Information「ALTI BUYOH FESTIVAL 2008」
-表象の森- 一輪挿しの椿
ひさしぶりに山頭火の句を表題に掲げた。
<連句の世界->を掲載しないときには、山頭火に返り咲いて貰おうという次第だ。
句集「其中一人」に所収されている昭和8年の句。
念願の庵を得てめでたく「其中庵」の庵主となった日が前年の9月20日。
その日、山頭火は「この事実は大満州国承認よりも私には重大事実である」と書きつけた。
同じく12月3日には50歳の誕生日を迎えている。
そして新しい年を迎えて、ひとり静かな喜びにひたる。
1月6日「まづしくともすなほに、さみしくともあたゝかに。」
「自分に媚びない、だから他人にも媚びない。」
「気取るな、威張るな、角張るな、逆上せるな。」
などと記したうえで、3つの句を添えている。
枯枝の空ふかい夕月があった
凩の火の番の唄
雨のお正月の小鳥がやってきて啼く
表題の句「いちりん挿の椿いちりん」は、この後まもなく詠まれたか。
句自体なんということもない月次な句だが、6畳ばかりの座敷に小さな床の間らしきところ、ぽつんと一輪挿しに椿一輪、自身の姿そのものであろうが、やっと得た、ほのかなやすらぎがある。陽光に照り映えた、命の輝きがある。
―今月の購入本-
・広河隆一編集「DAYS JAPAN –忘れられた世界-2008/01」ディズジャパン
特集の忘れられた世界とは、ソマリア、パレスチナ、そしてビルマである。また「薬害肝炎の源流」として731部隊ついても触れている。ほかに「動物の治癒力」の特集、etc.。
・ゲーテ「自然と象徴-自然科学論集」冨山房百科文庫 -中古書
「熟視は観察へ、観察は思考へ、思考は統合へ」、ニュートン以降の自然科学が、自然を眼には見えない領域へ、抽象の世界へと追いやろうとしていたとき、ゲーテは敢えてその敷居の手前に踏みとどまろうとした。彼にとって、直観によって認識された自然像は抽象的な数式ではなく、可視的にして具体的な「すがた」あるいは「かたち」だったからである。形態学と色彩論を軸にゲーテの自然科学論文を、文芸・書簡・対話録をも抜粋しながら、系統立てて編纂・訳出した書。
・ロバート.P.クリース「世界でもっとも美しい10の科学実験」日経BP社
美しい科学実験とは? 著者は「深さ-基本的であること、経済性-効率的であること、そして決定的であること」の3つをその条件として挙げる。帯のcopyには、ガリレオの斜面/斜塔、ニュートンのプリズム、フーコーの振り子など、科学実験の美しさを「展覧会の絵」のように鑑賞する、とある。
・スラヴォイ・ジジェク「否定的なもののもとへの滞留」ちくま学芸文庫 -中古書
スロヴェニア生れの哲学・精神分析学者であるジジェクは、ナショナリズムの暴走や民族紛争が多発する今日のポストモダン的状況のなか、ラカンの精神分析理論を駆使し、映画やオペラを援用しつつ、カントからヘーゲルまでドイツ観念論に対峙することで、主体の「空疎」を生き抜く道筋を提示する。90年代、「批評空間」に連載された前半部4章に後半部2章を加え、99年太田出版から刊行されたものの文庫版(06年)。
・傳田光洋「第三の脳」朝日出版社
消化器官の腸神経系を「第二の脳」としたマイケル・ガーションに倣って、著者は皮膚もまた「情報を認識し処理する能力において神経系、消化器系に勝るとも劣らぬ潜在能力を有しており、皮膚を第三の脳と位置づけることで、新しい生命観が生まれる」と宣言する。著者は資生堂ライフサイエンス研究センター主任研究員。
・新井孝重「黒田悪党たちの中世史」NHKブックス
伊賀の国名張の黒田荘は、もとをただせば奈良東大寺の荘園であった。長年にわたる東大寺との確執・軋轢から惣国として強固な水平型の結集を果たしていった黒田悪党衆だが、封建的タテ型原理で天下統一をめざす信長の前に敗れ去っていく。
・松本徹「小栗往還記」文藝春秋
著者は説経「小栗判官」を、歴史的仮名遣を用いて、しかも総ルビ付で、現代版の物語として復刻した。中世語り物の世界にいきいきと脈搏つ肉声の響きを甦らせたかったのであろう。
・邦正美「ベルリン戦争」朝日選書 -中古書
日本教育舞踊の創始者である著者は、1936年から45年までドイツに留学、ベルリンに滞在した。ドイツ表現主義の舞踊理論を、ルドルフ・ラバンやメリー・ヴィグマンに師事。ドイツ敗戦間際の5月9日、遠くシベリア鉄道に乗って日本へと帰国するべく、モスクワへ辿り着くまで、10年にわたるベルリン生活の、いわゆるエッセイ風滞在記。
・角田房子「責任-ラバウルの将軍今村均」新潮文庫 -中古書
戦犯として9年の服役を終えた後も、ラバウルの軍司令官今村均には「終戦」はなかった。釈放後もなお14年を生きた彼は、自宅庭先の三畳の小屋に自らを幽閉して戦没者を弔い、困窮している遺族や辛くも生還した部下たちへの行脚の旅が続けられた。
・他に、ARTISTS JAPAN 48-前田青邨/49-浦上玉堂/50-歌川国芳/-渡辺崋山
-図書館からの借本-
・T.シュベンク「カオスの自然学」工作舎
西ドイツの黒い森地方のヘリシュードで流体の研究をする著者は、ルドルフ・シュタイナーの研究者としても知られる。水をひとつの生命体としてとらえることによって、水の未知の性質を把握する一方で、流体の研究を通じて現代文明の歪みを指摘する。
・斉藤文一「アインシュタインと銀河鉄道の夜」新潮選書
ほぼ同時代人であった宮沢賢治とアインシュタイン、この二人の生きざまや自然観の接点を語りながら、古典物理学・相対性理論・一般相対性理論のエッセンスを解説。アインシュタインの神と賢治の法華経を通しての宇宙観の対比など。
・有吉玉青「恋するフェルメール」白水社
著者は有吉佐和子の娘でエッセイスト。フェルメール作といわれている作品は現在、世界に37点。神話が神話をよび、伝説が伝説をつくる。フェルメール・フリークたちは、全点制覇を夢見て世界の所蔵美術館に出かけて行く。
・アートライブラリー「フェルメール」西村書店
17世紀のオランダ絵画を代表するフェルメール。その代表作から貴重な作品までカラー50点を含む多数の図版を掲載・解説してくれる。
・遠藤元男「日本職人史Ⅰ-職人の誕生」雄山閣
日本の古代・中世における職人世界の図説集、452の図版を網羅して解説している。
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