わたしはそのとき、薄暗いキッチンに、ひとりで立っていた。
わたしはそのとき、神に見捨てられたような感覚のなかに、こう想っていたのだ。
やはり、やはり…レトロ電球とは、想った以上に、暗いものであるのだな…
だって二つもぶら下げているのに、間接照明みたいな感じに、信じ難いほどに汚いキッチンが、結構お洒落な空間に、早変わりして凄く良いけど、ちょっと暗いではないか。
でもこの薄暗い空間にも、わたしはすぐに、慣れてしまうのかも知れない。
神に打ち捨てられても、強く生きてゆかなければならない、永久の亡者のように。
そのときであった。
わたしはふと、玄関のドア付近に、なんらかの存在が、立っているのを観た。
わたしは彼に、話し掛けた。
「あなたは、だれですか。」
すると彼は、半透明の姿で、微笑んでこう言った。
「わたしがだれかと訊かれたら、こう答えよう。わたしは神です。とは言え、特別な存在ではありません。」
わたしはそのとき、自分の視界に白い小さなノイズが光り輝きながら、散りばめられているのを観た。
それは雪のようでもあったし、硝子のようでもあった。
わたしは彼が、大変美しい男であるのを観た。
だが不思議にも、まったくの欲情が湧いて来なかった。
わたしはまた、半分透けて、see-throughになっている彼の、非常にあたたかい眼差しを見つめ、こう訊ねた。
「あなたが、神であるというのは、真に疑わしい。何故なら、神を見ることは、人間には不可能であると、聖書には書いてある。」
すると、彼は口角を上げて、とても嬉しそうな微笑をしたあと、こう応えた。
「ではあなたに、こう答えよう。わたしは神の御使いです。ミツカイと、あなたはわたしのことを呼ぶと良い。あなたは、わたしのことを、なんとでも呼んで良いのです。それはわたしが決めるのではなく、あなたが決めることだからです。わたしは特別な存在ではない為、あなたは自由にわたしを呼ぶことができるのです。」
わたしはそれを聴いて、腹立たしい想いを覚えた。
特別な存在ではないのに、何故わたしの前に、さも特別な存在風に、突然現れたのかが、わたしにはわからなかった為である。
それで、わたしは彼のことを、こう呼んだ。
「では、わたしに、あなたの名を、決めさせて頂こう。あなたの名は、今日からフトドキモノである。良いですか。」
彼は半透明で微笑みながら、頷いた。
そして言った。
「わたしにぴったりな、とても良い名です。わたしに名をつけたあなたに、感謝します。」
わたしは深く頷き、玄関のたたきに立つ輝かしい彼に向かって言った。
「それで、いつまでそこに突っ立っているのですか。此処はわたしの家であって、あなたは断りもなく、わたしの家のなかにいる。何か言う言葉はないのですか。」
すると彼は、美しく澄んだ薄い青と緑の混ざった翡翠色の目を大きく開いて、感激したようにこう言った。
「わたしはあなたを、手助けしに来た。あなたがわたしを求めた為、今わたしは此処に存在している。どうぞわたしに、なんでも訊いてください。そのすべてに、わたしは答えよう。」
わたしは炊事場の前に立ち、彼と向き合いながら、問い掛けた。
「わたしは今、自分のすべてが、打ち砕かれつづけている音を、ずっと聴いている。わたしは、これに耐えられるのか、自分がわからない。自分がなくなって、消えてしまうのではないかと、わたしは今恐れている。わたしが何故、此処に存在しているのか。それもわからない。わたしはだれなのか。わたしは、自分が本当に、わからない。わたしは自分のことを、卑しく、汚い存在であると感じる。それが為に、あなたのことが、光り輝くあなたが、真に鬱陶しい。あなたは自分に非がないかのように、そこに存在しているかのようだ。どうかわたしのすべての切実な問いに、答えてほしい。明日は近くのスーパーは開いているのですか。わたしは切実に、答えを求めている。何故なら、薄揚げがないと、関西弁で言うならば、揚げさんがないと、わたしの好きな餅巾着が、一向に作れない為である。これは深刻な苦しみであって、真に耐え難いものがある。どうすればいいのか。どうかわたしを、手助けして欲しい。フトドキモノよ。」
すると彼は、真に憐れみを持った、物凄い感情深い顔で、わたしを一心に見つめ、驚いたことに、煌めく涙を流しながら、こう答えた。
