由で葛や雑草除去の要望が出された。国道464号線を管理している千葉県印旛土木事務所からは「現地を確認する。」旨の回答があった。その後、沿道約2mに防草シートが貼られ、車道に伸びる枝が伐採された。しかし葛の除去はなされなかった。そこで平成27(2015)年にも同様な要望が出された。それに対して沿道の用地を管理していたURからは「道路、鉄道を走行する車両への安全確保を図る等の観点で防草シートの工事を行っているものです。これからも同様の方針で対応する予定のため、464号線道路景観の維持、向上の観点からの対応はできかねる……」との回答が、市経由であった。
私自身はURの前身である旧都市基盤整備公団(更に前身の日本住宅公団、住宅・都市整備公団)に在籍し、URに変わった17年前に退職した。良好な居住環境の整備を目的としているURと思っていたが、葛から桜を救助して道路景観の維持、向上を図ることは今や業務範囲外らしい。どうやら桜を植えた先人の想いは受け継がれていないようだ。白井市は「自然を愛し調和とうるおいのあるまちづくりをめざし」て環境都市宣言をしたが、他の組織が管理する土地の桜にまでは手が回らないらしい。
「公助」が期待できないなら致し方ない、「共助」「自助」で、と市民数人が葛に絡みつかれ覆われた同期の桜を自分たちで救助することにした。救いを待つ桜は途方もなく多い。「ドン・キホーテだね」と自虐の声も聞こえた。
【桑原玉樹(くわはら たまき)さんのプロフィール】
昭和21(1946)年、熊本県生まれ。父親の転勤に伴って小学校7校、中学校3校を転々。東京大学工学部都市工学科卒業。日本住宅公団(現(独)UR都市機構)入社、都市開発やニュータウン開発に携わり、途中2年間JICA専門家としてマレーシアのクランバレー計画事務局に派遣される。関西学研都市事業本部長を最後に公団を退職後、㈱千葉ニュータウンセンターに。常務取締役・専務取締役・熱事業本部長などを歴任し、平成24(2012)年に退職。現在、印西市まちづくりファンド運営委員、社会福祉法人皐仁会評議員。