山頭火つれづれ-四方館日記

放浪の俳人山頭火をひとり語りで演じる林田鉄の日々徒然記

波音のお念仏がきこえる

2011-01-13 23:39:14 | 文化・芸術
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―四方のたより―

<日暦詩句>-4
野良犬・野良猫・古下駄どもの
入れかはり立ちかはる
夜の底
まひるの空から舞ひ降りて
襤褸は寝てゐる
夜の底
見れば見るほどひろがるやう ひらたくなつて地球を抱いてゐる
   ―山之口漠「襤褸は寝てゐる」より-昭和15年―

―山頭火の一句― 行乞記再び -137
5月23日、晴、行程6里、小串町、むし湯

久しぶりの快晴、身心も軽快、どしどし歩く、久玉、二見、湯玉といふところを行乞、小串まで来て宿を探しあてたが、明日は市が立つので満員で断られる、教へられて、この蒸湯へ来た、事情を話して、やつと泊めて貰ふ、泊つて見れば却つて面白い、生れて初めて蒸湯といふものへはいる、とても我慢が出来なかつた。-略- 

旅寝の目覚の窓をあけたら、青葉若葉に朝月があつた。
このあたりの海岸は日本的風景。

蚤と蚊と煩悩に責められて、ちつとも睡れなかつた、千鳥が啼くのを聞いたが句にはならなかつた。‥
先日からいつも同宿するお遍路さん-同行といふべきだらうか-、逢ふたびに、口をひらけば、いくら貰つた、どこでご馳走になつた、何を食べた、いくら残つた、等々ばかりだ、あゝあゝお修行はしたくないものだ、いつとなくみんな乞食根性になってしいまふ!

※表題句の外、2句を記す

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Photo/長門二見あたりの海辺

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Photo/湯玉近くにある福徳稲荷の壮観


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けふは霰にたゝかれてゐる

2011-01-12 23:36:33 | 文化・芸術
Dc090707120

―四方のたより― 善意のパフオーマンス化

<日暦詩句>-3
冬といふ壁にしづもる棕櫚の影
冬といふ日向に鶏の坐りけり

落葉やんで鶏の眼に海うつるらし
   ―三好達治「落葉やんで」より-昭和5年―

タイガーマスクの伊達直人を名告り、群馬県の児童相談所前にランドセル10個が置かれていた-昨年暮れの25日-、という報道がなされるや、波状的に全国に伝播して、いまやひきもきらせぬこの善意運動、あしたのジヨーや桃太郎、せんとくんまで名告る匿名氏も現れた、という。
一過性のものとはいえ、いいことにはちがいない。
いいことにはちがいないが、なんだかこの現象、「善意のパフオーマンス化」と言えない向きもない。
便乗型の心性に些か底が浅かろうなどと揶揄する気持は毛頭ないが、触発され動いたその一回性の行為が、それぞれの個の中で、一定の持続性をもちうる志にまで深まることになれば、と思う。
実際のところ、この騒ぎのように世間に知られることのない匿名の善意というものは、全国津々浦々至る所にある筈だし、地道にコツコツと積み上げてきた尊い善意のタネは、このパフオーマンス化とは遠いところで、人知れずさまざまな花を咲かせている筈だ。
この騒ぎのなか、毎日新聞の夕刊記事「ランドセル贈り続けて半世紀」の見出しにはさすがに眼が釘付けになった。
三重県四日市の鞄店主二代にわたっての話だが、掲載された写真の姿、その表情がさすがにいい。


―山頭火の一句― 行乞記再び -136
5月22日、あぶないお天気だけれど休めない、行乞しつつ4里は辛かつた、心身の衰弱を感じる、特牛-コットイ-港、三国屋

此宿はおもしろい、遊郭-といつても四五軒に過ぎないが-の中にある、しかも巡査駐在所の前に。
山、山、山、青葉、青葉、青葉。
今日の行乞相はまづ及第、所得はあまりよくない。
棕櫚竹の拄杖はうれしい、白船老はなつかしい。
附野-津津野-のお薬師さまにまゐる、景勝の地、参拝者もかなりあるらしい。

