はざまの庵

分類し難い存在を愛でる覚え書き by aiwendil お気軽にコメントをどうぞ。

ユキチャン号、勝利。

2007-12-08 15:00:40 | 役にたたない獣医学ひとくちメモ
コメント欄とIWAさまのcapriccioで教えていただいた情報。

過日、当ブログでも福島競馬でのデビュー戦をレポしておりました白毛の競走馬ユキチャン号が本日8日の中山第2レースで初勝利をあげたそうです。

↓ユキチャン号(2007年7月8日撮影)
Yukichan04
 
初戦では結果こそ14着と不本意な結果でしたが、笑ってしまうくらい出遅れた(ゲート出走時に遅れたうえに他の馬が前を横切ったため走路が大きく膨らんでしまった)にもかかわらず、中盤から後半にかけて凄まじい追い上げを見せていましたので、次走に期待していたところ。
期待を裏切らない成果に小躍りしています。
今回は残念ながら投票していませんでしたが、今後も楽しみにユキチャン号の動向に注目してゆきたいです。

なお、ユキチャン号デビュー戦の模様はこちらの記事↓でご確認を。
http://blog.goo.ne.jp/aiwendil/d/20070708


追記補足:白毛はサラブレッドには珍しい毛色で、近年突然変異によって誕生しました。青や茶や黒の瞳を持ち、地肌がピンク色で被毛が白、生まれた時から真っ白です。地肌が有色で加齢とともに被毛だけ白くなってゆく芦毛とは根本的に白さの質が違います。また、瞳が赤く劣性遺伝のアルビノとは異なり、白毛は他のすべての毛色を抑えて優性遺伝するのも大きな特徴です。
白毛遺伝子は優性ホモで致死(胎児段階で死んでしまう)であるため、現存するすべての白毛はWwの遺伝型です。ゆえに、理論的には

白毛とそれ以外の毛色を掛け合わせると、Ww×ww=Ww:Ww:ww:ww で、
生まれてくる仔は2分の1の確率で白毛

白毛と白毛を掛け合わせるとWw×Ww=WW(致死):Ww:Ww:ww で、
生まれてくる仔は3分の2の確率で白毛

となります。倫理的な問題から白毛同士の掛け合わせはできないものの、このように白毛の表現型が遺伝する確率は非常に高いので、もしも白毛の種牡馬が誕生したなら白毛は一挙にメジャーな毛色になるものと予想されます。
私が白毛の活躍を期待する所以です。


2母性マウス。

2007-08-21 03:00:43 | 役にたたない獣医学ひとくちメモ
『単為発生マウス』の「かぐや」で名高い河野氏の研究がニュースになっていたのでメモ。
(ちなみにこれ、広義の単為発生ではありますが、この場合は両親たる別個体由来のゲノム2セットからの発生なので『2母性マウス』と言うのが正解。)
20日朝のNHKニュースで知って、毎日新聞のヘッドラインで概要を確認。
以下、毎日新聞の記事から引用。

単為発生:マウスの誕生確率を大幅に向上 東京農大など
 卵子だけで子どもを誕生させる「単為発生」技術で、マウスが誕生する確率と繁殖能力を持つ大人に育つ確率を大幅に向上させることに、東京農大などが成功した。ほ乳類の発生メカニズムの解明が進むと期待される。20日付の米科学誌「ネイチャー・バイオテクノロジー」に発表した。
 研究チームは04年、世界で初めて卵子だけでほ乳類を発生させることに成功した。ほ乳類の受精卵の成長には、染色体上の特定の遺伝子で片方の親から受け継いだものだけが働くことが欠かせないとされる。研究チームは今回、マウスの遺伝子を操作し、染色体の1カ所を前回同様に働かないようにしたうえ、別の染色体の欠損を加えた。この雌マウスの新生児から未熟な卵子(卵母細胞)を取り出し、その核を精子の代わりに使って、別のマウスの卵子に移植して胚(はい)を作った。
 前回は、371個の胚を別のマウスの子宮に移し2匹が生まれた。今回は286個から38匹が生まれ、27匹が繁殖能力のある大人にまで成長した。
 研究チームの河野友宏教授(発生工学)は「遺伝子操作によって、精子に極めて近い卵母細胞ができたとみられる。精子が働くために不可欠な遺伝子の仕組みが明らかになった。将来は、さまざまな細胞に分化する胚性幹細胞(ES細胞)から卵子や精子を作り出すことが可能になるかもしれない」と話している。【永山悦子】
毎日新聞 2007年8月20日 2時00分


