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―表象の森― <日暦詩句>-42
「崖」 石垣りん
戦争の終り、
サイパン島の崖の上から
次々に身を投げた女たち。
美徳やら義理やら体裁やら
何やら。
火だの男だのに追いつめられて。
とばなければならないからとびこんだ。
ゆき場のないゆき場所。
(崖はいつも女をまっさかさまにする)
それがねえ
まだ一人も海にとどかないのだ。
十五年もたつというのに
どうしたんだろう。
あの、
女。
-茨木のり子「言の葉Ⅱ」より-石垣りん詩集「表札など」-S43年刊-
―山頭火の一句― 行乞記再び-昭和7年-226
8月23日、何となく穏やかでない天候だつたが、それが此頃としては当然だが、私は落ちついて読書した。
旅がなつかしくもある、秋風が吹きはじめると、風狂の心、片雲の思が起つてくる、‥しかし、私は落ちついてゐる、もう落ちついてもよい年である。
此句は悪くないと思ふが、どうか知ら。
―山頭火の一句― 行乞記再び-昭和7年-227
8月24日、晴れてきた、うれしい電話がかかつてきた、-いよいよ敬坊が今日やつてくるといふのである、駅まで出迎に行く、一時間がとても長かつた、やあ、やあ、やあ、やあ、そして。――
友はなつかしい、旧友はとてもなつかしい、飲んだ、話した、酒もかういふ酒がほんとうにうまいのである。
※表題句のみ記す
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Photo/北の旅-2000㎞から―網走の監獄博物館-’11.07.28
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