阿部ブログ

日々思うこと

エンタープライズ・システムと意志決定支援

2012年07月06日 | 日記

エンタープライズ・システムとは「人間が効果的に行動するための知識を創造し、情報を効果的に利用するための仕組み」である、と定義したい。

このエンタープライズ・システムと現在のデータ処理を中心とする業務システムとは異なる。
即ち、データ処理技術はハードウエアとソフトウエアシステムの個々の構成部を扱うが、エンタープライズ・システムは企業、及びグループ組織の経営及び業務全体を遂行する上で必要なハードウエア、ソフトウエア、人及び技術的手段を含む全体システムであり、より多様な形態の情報を処理するシステムである。

言葉を変えると個別のシステム相互の連携を強化し、システムを全体としてシステム化することによって、相乗効果を発揮させるという「System of Systems」(システムのシステム化)により「人間が効果的に行動するための知識を創造し、情報を効果的に利用するための仕組み」を実現するのが、来るエンタープライズ・システムの将来像ではないのか?

情報処理技術の発達により、情報システムは「分散コンピューティングシステム」へと変遷し、業務組織がネットワークへの依存度を深めている。特に昨今のソーシャルメディアの著しい台頭がそれを促進していると考えている。
ビジネスがNetwork Centricになっているが、今後の趨勢としては、Data Centric へと移行するだろう。その先駆けがBig Dataと呼ばれる様々な取組と具体的な実装展開である。

現代のビジネス最前線においては、情報処理システムを駆使する場合が多いが、最終的な判断と決断は、やはり人に委ねられている。経営者は、この複雑な経済状況とグローバル化する環境において最良の意思決定を相手に先んじて迅速に行い得るためには、多様な素情報を融合処理し、知識化し、環境変化を正確に把握し、意志決定を支援する等のための、広範な情報処理技術が必要である。それらの技術のなかで、相手との間で優劣を支配する緊要な情報処理技術として、情報融合技術と意思決定支援技術が特に重要である。

エンタープライズ・システムにおいても経営者の意思決定を支援するシステムが今後重要性を増すと考えている。その鍵となるのが情報融合システムである。

■情報融合システム
組織と業務の情報化により、各種の情報源から膨大な素情報を入手できるようになりつつある。またそれを目指しているスマートコミュニティなどの取組もなされている。

しかしそれらの素情報は相互に一致せず矛盾する場合が多い。
これらの素情報を、意思決定と指揮統制に使用する統一した共通の情報(知識)に変換する情報融合の作業は、高度に人間的な知的作業である。
しかし、最良の決心と行動発揮の速さが優劣を決する現代のビジネス環境にあって、膨大な量の雑多な素情報を迅速・正確に評価し、判断し、統一した共通の情報に融合し、知識化するには、人間の高度の知的判断活動である情報融合の作業を最大限に支援するシステムが不可欠である。このようなツールがなければ、情報爆発の時代において、人間は相互に矛盾する膨大な素情報に埋もれて立ち往生するだろう。

情報融合は、概念、内容及び表示形式の異なる多様な情報源から送られてくる、整理されていない膨大な量の素情報を混ぜ合わせて処理し、一つの情報に統合統一する。

このような情報融合の作業は、データ形式の情報の融合と、テキスト様式で表現された複雑な情報の融合の両方を含んでいる。したがって情報融合処理のレベルを、融合処理の内容に応じて、低、中、高のレベルに区分する場合が多い。

例えば、高度の情報融合技術の一つとして、同一事象に関する異なる情報源からの異なるテキスト情報を曖昧性に基づいて整合(fuzzy matching)する文字列処理法(string metrics)がある。

変化の激しい経済状況において意志決定者が膨大な量の素情報を迅速に知識に変換できる精緻なソフトウエアが必要とされている。

■データ融合
情報融合の一部分であり、低いレベルの情報融合処理である。データ融合は数個のデータ源からの素データを結合して、新しい素データを作る。データ源は、スマートメーターなどのように同種の場合もあれば、電子光学、音響、パッシブ電子情報等の異種のセンサーの場合もある。例えば異種のセンサーからのデータの融合であるセンサー融合は、多センサーデータ融合とも呼ばれている。