上記記事では『20日付の米科学誌』となっていますが、実際は8月19日付の記事。
「nature biotechnology」のLetter記事のようです。
まだPubMed上へアブストラクトが反映されていなかったのと、日付が間違っていたのとで、元記事を探すのに少々手間取ってしまいました。
ちなみにアブストラクトは→こちら
原文を参照したかったのですが、あいにく「nature」ではなく「nature biotechnology」。
「nature」なら何とかなったのですが、わたくし、「nature biotechnology」まではカバーしていません。
1記事閲覧のために30ドルは痛い。
ということで、涙をのんで図書館へ行けるまで原文はおあずけです。

H19のノックアウトによるIgf2の発現制御、という基本は変わらないようですが、今回はDlk1-Dio3領域が鍵となった模様。Dlk1-Dio3はインプリンティングに係る領域のようですが、PubMedで引いたら2つしか文献がない!
詳細が気になります。
どのようなストーリー展開の論文なのか、楽しみです。

原始生殖細胞が何をもって卵細胞と精細胞へと分化するのか、そのクリティカルな要因は何なのか、ということが長年にわたって追求されてきたわけですが、今回の河野研究室の論文によって、少なくとも精子機能を獲得するためには究極的には2つの要因が鍵となることが示されたわけです。
これでまたひとつ性分化の謎解明のためのヒントが加わったことになります。
世間的には『メスだけで生殖可能な技術』ということばかりが強調され騒がれているようですが、むしろそちらは些事かと。
家畜で実用化するにしても、母1のノックアウト体細胞クローンを作って、さらにその未成熟胎児から未成熟卵母細胞を取り出して、成熟卵母細胞に核置換して、体外成熟させて、そんでようやく母2の排卵へ核移植して活性化して、という工程を経なければならない(しかも成功率は3割)わけですから、これはよほどの必要性がなければ手の出せない領域のような気がします。
しかしまあ、絶滅の危機に瀕していて、伴性の致死遺伝子を抱えてしまったような生物群に対しては有効な繁殖手段ともなりそうな気もします。

性は、生物が生き残ってゆくための 言わばゆらぎを持った戦略的システムです。
雌雄はもともと同じ素材を部材流用して構築されているわけです。
発生過程で分化する以上、哺乳類にもあいまいな性が生じますし、じつは人間が考えているほどオスとメスはかけ離れたものではありません。
オスとメスが不可逆的に分かれている哺乳類は生物界ではむしろユニークな存在かと思います。
その性分化がどのように制御されているのか、そして、なぜ哺乳類だけが性に融通の利き難いゲノムインプリンティングなどというシステムを組み込んで進化を遂げたのか。
SRY発見で決着がついたかと思われた性分化の決定因子についても、様々な上流下流調節遺伝子が次々と発見され、10年以上経った今でも明確な全貌は解明されていません。
まだまだ残される多くの謎。
ここ近年、IT技術と結びついたバイオ技術の進化は目覚ましいものがありますが、それでもきっとあと数十年は楽しめるものと思われ(笑)、興味は尽きません。
発生と性分化。今後も追ってゆきたいトピックです。


福島遠征7/8。(ユキチャン号観賞記)

2007-07-08 21:15:27 | 役にたたない獣医学ひとくちメモ
Yukichan00
本日7月8日は、福島県福島市の福島競馬場へ行って参りました。
目的は、白毛の2歳馬ユキチャン号のデビュー戦を観るためです。
始発の鈍行に乗って8時前には競馬場着。
行ってみれば最終日とあってかずいぶんと混み合っていました。
開門も10分繰り上げの8時50分。
が、無事禁煙指定席を入手。
静かな場所で落ち着いて競馬を楽しむことができました。
パドックを見て 好きな馬を選んで投票する。
走りを楽しみ、応援した馬が入賞して喜ぶ。
これ、馬好きには至福の極み。
本格的な競馬知識は全く無いのですが、いいなと感じた馬を3頭ほど選ぶとたいてい複勝に入ってくれるので張り合いがあります。
Madokara01
5階席だったので、テレビ中継とほぼ同じ目線。予想以上に快適。
窓から様々な光景が見通せます。
Madokara02
Madokara03
そして福島では芝1800mの出走地点が客席の目の前なので、この時ばかりは下まで降りてここぞとばかりに写真、写真。
ふと気付けば競走馬たちの たてがみの編み込みがバラエティに富んでいて面白い。
Tategami


ところで、さて、話題のユキチャン号。
オッズは驚きの2番人気。
しかし結論から言えば、結果は残念ながら14着。
ゲートで出遅れて、しかも、その直後に他の馬が目の前を横切ったためにそれを避けようと走路が大きく外へ膨らんでしまうという踏んだり蹴ったりな序盤が災いしたように思います。
前半は大きく引き離されてしまいましたが、カーブ後半からは果敢に追い上げて集団に追い付いていましたから、好スタートだったなら入賞していたかもしれないなあ、と、思い返すたび残念です。
パドックでも非常に落ち着いていましたし、けっこう大物の予感。
あの立ち居振る舞いなら白毛でなくても私はたぶん投票していたと思います。
そういえば、スタートの出遅れっぷりに会場からはどよめきと笑いが漏れていましたから、ユキチャン号の注目の高さがうかがえて微笑ましく感じました。
今後の活躍に期待です。

なお、これでもかというほどユキチャン号の写真を撮ってきましたのでパドックの様子は以下に。
Yukichankeijiban
珍しい白毛という前評判もあってか、第5レースのパドックにはずいぶん前から人が集まっていました。
私も早目に行って最前列を確保。
先導馬がやってきた時点で既にすごい人だかりです。
登場した瞬間、ギャラリーからはどよめきが。
たしかに息をのむ白さ。
Yukichan04
左側。

Yukichan03
右側。

Yukichan06
頭部右側。

Yukichan07
顔面。瞳は青ではなく黒あるいは茶でした。

Yukichan05
体幹右側。血管の浮き上がりが生々しい。鞍や鐙革も白で統一されているのはさすが。

Yukichan08
臀部右側。尾の白さもまたひときわ。臀部内側の皮膚がピンク色なのも見てとれる。

Yukichan02
前方から。若駒だけあってか けっこう小柄。

Yukichan01
騎手待ち中。後ろの先導馬(芦毛)と比較すると白さの質が違うのがわかる。

Yukichankijou
騎乗後。

Yukichankijou02
落ち着いています。


今回は残念な結果でしたが、記念に。
Yukichantouhyouken
単勝と複勝を同時に投票すると、投票券に『がんばれ!』と表示されることを今回はじめて知りました(笑)。
応援投票と見なされるのですね。

白毛のユキチャン号。
ぜひ良い成績をあげて繁殖馬になってくれることを祈ります。
白毛は白毛以外と かけ合わせても仔が半分の確率で白毛ですから、もしも種牡馬が輩出されたらとんでもなく素敵なことになるはず。
ちょっと不純な動機も混じってはおりますが、ユキチャン号、これからもひそかに応援してゆきたいと思います。

ノロウイルス対策と落とし穴。

2006-12-21 00:06:55 | 役にたたない獣医学ひとくちメモ
よくお邪魔するサイトで、予想以上にみなさま戦々恐々としてらっしゃる様子なので、せっかくなので情報提供。

ちょっとした落とし穴について。
アルコール消毒は、ノロウイルスには効きません。
ノロウイルスの完全不活化には200ppm以上の次亜塩素酸ナトリウムか85℃以上1分の加熱が必要です。
エタノールのスプレーだけでは、ノロウイルスがその場に生き残ってしまうのでおすすめできません。
ウイルスを洗い流すという意味で、石けんでの手洗いとうがいがおすすめ。
擦り込み式ならヨード系が若干効果あり、でしょうか。
ノロウイルスの感染力には凄まじいものがありますので、もしも身近に患者さんが現れたなら、用心しすぎるくらいに注意したほうがよろしいかと思います。
なお、具体的な対策は、厚生労働省の→「ノロウイルスに関するQ&A」(PDFファイル)に詳しく掲載されています。
その他の情報もまとまっている「ノロウイルスに関するQ&Aについて」ページもおすすめ。

皆様どうぞこの冬を無事に乗り切って、それぞれの予定へ順調に臨めますように!