※表題句のみ記載、改作と註あり

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Photo/海岸線を眼下に望む丘の上に建つ附野薬師

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Photo/附野薬師東山寺近く観涛園にある奇巌「俵石」


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ふるさとの言葉のなかにすわる

2011-01-11 18:20:44 | 文化・芸術
Santouka081130062

―四方のたより― この冬一番

<日暦詩句>-2
骨片は、飢えた海の光である。華やかな庭は鳥のやうに消え去つた。花を祝えば、橋は頬桁を歪めて一本の道を示す。花に膨れ上がつた一本の道は、墜ち凹み一本の道の中の一本の道となつて、安堵の霰を吐く。
――――
ひとかたまりの光は、少女から離れないであろう。筋肉のやうに。ひとかたまりの光は骨片の中に潜んでゐる。骨片を翳す少女は幸福なるかな。
   ―北川冬彦「光について」より-昭和4年―

零下1.0℃、この冬一番の冷え込み、奈良では―4.7℃だったという。
扇町公園の噴水には、うっすらと氷が張ったそうだ。

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―山頭火の一句― 行乞記再び -135
5月21日、曇后雨、行程6里、粟野、村尾屋

今にも降り出しさうだけれど休めないやうになつてゐるから出かける、脱肛の出血をおさへつつあるく。
古市、人丸といふやうな村の街を行乞する、ホイトウはつらいね、といつたところで、さみしいねえひとり旅は。
行乞相はまさに落第だつた、昨日のそれは十分及第だつたのに-それだけ今日はいらいらしてゐた-。

今日の道はよかつた、丘また丘、むせるやうな若葉のかをり、ことに農家をめぐる蜜柑の花のかをり。
今日はよく声が出た、音吐朗々ではないけれど、私自身の声としてはこのぐらゐのものだらうか。

油谷湾―此附近―は美しい風景だ、近く第一艦隊が入港碇泊するさうだ。
今日の昼食は豆腐屋で豆腐を食べた、若い主人公は熊本で失敗してきたといふ、そこで私独特の処世哲学を説いてあげた。

どうも夢を見て困る、夢は煩悩の反影だ、夢の中でもまだ泣いたり腹立てたりしている。‥

※表題句の外、2句を記す

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Photo/棚田から望む油谷湾の夜景

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Photo/上空から捉えた仙崎の港と青海島


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こんやの宿も燕を泊めてゐる

2011-01-10 10:32:26 | 文化・芸術
Dc091226131

―四方のたより―

<日暦詩句>-1
在らぬたましひの在らぬこゑ
在ることの怖れはもはやない
在らぬことは怖れではない
在らぬことの怖れは在らない
すべての在ることの怖れは在らぬことへの予感であり
すべての在らぬことは在ることの怖れからの解脱である
   ―那珂太郎「鎮魂歌」より―

朝6時の目覚め、午後からは初稽古だが、年越しからかなりバタバタしてきて、なんだかやっと新年を迎えた気分。
昨日は夕刻より、新年早々からバレエの講習会参加のため神戸に戻つてきているという、ありさとありさパパと久しぶりのご対面。
一昨年の9月以来だから、その変貌ぶり、おとなの女になり初めていく少女は、すでに仄かな色香を周囲の空間へと放っていた。
仕事のため東京に残ったというゆりママの不在が、この少女の成長と変容の内実をよく物語っているともいえそうだ。
したがって、話の主筋は一成パパが担って進むから分かり易く見とおしも効く。
結論は一言だ、なにがなんでも、ワガノワへ行っちまうこと。

この日の午前、波除に、TKとその父とその弁護士との、三人の焼香を迎えた。
Ikuyoは、ひたすら儀礼的に、にこやかにさえして、彼らに応接し、見送った。
遅れてDaisukeも家族を伴ってやってきたが、これまたなんのわだかまりも見せずに終始した。
ひとり私だけが、少しばかり異空間に座している観があったのではなかったか。