融合されたデータは元のデータ群よりも有効な情報を合成して含んでおり、ユーザーにとって状況を判断するうえで価値のある情報になっている。
鍵となる技術は、相互に矛盾するデータを処理し、整合した結果を見出す技術である。別のデータが新しく加われば融合アルゴリズムは修正される。

データ融合の代表的な技術には、カルマンフィルターと多重仮定相関(Kalman Filter Trackers and Multi-Hypothesis Correlators)がある。
非ガウス(確率方式)の目標モデル(Non-Gaussian (or "probability map") target modeling)と標準カルマンフィルター(Kalman Filters)を一つのアルゴリズムに統合したデータ融合技術が重要である。

それと特に以下のデータ融合技術に注目したい。
・非ガウスデータ融合システム(Non-Gaussian Data Fusion System:NGDFS)
・非ガウス目標位置標定モデリング・(Non-Gaussian Target Location Modeling and Negative Information)を含む準リアルタイムデータ融合(Near Real Time Data Fusion:NRTDF)(グローバル相関エンジン(Formerly Global Correlation Engine:GCE))
・多重仮定相関器(Multi-Hypothesis Correlation:MATCH)

■意志決定支援技術
複雑な状況下における人間の意思決定は人間特有の高度な知的作業である。
このような判断においては、プリプログラム方式(あらかじめ作成しインストールしたプログラムにより情報を処理する方式)のデジタルコンピュータには限界があり、いかにコンピュータ・システム化しても最終的な重要判断は人間に委ねられる。

しかし意思決定の迅速性と妥当性においては、人間が行う状況把握すなわち迅速で最良の意志決定を、可能な範囲で最大限に支援するコンピュータ・システムが必要である。

前述した情報融合により情報を知識化する過程は意思決定支援過程の重要なプロセスであり、意志決定者は情報融合により状況を把握し、複雑に変化するビジネス状況のなかで妥当な決心を迅速に行う必要があるが、この意志決定を支援する技術が重要性を増しており、新たな取り組みが必要である。

ここで言う意思決定支援技術は、統計的な手法を用いて不確かな入力情報を処理する「不確実な推論」である。
「不確実な推論」に用いる技術は、誤りや不確実性を処理する分析技法(Bayesian Analysis)、意志決定において根拠と妥当性の追求に不確実性を取り込む一般的な手法(Dempster Shafer)、不確実な複合する入力から正確な知識を取り出すSaaty の分析的階層的手法、異なる基準に基づく複数の代替え手段の有効性をランク付けするモデル(WeightedMoment Model)などがある。

企業経営においては、流動する複雑な事態における状況把握、市場の調査・開拓、経済動向の予想には、不確かな入力情報を用いる意思決定支援技術が有用である。

緊要な技術要素として、特に不確実な情報のもとで意思決定をするように設計される意思決定支援システムには以下の要素が組み込まれる必要があるだろうと考えている。

①自律適応性(Autonomous Adaptive)のある知的な代理人
②ストレスや、特に異なる集団の文化的・社会的相異を取り入れた個人と集団の意志決定と反応を取り込む効果的な人間行動モデル
③原則、能力及び事業計画に基づく判断基準の適用
④自社と競合他社の正確なモデリング&シミュレーション(Modelingand Simulation:M&S)

■モデリング&シミュレーション(M&S)
M&Sは意思決定支援とビジネスや事業の実時間推移より速い状況分析、中期経営計画や事業計画の作成と予行、営業部隊の配置に先立つ実戦的な環境での想定訓練、具備すべき情報システムの開発と運用に関する全サイクルにおいて重要な技術である、と考えている。

意思決定支援システムに独特の特に緊要なM&Sシステムは、ビジネスにおける個人及び営業部隊の反応を取り込んだ効果的な人間行動のM&Sである。
このM&Sには、人間の行動を予測し、戦略・戦術を構築し、営業マンをより実践的な環境で訓練する能力等を含み、

① 意思決定理論的(Deterministic)なモデリング
②複合事象のシミュレーション
③分散シミュレーションが可能となるような機能と実際的な性能を有する事が重要である。