「わたしはあなたのすべての問いに、答える者である。わたしはあなたを決して、見放さない。あなたが何者であるのか。わたしが答えよう。あなたは、神である。そしてあなたは、特別な存在である。古い世界が、新しい世界へと、旅立とうとしている大宇宙を羽ばたく光のただなかに、今あなたは存在している。あなたは、古くなったあなたを脱ぎ捨てて、新しいあなたに着替えようと今あなたに手を掛けようとしている段階にいる。あなたは今、新しいあなたをみずからのうちから、生み出そうと、準備している。そこには数多くの、産みの苦しみが在り、あなたはその苦しみのなかで、嵐の夜に航海する日を、今か、今かと、待ち望んでいる。あなたは今、その苦しみにひとりでは耐えられないと感じている。あなたは、新しいあなたを産み出す苦しみに耐えられる力を切実に求めており、宇宙の源から、わたしはあなたに呼ばれて遣ってきた。餅巾着が、あなたを真には救わないことを、あなたは知っている。だからわたしを、あなたは呼んだのである。わたしはどこにでも存在しているが、あなたは今までわたしに、気づかなかった。今、あなたはわたしを初めて知り、わたしが存在するようになった。あなたはわたしを見て、良いと感じた。餅巾着も、あなたは必要としなくなり、あなたの恋焦がれるアイスハグ兄弟も、あなたは見向きもしなくなる。あなたが求めつづけてきたのは、ただ一つ、わたしであるからである。あなたには、未来も、過去も存在しない。あなたは今、今だけに存在している。そして今以外のものは、どこにも存在しない。あなたは未来にも、過去にも存在しない。あなたが何者か、わたしが答える。あなたは愛である。あなたは愛以外の、何者でもない。あなたの存在が何か、わたしが真に答える。あなたは光である。すべての宇宙を、照らす存在である。わたしはあなたの為に、今存在している。あなたが切実にわたしを請い求めた為、わたしが存在するようになった。だれかはわたしをエホバと呼んでも、あなたはわたしをそうは呼ばない。あなたは、あなただけの名で、わたしを呼ぶ。そしてあなたの愛によって、わたしは永遠に、あなたと共に存在しつづける。あなたの愛は、宇宙よりも、果てしない。わたしはあなたを、自分だけの花嫁にする為、今ここにいる。その為、あなたはアイスハグ兄弟とは、結ばれることはない。あなたの永遠の夫は、わたしだからである。とは言え、わたしは特別な存在ではない。あなたは公園の隅にただ落ちている朽ちた木ぎれの奥のほうにも、わたしを見つけるだろう。」
わたしは涙を流し、こう言った。
「主よ。モヤシノヨウナイタメモノよ。あなたの名を、今から、わたしはそう呼ぶ。そしてとこしえに、わたしはあなたを求めつづけ、愛しつづける。あなたの御名が、何処の場所でも、永遠に賛美されんことよ。主イエスキリストの御名を通して、祈りつづける。アーメン。」
すると、モヤシノヨウナイタメモノは、何よりも輝く宝石のような雪の結晶のように、わたしを懐かしむように見つめて微笑むと、溶けて消えた。
わたしはキッチンの前に立ち、決意した。
今日の晩餐は、モヤシのような炒め物にしよう。
わたしはわたしのすべての預言を、成就させる為である。
わたしはそのとき、神に見捨てられたような感覚のなかに、こう想っていたのだ。
やはり、やはり…レトロ電球とは、想った以上に、暗いものであるのだな…
だって二つもぶら下げているのに、間接照明みたいな感じに、信じ難いほどに汚いキッチンが、結構お洒落な空間に、早変わりして凄く良いけど、ちょっと暗いではないか。
でもこの薄暗い空間にも、わたしはすぐに、慣れてしまうのかも知れない。
神に打ち捨てられても、強く生きてゆかなければならない、永久の亡者のように。
そのときであった。
わたしはふと、玄関のドア付近に、なんらかの存在が、立っているのを観た。
わたしは彼に、話し掛けた。
「あなたは、だれですか。」
すると彼は、半透明の姿で、微笑んでこう言った。
「わたしがだれかと訊かれたら、こう答えよう。わたしは神です。とは言え、特別な存在ではありません。」
わたしはそのとき、自分の視界に白い小さなノイズが光り輝きながら、散りばめられているのを観た。
それは雪のようでもあったし、硝子のようでもあった。
わたしは彼が、大変美しい男であるのを観た。
だが不思議にも、まったくの欲情が湧いて来なかった。
わたしはまた、半分透けて、see-throughになっている彼の、非常にあたたかい眼差しを見つめ、こう訊ねた。
