一人の薬屋の主が、今静かに店の看板をおろそうとしていた。
そこに一人の男が歩いてきて声をかける。
「やー、薬屋のじーさん。なにをしてるんだい?」
薬屋は答える
「わしももう年じゃ、もう店は閉める事にしたよ」
男は明るく言った
「なら俺にやらせてくれよ、薬なんか山から草を採ってきて混ぜるだけだろ、誰にでもできるじゃないか。仕入れもいらないしぼろ儲けだろ」
薬屋は男に聞いた
「おまえさんは病気になったことがあるのかい?」
男は答えた
「いいや、ないね。あんなもの弱いやつがなるもんさ。」
薬屋は呆れてしまった
「でもいきなり薬屋にはなれんよ、少しは勉強せねばな」
男は諦めなかった
「じゃ、三日後に万能薬でも作ってもってくるから、そしたらこの店を俺にくれよ」
そういい残して男は去った
それから三日後、男は死んだ
薬屋は、男は自分で採ってきた毒草を飲んで死んだという噂を後から聞いた。
しばらくしてから薬屋は男の墓に言った。
そして墓の前で話し始めた。
「わしは50年間薬屋一筋でやってきたが、おまえさんのおかげで一つだけ心残りが出来た」
薬屋はしばらく黙って墓を見下ろして、最後に口を開いた。
「どうして馬鹿に効く薬を発明しなかったんだろうか」
そういい残すと、薬屋は去って行った。