コラム(426): メディアの経済論が信用できない理由
「春の値上げに続き、6月の値上げラッシュ、これに悪い円安が加わり、家計は大変になっている」というのがメディア各社の共通した論調になっています。
すべての元凶はロシアであることを忘却したメディア
つい、先日までは「ロシアのウクライナ侵略によってエネルギー価格が世界的に高騰している。電力やガソリン、重油の値上げが日本の食産業に悪影響を与えている」と報道し、なかには「ウクライナのことを思えば値上げは我慢する」といったけなげな発言をする人を映し出していました。しかし、最近は、円安問題とひっくるめて、物価高と円安の原因は、暗に「政府の経済政策の失敗にある」と誘導しているように見えます。
彼らには、根本原因であるロシアのウクライナ侵攻問題より、政府を追及する方が楽な仕事であることと、いつものように自民党政権の失敗を印象付けることで今夏の参議院議員選挙で野党勢力を躍進させ、国内を混乱状況にもっていきたいとの潜在願望があるようです。要は、彼らにとって国内で問題状況が多発すればするほど報道することが増える機会が増え、おいしいごちそうになるわけです。これは愉快犯と同じです。
それだけに、彼らは、侵略国家ロシアを糾弾しなければならないメディアの使命はどこかに置き忘れ、対ウクライナ侵略戦争の絵になるところばかりを切り取って報道します。しかも、表向きは悲惨さに眉をしかめて見せているのですが、内面でははしゃいで戦争が長引くのを願っているのが露骨なほどわかります。
とくにワイドショーでは、戦争の悲惨さを強調する映像が、平和を願っているのではなくて憎悪を煽ることに主眼をおいて、戦火がエスカレートすることを期待しているのが透けて見えます。人間として一番醜悪なことを平然と行っているのがテレビメディアと言えると思います。
円高になれば「悪い円高」と言い、円安になれば「悪い円安」というメディア
なぜ、メディア報道に品位がないのかと言えば、彼らの良心がマヒしていることに加え、勉強不足であることと、物事を判断するときは条件反射がすべてであるという点にあります。これは物事の本質を見る目を養ってこなかったことや、原因―結果の法則を無視していることに起因しています。
彼らが勉強不足なのは、夜討ち朝駆けで取材ばかりしているからです。新たな知識をえることなどしてはいません。すべてが聞きかじりで、誰かがもっともらしいことを言うとそれに各社が群がって、各社とも同じ見解を報道してしまいます。どのチャンネルを見ても似たような内容になるのは、メディアの勉強不足の証明です。
その典型が、いまの値上げラッシュと一緒くたにされている「円安【※1】」に対する見解です。メディアは一所懸命「悪い」円安を主張して日本経済がやがて失速するかのような印象を与えていますが、これは、メディアのいつもの悲観論にすぎません。円高の時には「円高が悪い」と言い、今日のような円安になると「円安が悪い」と言う大合唱になりますが、通貨変動の意味を理解しないまま条件反射で論じているのです。
【※1】①現在の円相場約129円という水準は、自動車など輸出関連企業や、外貨建てで配当される海外収益の比重が高いグローバル企業には良い水準である。一方で、ドル建ての原油など資源の輸入契約を多く抱えている輸入関連企業には厳しく。家計にとっては、身近な食品、ガソリン代などの値上がりにつながるため総じて悲観的になる。円安が悪いというのは生活者の視点に立ったコメントである。
②ただ、輸入物価の上昇をすべてを「悪い円安」のせいにすることは避けねばならない。輸入原材料が高騰している主因は資源価格の上昇で、円安は輸入物価がさらに押し上げられている第二の要因にすぎず、円安だけで価格が上昇しているわけではない。資源高も長い目で見て日本企業にとってマイナスとはならないと思われる。資源高が長期化すれば経常収支にとって大きなマイナスとなるが、日本企業は省エネ環境技術で世界トップクラスにあり、日本企業の競争力にはプラスに働くと思うから。資源価格の上昇によって、日本の技術に再び脚光が当たると可能性も大きい。
そもそも、円高も円安も良い、悪い、で評価する必要があるのでしょうか。為替レートと金融政策を直接結び付ける根拠はどこにもないはずです。メディアは、実体経済のことを理解していないから、奇妙な意見を言う専門家の極端な意見を面白がって報道するようですが、それが役立ったためしはありません。
