会津天王寺通信

ジャンルにこだわらず、僧侶として日々感じたことを綴ってみます。

慈覚大師の御業績を解説  天台宗参務齊藤圓眞龍泉寺御住職様

2013-10-23 20:00:05 | 信仰

            2013年(平成25)10月18日   

                        会津天王寺住職  柴田聖寛

 今年は慈覚大師一千百五十年遠忌にあたっていることもあり、機会を見つけては檀家や知り合いの方々に、慈覚大師のお話をしています。天台宗の法灯は、伝教大師から慈覚大師に受け継がれたことで、天台宗の根本が定まったからです。伝教大師の血脈を守りながら、教義を整えていったのが慈覚大師だといわれています。
 私がそうした話をするにあたって、大いに役立っているのが、天台宗祖師先徳鑽仰大法会事務局が出したCD『慈覚大師の生涯と思想』と『慈覚大師円仁の歩んだ道』の本です。いずれも齊藤圓眞天台宗参務様(教学部長)が語り手と執筆者です。
 CDはKBS京都テレビの「比叡の光」で10回にわたり放送されたもので、わずかな時間にもかかわらず、要点がうまくまとめられていて、何度拝見しても引き込まれてしまいます。また、『慈覚大師円仁の歩んだ道』は、活字になっている分だけ、より理解を深めることができます。そして、映像で齊藤参務がお話された言葉を、もう一度確認できるから助かります。『慈覚大師伝』に記されている「生まれつき聡明で明敏な頭脳と、おだやかでやさしい性質を持ち、当時としては大柄な五尺七寸の、寝ても覚めても仏の教えを慕って思い続けた人である」、平安時代中期の漢詩文の大家である慶滋保胤が『日本往生極楽記』のなかで慈覚大師を評した「凡(およ)そ仏法の東流(とうる)するは、半ば是れ大師の力なり」という言葉も、耳だけでなく、文章でも読めるからです。
 CDのなかでとくに印象に残ったのは、慈覚大師のエピソードを取り上げているところです。単なる伝記として年代を読み上げるのではなく、下野の国の大悲寺で広智の弟子として学んでいた慈覚大師が、すでに伝教大師の夢を見ていたというのは、仏縁を感じてなりません。
 そして、伝教大師の教えを受けることで、大乗仏教の菩薩の精神を忠実に貫くことになりましたが、その一つの例として齊藤参務様は、出羽で大地震があったり、疫病が流行した時に、慈覚大師が巡錫したことに触れています。学問的に優れていたばかりでなく、行動の人でもあったのです。
 慈覚大師は伝教大師の教えを踏襲したのです。838年に遣唐使として海を渡ったのも、やはり齊藤参務様が指摘しているように、伝教大師が果たせなかった密教などを習得するためでした。当初予定していた天台山へは登れなかったものの、五台山や唐の都の長安において、法華教と密教との一致点を見出すにいたったのです。五台山の竹林寺では、五会(え)念仏を学び、それは天台声明として、後に日本に根付くことになります。密教の受法を受けたのは主に長安においてでしたが、胎蔵・金剛・蘇悉地(そしつじ)の三部大法を受け、梵語の書き方と発音をマスターしました。
 そうした唐での慈覚大師の足跡についても、齊藤参務様の話は、聞き手を飽きさせません。入唐求法の旅を辿ることで、熱い信仰心が伝わってくるからです。それと同時に、慈覚大師の信仰者としての仁徳もあって、多くの協力者が登場し、その人たちの振る舞いや言葉が、私たちの心を揺さぶらずにはおかないからです。近衛将軍の李元佐は、慈覚大師との別れにあたって、「来世でも和上の弟子となりましょう」とまで述べたのでした。
 齊藤参務様は慈覚大師が伝教大師から受け継いだ血脈は、「不惜身命(ふしゃくしんみょう)」であったと結論づけています。それは「雪山童子が真理を求めて羅刹(らせつ)の前に身を投げ出した」と同じ生き方をしたからです。
 また、上は天皇陛下から、下は庶民のまで誰もが仏になれるという信仰のために、あえて身を顧みないというのが、天台の信仰でもあるからです。あらゆる人々が救われるのが、菩薩行であるからです。
 武帝による仏教弾圧によって、日本に帰国する前に、慈覚大師は一時還俗を余儀なくされましたが、いくらそのようなことになっても、信仰心が揺るがなかったのは、形とは無関係な奥深い信仰心を問題にしたからです。
 齊藤参務様のおかげで、多くの人に慈覚大師の歩んだ道を伝えることができました。これまで以上に法灯を高く掲げることができるようになりました。それをきっかけにしながら、天台宗の僧侶として、齊藤参務様がその本の結びで、慈覚大師について「仏教というものは、一部の仏教界、仏教僧侶のためにだけあるのではない。今、生きている人々全体のためにあるものだから、人々の日常生活の指針となるような仏教を目指さなくてはならない、これを信念として生きた人だったように思われるのである」と書いていますが、私もそれを目標にして、日々祈りの心を伝えて行きたいと思っております.

 

                                                                                                 合掌

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする