
―四方のたより― KAORUKO紙芝居板「北の旅」その3

「四日目 七月二七日」
宿を出たのは八時。曲がりくねった峠を越えると、屈斜路湖が見えてきました。湖を左に見ながらしばらく走って、摩周湖の展望台に着きました。摩周湖は不思議な湖です。水面がちっとも波立たないで、静かに空の雲を映していて、湖を見ているのか、空を見ているのか、わからなくなります。
神秘の湖にサヨナラして、次に向かったのは野付半島です。一時間あまり走っていると、前の方に青い海がどんどん広がってきました。お父さんが「オホーツク海だ」と言いました。どこまでも長くつづく野付半島は、砂しでできているそうです。砂しというのは、海から運ばれた砂や土が、何万年もかけてたまってできた、鳥のくちばしのような形の砂地です。
半島の途中にあるレストランで食事をしてから、いよいよ知床半島に向かいます。急にお父さんが眠たくなって、運転をお母さんと代わりました。海に沿って走りつづけ、羅臼に着いたところで、眠気の取れたお父さんがまた運転をしました。
知床峠で見た羅臼岳は、山の頂上に雲が少しかかってはっきり見えませんでした。峠を越えて、今度は半島の奥へ奥へと進みます。細い山道をどんどん行くと、とうとう行き止まりになりました。そこがカムイワッカの滝でした。裸足になって、お母さんといっしょに、温かいお湯が流れる滝をそろりそろりと登って行きました。すると滝つぼのように広くなったところに出ましたが、そこでは泳いだりして遊んでいる人が何人もいました。
今度は道を引き返して、知床五湖へ行きました。鹿を何度も見かけました。小さな子鹿がおいしそうに草を食べていました。親子づれの鹿も見かけましたが、見つけるたびワクワクドキドキしました。
そのあと宿の岩尾別温泉に行きましたが、それは知床五湖からすぐのところでした。

「五日目 七月二八日」
遊覧船で半島めぐりをしようと、朝早くから出発して、ウトロの港に行きました。黄色い救命具を着て、小さい船に乗りました。めずらしい岩や小さな滝を見ながら、船はカムイワッカの滝のところまで行って、もどってきました。
それから海にそって北へ北へと走り、網走まで行き、監獄博物館を見学しました。たくさんのマネキンで監獄の様子を表わしているのが、とても気持ち悪かったです。
お昼は能取湖のレイクサイドパークで食べ、それからまた北に向かって走り、サロマ湖の展望台に上がりました。広いサロマ湖のその向こうにオホーツク海が広がって、水平線が見えました。
今度は西へ西へと走ります。山と山の間を通りぬけ、長くてけわしい峠を越えると、そこは二つの大きな滝がある層雲峡でした。勢いよくまっすぐに落ちる流星の滝、途中で岩にさえぎられて「く」の字に曲がって落ちてくるのが銀河の滝です。
そこから宿の朝陽亭まではすぐでした。夕食のあと、ロビーで花火を見て、それからビンゴゲーム大会に、私たちも参加して楽しみました。
―山頭火の一句― 行乞記再び-昭和7年-214
8月11日、コドモ朝起会の掃除日ださうで、まだ明けきらないうちから騒々しい、やがてラヂオ体操がはじまる、いやはや賑やかな事であります。
何となく穏やかならぬ天候である、颱風来の警報もうなづかれる、だが其中庵は大丈夫だよ。
若い蟷螂が頭にとまつた、カマキリ、カマキリ、ウラワカイカマキリに一句デヂケートしようか。
宿のおばさんが「あかざ」の葉をむしてゐる、あかざとはめづらしい、そのおひたし一皿いただきたい。
今日此頃は水瓜シーズンだ、川棚水瓜は名物で、名物だけの美味をもつてゐるさうだが-私は水瓜だけでなく、あまり水菓子を食べないから、その味はひが解らない-。
1貫12銭、肥料代がとれないといふ、現代は自然的産物が安すぎる。
刈萱を活けた、何といふ刈萱のよろしさ!
今日は暑かつた、吹く風が暑かつた、しかし、どんなに暑くても私は夏の礼讃者だ、浴衣一枚、裸体と裸体のしたしさは夏が、夏のみが与へる恩恵だ。
※表題句の外、1句を記す。

Photo/北の旅-2000㎞から―TV「北の国から」の五の石の家-’11.07.25