<font size="-3">あれ?</font>

2006-07-12 23:30:24 | 役にたたない獣医学ひとくちメモ
NHK総合で放映されていた「その時歴史は動いた」。
7月12日は荻野久作氏の排卵時期解明論文発表と受胎調節研究がテーマだったのですが、見ていて『あれっ?』と思いました。
学説の論文初掲載が1930年2月とのこと。
ヒトの排卵周期発見ってそんなに遅かったんでしたっけ?
ひょっとしたら排卵周期解明は獣医領域のほうが早かった?
手元に文献がないので確実なことは言えませんが、家畜のブリーディングにおいて発情時期と排卵時期の把握方法はずいぶん昔から確立されていたような記憶が。
勘違いでしょうか。気になります。
これは調べてみなければ・・・・・(笑)。

ちなみにひとくちメモ。ヒトの排卵周期は28日くらいですが、動物の排卵周期は、
牛 21日くらい
馬 23日前後(繁殖期に限る)
羊 17日くらい(繁殖期に限る)
犬は半年に一度くらい
猫は季節に応じて発情&交尾排卵
マウス 4日くらい
(記憶に頼っています。違っていたらすみません。)
このように、いろいろ。
さらに、個体差による例外がたくさんあるので実際はもっといろいろです。
動物の排卵調節機構はまさにワンダーランド(笑)。
生命は奥深いです。

なお、NHKの番組内容概要は→こちら でどうぞ。



<font size="-3">「命の授業」に疑問。</font>

2005-11-12 23:13:16 | 役にたたない獣医学ひとくちメモ
フジテレビで放映されている「たけしの日本教育白書」で紹介された「命の授業」。感動的な教育話のように紹介されていますが、畜産に携わる者としては非常に疑問です。
食用豚は愛玩動物ではありません。
食用豚には食用豚の尊厳があると思います。
育てて食べるならばきちっと6か月肥育し、しかるべき検査を受けて食用にすべきです。
3才の雄豚ではもはやまともな食用にはなりえません。
事前に必要なリサーチもせずに、いたずらに飼い続けて感情移入し殺す殺さないでもめる様子は、私には命を弄んでいるようにしか見えませんでした。
子供たちと動物たち双方のためにも、教育へ安易に畜産の真似事を取り入れるのはお願いですから止めてください、と心から思いました。
テレビの影響が心配です。



<font size="-3">牛のおしりの活用法。</font>

2005-03-02 22:46:48 | 役にたたない獣医学ひとくちメモ
とある場所での話。

ふと視線を上げると、牛のお尻に白い斑が。
「ん?黒毛和種なのに何故だ!?」と、よ~く見ると・・・・
それはアルコール綿。
ああ、誰かが採血した時に置き忘れちゃったのか・・・・・(笑)。


<備考>
[牛尾静脈からの採血法]
1 針をつけた注射器の針カバーを口でくわえておく。右手には消毒用のアルコール綿を持っておく。
2 蹴られないように近付く
3 左手で牛の尻尾を持ってぐいっと上げ、右手のアルコール綿で尾の根元を拭く
4 アルコール綿を牛のお尻の上に置く
5 空いた右手で、くわえておいた注射器を持つ。このとき針カバーをはずす。はずしたカバーはくわえたまま。
6 注射針で尾根部を刺す
7 牛の蹴りをよける(あるいは蹴られても我慢する)
8 すかさず注射ポンプを引いて採血
9 針を抜く
10 牛の尻尾を放す
11 アルコール綿を回収する
12 蹴られないうちに撤収する
13 採取した血液を惚れ惚れと眺める
14 くわえていおいた針カバーを針に戻し、針をはずして採取した血液を別容器に移す


牛のおしりの上は、いろいろ置けてとっても便利。
いや、これ、本当の話。