母親の周りにはたくさんの人が集まった。頭からはたくさんの血が出ている。
女の子はその場で動けなくなり、ショックで大きく震えていた。
プリンは女の子の傍にいたが、女の子以外は誰もその姿は見えていない。
”助けなきゃ”
でもそこで、ゼリーの言葉が頭を過ぎる。
”力を使えるのは一年に一回だけ、それに同じサンタが同じ相手に対して二度と力は使えない”
ここでこの子のお母さんを助けてしまうとこの子のお父さんは・・・
でももう迷っている時間もなさそうだ。
女の子の手をギュッと握るとプリンは心から願った
”この子のお母さんが助かりますように”
「ゴホッ」
一度咳き込んだかと思うと母は息を吹き返し、傷も見る見るうちに消え、何事も無かったようにその場に立ち上がった。
そこにいた人は誰もが驚いた様子で呆然としている。
プリン自身も少し信じられない気持ちでいた。
”本当だった、不思議な力の話は本当だった”
母は子供の元へ駆け寄ると、自分のことより子供が無事でよかったと言ってそっと抱きしめた。
それからすぐに救急車が来て母はいろいろ話を聞かれているようだった。
女の子は懇願の表情でプリンの顔を見上げる。
「お父さんも助けてくれる?」
「うん、絶対助けてみせるさ」
ついそう答えてしまった。そうとしか言えなかった。
”そうだ、時間が無い”
女の子から病院と父親の名前を聞き、すぐにソリに乗ると、女の子に手を振り空に舞い上がった。
去り際、「必ず助ける」と言いかけたが、でもそれは言えないことだった。
”どうしたらいいんだ、僕は”
病院は女の子の家のすぐ傍だった。
父親の姿を見た瞬間、もう一年どころか一ヶ月持つかどうかも分からない状態であることはプリンの目にも明らかで、腕には何本ものチューブがつながっていて、口には酸素マスク、それに顔は黄色く変色している。
でも、もうどうにも出来ないことはプリンが一番よく分かっていた。小さい頃読んだサンタのヒーローが主人公の絵本の中だと、こんな時は奇跡が起きてきっと使えない筈の不思議な力がもう一度使えたりすることがある。
”ここで諦めて帰ることは出来ない”
プリンは駄目なことを承知で一心に願った。
”病気が治ってあの女の子が笑顔でいられますように”
しかし何度も何度もどんなに願ってもその願いが叶うことはなかった。
刻々と日の出の時間は近づいているし、それにもうサンタの国へ帰らなければいけない時間はとうに過ぎていた。
”結局僕はあの女の子に何もプレゼントしてあげられなかった”
それを考えるともう帰る気力も失せて、すっかり弱気になっていた。
途方にくれて空を見上げると空の上にたくさんの流れ星が見え、
「よし、もう一度やってみよう」
そう一人で気合をかけると、また一心に願った。
数分が経っただろうか、気が付くと目の前に人が立っていて、すがすがしい顔で空を見上げている。その顔は今までそこに苦しそうにして眠っていた人の表情ではない。
”願いが叶った”
プリンがそう思った時、上の方から聞き覚えのある声が聞こえた。
「おいプリン、俺からお前へのプレゼントだ」
そこには笑顔のゼリーと、空を埋め尽くすほどのサンタのソリが空を滑っていた
父親の病気が治ったのはゼリーの力だった。
「ありがとうゼリー」
プリンがそう言う前にゼリーが叫んだ
「もう時間が無い、すぐにソリに乗れ、みんなで帰るぞ」
プリンは急いでソリに乗り、空高く一気に舞い上がった。
だが時間がかかり過ぎていた。時既に遅く、もう既に空は白み太陽がいつ顔を出してもおかしくはない。
”遅かった。僕のせいでみんなまで巻き添えに・・・
そう思った時、誰かが大声で叫ぶ声が聞こえた。
「日の出がきたぞ。駄目だ、もう間に合わない」
その声を聞いた次の瞬間、気が付くと今度は一斉に喜ぶサンタの歓声が聞こえた。
「やったぞ、俺達はやったんだ」
プリンはいつの間にかサンタの国に帰っていた。
いったい何が起こったのか良く分からない。確かに日の出がやってきて、誰かがもう駄目だって叫んで、でも気が付いたらここにいる。
プリンの横にサンタの長が厳しい顔で立っていた。
「プリン、君はとんでもないことを仕出かしてくれたな」
そう言うと今度は笑顔になった
「でも君にはいいクリスマスになったな」
歓声が落ち着いてからプリンはゼリーを探した。
ゼリーはついさっき涙を流したその場所に座っていた。
ゼリーの横にプリンも座った。
「おまえは俺に出来なかったことをやったな、大分危険だったけど」
そう言ってゼリーは笑った。
プリンにはどうしても聞きたいことがあった。
どうしてゼリーはあの女の子に会ってもいないのに、ゼリーの力であの子のお父さんの病気が治ったのか
ゼリーはゆっくり話し始めた。
「俺はお前が話した女の子のお父さんを助けたいって願ったんじゃない。プリンを助けてほしいって願ったんだ。だからお前が一番困っていることが解決できたわけさ、プレゼントもたまにはあげる方じゃなくて貰うのもいいもんだろ」
ゼリーがそう話すとプリンは改めてゼリーに御礼を言った。
それともう一つ聞きたかったこと、日が昇ってきてもう駄目だって思ったのに、どうして気が付いたらサンタの国へ帰っていたのか
ゼリーは言った
「俺が一人で助けに行くって言ったら、サンタの長に言われたんだ”君が一人で行くのはかまわん。でもいくら助けとはいえ今から出て行けば君もサンタの規則に違反することになる。それに君一人で助けられる事態でなければどうなる?君も消えて無くなってしまうぞ。例えその女の子にプレゼントを渡すことが出来ても、ここにいる全員がそれで納得するとは私は思わんがどうかな?”ってさ」
少し間を置いてからゼリーは話を続けた
「後は自然とそこにいた全員が一斉にソリに乗り始めてプリンのところに向かったんだ。もう時間に余裕がないってことも分かっていたから、日が昇る直前に全員で”ここにいるサンタをサンタの国に帰してくれ”ってそれぞれに願ってプレゼントを渡しあった。ってまぁそういうこと」
話の途中からもうプリンの涙は止まらなくなったいた。
二人は黙ってしばらくそこに座っていた。
「次は新しいソリでいいよ」
どの位そこに座っていただろう。突然プリンがそう言うとゼリーは聞いた
「何が?」
「来年の僕へのプレゼント」
そう言ったプリンにはまたいつもの笑顔が戻っていた。
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・・・END
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