―山頭火の一句― 行乞記再び-昭和7年-229
8月26日、川棚温泉、木下旅館
秋高し、山桔梗二株活けた、女郎花一本と共に。
いよいよ決心した、私は文字通りに足元から鳥が飛び立つやうに、川棚をひきあげるのだ、さうするより外ないから。‥‥
形勢急転、疳癪破裂、即時出立、-といつたやうな語句しか使へない。
其中庵遂に流産、しかしそれは川棚に於ける其中庵の流産だ、庵居の地は川棚に限らない、人間至るところ山あり水あり、どこにでもあるのだ、私の其中庵は!
ヒトモジ一把一銭、うまかつた、憂鬱を和げてくれた、それは流転の香味のやうでもあつたが。
精霊とんぼがとんでゐる、彼等はまことに秋のお使いである。
今夜もう一夜だけ滞在することにする、湯にも酒にも、また人にも-彼氏に彼女に-名残を惜しまうとするのであるか。‥‥
※表題句のみ記す
Photo/北の旅-2000㎞から―旭山動物園-’11.07.29
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