阿部ブログ

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「トリウム熔融塩炉の設計」について豊橋技術科学大学の三田地紘史名誉教授が講演

2012年07月23日 | 日記
先週の土曜日、即ち2012年7月21日に静岡市で、NPO法人「トリウム熔融塩国際フォーラム」主催による「トリウム原子力フォーラム」が開催され盛況の内に終了した。参加募集数は92名程度であったが、予想を超えて120名を超える参加者があり、活発な質疑応答もなされ、関心の深さを再認識した。

このNPO法人による静岡市でのトリウムに関するイベントは今年2回目である。特に静岡県知事がトリウム熔融塩炉に深い関心があり、浜岡原発地域でのトリウム炉開発に注力したい意向を示しているからだ。報道(毎日新聞 2012.6.1)によれば中部電力でも内部にトリウム原子力のチーム組成した?と報じられており、時節柄、旬なテーマではある。

今回のフォーラム参加で一番の成果は、三田地先生の講演を聴けたこと。原子力関係者内部では評価の高い先生であるので、一度話しを聞いてみたかったのだ。
以下に、三田地先生の講演内容の概要を自分なりに記して見たい。

■「トリウム熔融塩炉の設計」豊橋技術科学大学・三田地紘史名誉教授の講演

古川和男氏の研究を受けて、トリウム溶融塩炉(FUJI)の後継となる、FUJI-U3とFUJI-Pu1と言う2つの溶融塩炉の設計を行った。本日はその設計の概要と得られた成果を発表する。

炉の寿命が30年間で黒鉛減速材を交換せずに運転できる炉を設計した。これらの炉では,基本的にはオークリッジ国立研究所(ORNL)で確認されたプロセスを用いて5年~8年ごとに燃料塩をバッチ的に化学処理する方式を採用している。ORNLの実験炉の燃料転換比(CR)は0.92~0.95である。

今回設計した炉は半径方向にも軸方向にも3領域の炉心をもつ熔融塩炉であり、CRは、1.0 である。この炉は核燃料の立場からすると自給自足炉(Self-Sustainable Reactor)となるので、始めに一定量の核分裂性ウラン(233U)を用意すれば、その後は永久に運転を継続でき、ウラン資源の節約およびTh 資源の有効活用に貢献すると考えられる。

炉寿命は30年とし、この間,黒鉛減速材は交換なしに用いる。電力需要に応じて負荷追従運転する条件で平均負荷率を0.75とすれば、耐照射損傷を勘案して、黒鉛減速材では52keV以上の高速中性子束を4.2×1013以下にし、また、Hastelloy N 製の炉容器では0.8MeV以上の高速中性子束を1.4×1011以下に,1.0eV以下の熱中性子束を7.0×1012以下に抑える必要がある。

熔融塩炉を長期に渡り運転し続けると、燃料塩中に核分裂生成物が増加し沈殿析出する恐れがある。また、核分裂生成物の増加は中性子経済の悪化を引起しCRを低下させる。このような不都合を起こす前に、燃料塩を化学処理する必要がある。今回の炉心設計ではCRを0.98以上とし、定期的に燃料塩を化学処理し、処理に際しては、LiF、BeF2、ThF4、UF4はすべて回収し、化学処理後に熔融塩炉に再装荷する燃料塩として使用する。残りは炉運転中に必要となる補給燃料として使用する。不足する燃料塩成分は新規に投入する。なお,プロトアクチニウム(233Pa)は大半が半減期27.3日で233U に壊変するので、化学処理においてPaF4はすべて回収し、化学処理後に再スタートする炉の燃料塩に全量を再投入する。これら以外の核分裂・捕獲生成物はすべて燃料塩より取除く。

持続可能なトリウム溶融塩炉には、核分裂性ウラン233Uを初装荷量(Initialinventory)1.132tで、30年間の追加補給量(Feed)は0.344t。運転30年後の炉内残留量(Final remaining amount)は1.505tとなる計算結果を得ている。ただし、233Pa は半減期27.3日で233U に壊変するので、233Uの炉内残留量は(233U+233Pa)量とした。これより233Uの必要量は1.476t (=1.132+0.344)となり、増加量は29kg(=1.505 t-1.476 t)である。この233Uの増加量は約7.5年ごとの燃料塩化学処理における233U損失を補うと考えられるので,熔融塩炉は核燃料の立場から見ると自給自足炉と言える。なお、30年間のPu生成量は0.29kgと少ない。233Paを除くPa生成量は3.57kg、Np生成量は1.74kg, (Am+Cm)の生成量はわずか0.04gである。これらを合計してマイナーアクチニド(MA)は、30年間に5.32kg 生成されることになる。

