会津天王寺通信

ジャンルにこだわらず、僧侶として日々感じたことを綴ってみます。

めでたい漢字にこだわった氏郷—中村彰彦先生の『歴史の坂道』

2022-09-13 11:41:21 | 読書

ー中村彰彦先生ー

  私が会津に来てビックリしたのは、歴史好きが多いということです。よく読まれているのが中村彰彦先生の著書です。中村先生は花園神社社務所発行の社報『花その』で「歴史の坂道」というコラムを担当しており、令和4年8月1日号では「『松』の字を好んだ名将・蒲生氏郷」を執筆しています。
 秀吉が九州を平定した後に、氏郷は16万石を与えられ、伊勢国壱志郡(いちしごおり)の松ヶ島城に封じられました。中村先生によれば、その場所で満足できなかった氏郷は、近くの四五百森(よいほもり)に新城を築き、「兎角(とかく)我ニハ松ノ字吉相ナリ」(『氏郷記』)というのを信じていたために、そこを松坂城、城下を松坂と名付けて、家臣をそちらに移動させたのでした。
 よくいわれているのは、会津若松の「若松」の地名は、」故郷の近江国蒲生郡若松の森に由来するという説です。中村先生は別な見方をします。氏郷が「四五百森」を「松坂」と改称したように、めでたい意味を持つ漢字にこだわったということに、あえて言及したのでした。
 氏郷が会津42万石を与えられたのは、天正18(1590)年の小田原北条攻めで奮闘したからです。秀吉は同年8月17日、伊達政宗が芦名を滅ぼして自らの領地にしたのを取り上げて、信頼できる氏郷を据えました。天下人になりたかった氏郷には不満もあったといわれますが、同10月に勃発した大崎・葛西一揆を鎮圧したほか、九戸政実(くのえまさざね)の乱も平定したために、会津42万石は、92万石に加増されたのです。そして、杉目は福島に、白石は益岡に、米沢は松崎と改名されました。つまり、中村先生は、黒川を若松にしたのも、その一つであったというのです。
 ですから、氏郷にとって会津は、あくまでも仮の領地でしかなく、だからこそ自らの直轄領は「わずか9万石ノ外ハナカリケリ」というありさまでした。志半ばで倒れた氏郷は、悲運の武士であったのです。中村先生は氏郷の辞世の句も紹介しています。

 限りあれば吹(ふか)ねど花は散るものを心短き春の山風

  合掌

 

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日中国交正常化50周年を迎えて 柴田聖寛

2022-09-04 12:20:48 | オピニオン

 私にとって中国は、伝教大師や慈覚大師の足跡を訪ねて歩いた想い出の国です。それだけに、日中国交正常化50周年を記念して、来る15、16の両日にわたって「友好の初心を温め 美しい未来を共に切り開く」をテーマにしたオンライン形式での交流会議が開かれますが、もう一度両国の絆を確認する必要性を痛感してなりません。
 私が最初に中国の土を踏んだのは、今から40年ほど前のことになります。当時私は京都の大原三千院で修行の身でしたが、自分の信仰を打ち固めるためにもと思い、単身で出かけたのでした。それから毎年のように訪中し、最近では新型コロナで中断しているとはいえ、延べ100回は超えています。主に天台山や五台山が中心ですが、シルクロードのウルムチや敦煌などにも足を延ばしました。その道を通って仏教もまた伝わってきたからです。
 もう私は75歳になってしまいましたが、新型コロナが収まれば、ぜひともまた出かけたいと思っています。私の妻は元中国人で、日本に帰化しました。私が南京で宿にしていた所の娘さんで、いつしか離れられない仲になったのです。ですから、私の長女も9月下旬には、母親の生まれた中国にわたり、北京の清華大学で学ぶことになっています。
 日中国交正常化記念としての標語募集では「草の根の交流の輪に咲く未来」というのが最優秀賞に選ばれました。国家単位では色々な問題があったとしても、民間レベルでは、交流を深めていかなくてはなりません。日本も中国も、両国とも岐路に立たされていると思います。日本は多くの人口を抱える中国と仲良くした方が得策です。中国もまた、日本を必要としているはずです。日本はアジアでもっとも早く近代化を実現した国家です。体制は異なっても、利害が異なるわけではありません。
 私は会津美里町の天王寺の住職をしていますが、会津の人は孫文をかくまったといわれ、その話が会津坂下町に残っています。さらに、戊辰戦争で敗れた会津人は新天地を中国大陸に求め、辛亥革命に馳せ参じた人たちもいたのです。亡国の民となった人たちは、狭い日本に飽き足らなかったのです。いかなることがあっても、両国が争うようなことがあってはなりません。それを「再確認」する大切な年に私たちはすべきなのです。

      合掌

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