実のところ、経済の専門家が論評し、予測したことでそれが当たったことはめったにお目にかからない。むしろ競馬競輪の予想屋の方が当たる確率が大きいのではないかと思えるほどです。メディアは経済の専門家の言ったことを一覧表にして的中の精度を分析してみたら報道に少しは参考になるのではないかと思います。
財務省に言いなりのメディア
国債の発行残高が1000兆円を超えるとメディアは一斉に「国の借金」が異常なまで膨れ上がったと報じました。また、余談になりますが、真実の中に嘘を巧みに盛り込むことで有名な池上彰氏は「銀行は国民の預金で国債を買っているんです」という話を平然と流しています。メディアの勉強不足がここにも表れています。
さて、メディアにとって一番怖い存在は財務省です。財務省には税務部門があり、メディアが財務省の不祥事を報道しようものなら「子会社を含めた徹底的な税務調査をおこなう」と通告されるからです。過去に大手新聞社、民放キー局は税務調査を受けた苦い経験があります(読売は12億円以上の追徴金)【※2】。以降、メディアは財務省の言うことに忠実です。国債も財務官僚の言う通り「国の借金」として報じています。
【※2】森友文書改ざん問題で自殺された方の問題は、財務省内部の不祥事を隠蔽するために起きた不幸な事件です。しかし、メディアも野党もそして自民党も財務省が怖くて本当のことを言っていません。
しかし、国債発行は国の借金ではなく信用創造、国民の資産が増えているのと同じだという視点に切り替えるべきだと思います。それは、以下の国債発行の流れを見ればわかることだと思います。
①政府が国債を発行し民間銀行から日銀当座預金を借りる
②日本政府は日銀当座預金を担保に、民間銀行に信用創造させ民間企業等に支出する
現在は、日銀が国債を買い取っているため、この後民間銀行が保有している国債を、日銀が日銀当座預金を信用創造して買い取っています。これにより、政府の国債発行により銀行預金が増え、日銀の国債買取により日銀当座預金が増えているというのが現状です。
なお、日銀当座預金を国民は使用できないので、増えようが減ろうが国民には関係ありません。ただ、国債発行により銀行預金が増えるということは国民の金融資産が増えるのと同じで、国債発行=通貨発行と言えます。日本政府が日本円を印刷して国民に支出しているのと全く同じなのです。したがって、国債発行によって増えているのは、負債ではなく資産ということになります。
また、上記の①②は池上氏の嘘を暴いています。
国債を買う原資は預金ではありません。日銀当座預金は、民間経済で回しているお金とは全く別のモノで、日銀当座預金の口座を持っている主に銀行がその口座で取り引きします。もし国債の原資が国民の預金なら、国債発行によって国内の金融資産は1円も増えないことになります。政府が国民からお金を借りるとするなら、国民の資産が政府に移動しただけで、国内の資産は全く増えません。しかし、実際は、国債を発行すると発行した額だけ国内の金融資産は増加します。つまり国債の原資は国民の預金ではないのです。
財務官僚が「国の借金」を言い続けるのは東大で学問的に低く見られている会計学を学んでいないからというのが一因であるようですが、中には「国の借金」という脅しを利用したい大増税論者がいるからだとも考えられます。しかし、メディアは財務省の意向には逆らえず、財務省の主張を今日も垂れ流しています。
メディアが強調する報道を鵜呑みにすることはできません。テレビがああ言った、こう言ったから、やれ日本は大変な状況にある、政府は何をしているのかと思いがちになりますが、もし単純にメディアの言うことを信じたら、メディアと同じ条件反射でしか反応していないことと同じになってしまいます。
私たちは、メディアから垂れ流される様々な情報を鵜呑みにせず、今一歩踏みとどまって、自分の頭で情報を整理し、分析し、物事を考えていく必要があるのではないかと思います。それが情報が氾濫する中での生きる智慧なのかもしれません。
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