この熔融塩炉を30年間運転した後に炉内に存在する核分裂生成物は合計1,033kgである。核分裂生成物には、核分裂ガス、液体核分裂生成物および固体核分裂生成物に分類される物質群が生成されるが、この内、キセノンなどの核分裂ガスは燃料塩に対する溶解度が低いので、運転中にHeガスバブリングにより燃料塩より分離する事が可能である。

液体核分裂生成物のうち3価の生成物の濃度は0.078molであり、この値は燃料塩に対する溶解度(1.0mol程度)に比較して十分に低く、3価生成物が沈殿析出することはない。3価以外の生成物の濃度は合計0.153mol。この程度の濃度であれば黒鉛や炉容器に対する化学的な悪影響はないと考えられる。

まとめると、トリウム溶融塩炉は3領域の炉心で構成され、出力200MWe(熱出力450MWth)、負荷率0.75であり、運転33日ごとに燃料補給されつつ30年間運転される。また燃料塩は約7.5年(平均)ごとにバッチ的に化学処理される。

この炉は、黒鉛減速材の交換なしに運転可能で、30年間の燃料転換比は約1.01で自給自足炉である。即ち、炉運転を続けても核分裂性ウランは減少しない。また233Uの初装荷量は1.132t、30年間の追加補給量は0.344t。233U 必要量は1.476tである。出力1GWe当たりに換算すると233U必要量は約7.4tとなる。また出力1GWe当たり30年間に生成されるPuは約1.5kg, MAは約27kg。BWRのPu生成量5.08t、及びMA543kgに比べて極めて少ない。

※補足:
この炉の実現に向けた最大の課題は、如何にして初期装荷する233Uを確保するのかである。過去に233Uを原子炉で生成する実験を企図した事があったが、国内外の様々な理由で立ち消えとなった経緯があり、楽観は出来ない。

最初から233Uの確保が難しい場合には、別の手段で中性子をトリウムに照射する事を考えなくてはならない。この問題は古川和男先生が既に「加速器溶融塩増殖炉」(AMSB)と言う炉の構想を研究発表されている。
このAMSBは、核スポレ-シヨン反応装置を利用して、約10億eVに加速した陽子をベリリウムに衝突させ、そこから発生する多量の中性子を利用してトリウムに火を付けるもの。古川先生は、ターゲット・ブランケット兼用の溶融弗化物塩浴中のトリウムと反応させる方式を考案しています。

これは直径約4m、深さ7mの溶融塩タンクの上部から陽子を入射させる方式で、照射損傷はなく、熱除去も容易な方式。しかしながらこのような陽子加速器は存在しない為、開発が必要である。

※補足:
最近日本国内企業で有望な加速器技術が開発され、低コスト低電力での中性子を発生させる事が可能となっている。

加速器を用いて中性子を得る方式以外で、実現性が一番高いのはやはり、プルトニウムを火種に使う事だろう。これは、FUJI-Pu1と言う熔融塩炉であり、炉心設計も完了している。

FUJI-Pu1は、1年間の運転で991kgのプルトニウムを消費し、455kgの核分裂性物質、即ち233Uを得る事が出来る。現在のMSBRやフランスの熔融塩炉FMSR、改良沸騰水型軽水炉(ABWR)、AMSBなどの炉型とFUJI-Pu1をU233の生産能力と経済性で比較すると、身びいきかもしれないがFUJI-Pu1が一番である。Ufes(t/y)は0.306である。他の炉型の場合、未解決な酸化トリウムの再処理法や安価な加速器が必要であるなど、抱えている問題があり実現性には遠い。

次に熔融塩炉による超ウラン元素の消滅させる能力についてであるが、超ウラン元素(TRU)は、半減期が非常に長い為、消滅させる研究が成されているが、抜本的な解決策は見いだせていない。所謂「トイレのないマンション」と言われる由縁。

このTRUは中性子を照射すると核分裂するので、高速中性子炉である増殖炉よりも熱中性子炉である軽水炉がこの場合適している。例えば超ウラン元素の代表的なものにネプツニウム237がある。この半減期はナント210万年。このネプツニウム237に中性子を照射するとその半減期は、4年に短縮されるのだ。アメリシウムやキュリウムでも同様に半減期が現実的な時間に短縮される。

TRUの消滅&短寿命化で一番高い性能を得る炉型はいかなる炉であろうか?
そこで計算してみた。中性子加圧水型原子炉(PWR)と高速増殖炉、そしてFUJI-Pu1を比較すると、その超ウラン元素消滅率は何と84.7%に達する。PWRは35.7%で高速増殖炉においては31.6%に過ぎない。

FUJI-Pu1の特性をまとめて見ると、プルトニウムを起動用燃料(火種)として使用すると、プルトニウムを消滅させながら、発電でき、かつ233Uを効率良く生成させる事が可能で燃料転換率1.0を達成し、自給自足な炉となる。