一昨日-1/8-は、週明けにと思っていたのだが、作業を了えてしまえば早いに越したことはないとばかり、最終校正を持って大正の国際印刷へと出向いた。
表紙の紙質も決めた。200部で充分と思っていたが念のため300部に指示。印刷upの予定は23日の週かという。

―山頭火の一句― 行乞記再び -134
5月20日、曇、行程4里、正明市、かぎや

いやいや歩いて、いやいやホイトウ、仙崎町3時間、正明市2時間、飯、米、煙、そしてそれだけ。
此宿の主人は旧知だつた、彼は怜悧な世間師だつた、本職は研屋だけれど、何でもやれる男だ、江戸児だからアツサリしてゐる、おもしろいね。
同宿6人、みんなおもしろい、ああおもしろのうきよかな、蛙がゲロゲロ人間ウロウロ。

空即空、色是色、―道元禅師の御前ではほんたうに頭がさがる、―日本に於ける最も純な、貴族的日本人、その一人はたしかに永平古老仏。
ここで得ればかなたで失ふ、一が手に入れば二は無くなる、彼か彼女か、逢茶喫茶、ひもぢうなつたらお茶漬けでもあげませうか、それがほんたうだ、それでたくさんだ、一をただ一をつかめば一切成仏、即身即仏、非心非仏。

初めて逢うた樹明君、久しぶりに逢うた敬治君、友はよいかな、うれしいかな、ありがたいかな、もつたいないかな、昨日今日、こんなにノンキで生きてゐるのはみんな友情の賜物である、合掌。

※表題句の外、1句を記す。


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雲がない花の散らうとしてゐる

2011-01-04 22:54:28 | 文化・芸術
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―日々余話― 佐賀と長崎を廻って

暮れの28日から正月の1日まで、北九州の佐賀と長崎を周回する旅へ。
高校時代の修学旅行は此の地だった、以来まったく訪れたことはないから50年ぶりか。
鳥取に大雪が降って1000台からの車が立ち往生、雪中の越年と騒がれたように、我々の旅も、雨と風と雪と、天候不順の連続だった。

1日目、太宰府で高速を降りて先ずは天満宮へ、それから武雄温泉を経由し、嬉野温泉泊。
2日目、祐徳稲荷へ参り、有明海を横目に島原半島へ、半島をほぼぐるりと周回して、長崎市内泊。
3日目、大浦天主堂からグラバー園、唐寺の崇福寺、浦上天主堂と廻って、西海、佐世保を経由して平戸島泊。
4日目、生月島を廻りザビエル教会を見て、松浦経由で雪降り積む伊万里へ、呼子から土谷棚田へと廻り唐津へ、唐津城、虹の松原、佐用姫の鏡山-領巾振山-と廻り、佐賀へと抜けるが、この峠道-国道323号-が雪、雪。合流する国道263号へと回り込んで、やっと佐賀市郊外の三瀬ダム湖畔へ無事着、此処で大晦日の夜を過ごし新年の朝を迎える。

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Photo/土谷棚田

5日目、帰路はひたすら高速の筈が、山口に入ると通行規制にかかり、下関から熊毛-岩国の手前-までは国道2号を走る。以後、山陽道は渋滞もなく走行し、午後8時ジャスト帰宅。
5日間の全走行は2000㎞をわずかに上回っていた。

-2011年詞-

Nenga20110

―山頭火の一句― 行乞記再び -133
5月17日、18日、19日、降つたり吹いたり晴れたり、同じ宿で。

仏罰覿面、痔がいたんで歩けないので休養、宿の人々がまたよく休養させてくれる、南無――。
同宿の同行はうれしい老人だつた、酒好きで、不幸で、そして乞食だ!
何といふ山のうつくしさだらう、このあたりに草庵を結ばうかと思つたほどのうつくしさだつた。
終日黙想、労れたら寝た、倦いたら読んだ、曰く、講談本、――新撰組、相馬大作、等、等、等。
自動車パンク、そしてガソリン発火、こんな山村にもこんな事件が起つた、そして狂人、そして死人。‥‥
晴、風、そして雨、それがホントウだ。
またここで、一皮脱ぎました、たしかに一皮だけは。

※表題句は5月16日記載の句より


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