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「徒然草 REMIX」 その4 酒井 順子

2016年03月05日 00時15分33秒 | 古典
 「徒然草 REMIX」 酒井 順子 新潮文庫 2014年(平成26年)

 「あらまほし」 その2 P-21

 そんな兼好がしばしば使用するのが、「あらまほし」という言葉です。「あらまほし」とは、「あってほしい、望ましい」「理想的だ、好ましい」といった意。○意識を強固に持っていたからこそ、×な事物に接すると、「あらまほし」き状態を考えずにはいられなかったものと思われます。

 兼好の思考を知るのに良い例となるのが、第140段における「あらまほし」の使用方法です。
「自分が死んだ後に財産を残すというのは、賢き者のすることではない。くだらない物をたくわえているのはみっともないし、良い物を残したら残したで、それに執着したと思うと、あさましい。残された財産が多いのは、ましてや感心しない。『我こそは』と思う者が死後に争う様は、見苦しいものだ。自分の死後に誰かにあげようと思う物があれば、生きているうちに譲っておくべきなのだ」
 とした後で、最後に、
「朝夕なくてかなはざらん物こそあらめ、その外は何も持たでぞあらまほしき」
 としてある。つまり、「朝夕になくてはならない物の他は、何も持たずにいたいでしょうね」という感じです。

 死後に財産を残してしまう「×」話を書き連ね、最後にあらまほしき「○」をご提案。面倒見が良いというか、許せる範囲が狭いというか、この手の書き方は徒然草においてしばしば見られるのです。