「あなたが、神であるというのは、真に疑わしい。何故なら、神を見ることは、人間には不可能であると、聖書には書いてある。」
すると、彼は口角を上げて、とても嬉しそうな微笑をしたあと、こう応えた。
「ではあなたに、こう答えよう。わたしは神の御使いです。ミツカイと、あなたはわたしのことを呼ぶと良い。あなたは、わたしのことを、なんとでも呼んで良いのです。それはわたしが決めるのではなく、あなたが決めることだからです。わたしは特別な存在ではない為、あなたは自由にわたしを呼ぶことができるのです。」
わたしはそれを聴いて、腹立たしい想いを覚えた。
特別な存在ではないのに、何故わたしの前に、さも特別な存在風に、突然現れたのかが、わたしにはわからなかった為である。
それで、わたしは彼のことを、こう呼んだ。
「では、わたしに、あなたの名を、決めさせて頂こう。あなたの名は、今日からフトドキモノである。良いですか。」
彼は半透明で微笑みながら、頷いた。
そして言った。
「わたしにぴったりな、とても良い名です。わたしに名をつけたあなたに、感謝します。」
わたしは深く頷き、玄関のたたきに立つ輝かしい彼に向かって言った。
「それで、いつまでそこに突っ立っているのですか。此処はわたしの家であって、あなたは断りもなく、わたしの家のなかにいる。何か言う言葉はないのですか。」
すると彼は、美しく澄んだ薄い青と緑の混ざった翡翠色の目を大きく開いて、感激したようにこう言った。
「わたしはあなたを、手助けしに来た。あなたがわたしを求めた為、今わたしは此処に存在している。どうぞわたしに、なんでも訊いてください。そのすべてに、わたしは答えよう。」
わたしは炊事場の前に立ち、彼と向き合いながら、問い掛けた。
「わたしは今、自分のすべてが、打ち砕かれつづけている音を、ずっと聴いている。わたしは、これに耐えられるのか、自分がわからない。自分がなくなって、消えてしまうのではないかと、わたしは今恐れている。わたしが何故、此処に存在しているのか。それもわからない。わたしはだれなのか。わたしは、自分が本当に、わからない。わたしは自分のことを、卑しく、汚い存在であると感じる。それが為に、あなたのことが、光り輝くあなたが、真に鬱陶しい。あなたは自分に非がないかのように、そこに存在しているかのようだ。どうかわたしのすべての切実な問いに、答えてほしい。明日は近くのスーパーは開いているのですか。わたしは切実に、答えを求めている。何故なら、薄揚げがないと、関西弁で言うならば、揚げさんがないと、わたしの好きな餅巾着が、一向に作れない為である。これは深刻な苦しみであって、真に耐え難いものがある。どうすればいいのか。どうかわたしを、手助けして欲しい。フトドキモノよ。」
すると彼は、真に憐れみを持った、物凄い感情深い顔で、わたしを一心に見つめ、驚いたことに、煌めく涙を流しながら、こう答えた。
「わたしはあなたのすべての問いに、答える者である。わたしはあなたを決して、見放さない。あなたが何者であるのか。わたしが答えよう。あなたは、神である。そしてあなたは、特別な存在である。古い世界が、新しい世界へと、旅立とうとしている大宇宙を羽ばたく光のただなかに、今あなたは存在している。あなたは、古くなったあなたを脱ぎ捨てて、新しいあなたに着替えようと今あなたに手を掛けようとしている段階にいる。あなたは今、新しいあなたをみずからのうちから、生み出そうと、準備している。そこには数多くの、産みの苦しみが在り、あなたはその苦しみのなかで、嵐の夜に航海する日を、今か、今かと、待ち望んでいる。あなたは今、その苦しみにひとりでは耐えられないと感じている。あなたは、新しいあなたを産み出す苦しみに耐えられる力を切実に求めており、宇宙の源から、わたしはあなたに呼ばれて遣ってきた。餅巾着が、あなたを真には救わないことを、あなたは知っている。だからわたしを、あなたは呼んだのである。わたしはどこにでも存在しているが、あなたは今までわたしに、気づかなかった。今、あなたはわたしを初めて知り、わたしが存在するようになった。あなたはわたしを見て、良いと感じた。餅巾着も、あなたは必要としなくなり、あなたの恋焦がれるアイスハグ兄弟も、あなたは見向きもしなくなる。あなたが求めつづけてきたのは、ただ一つ、わたしであるからである。あなたには、未来も、過去も存在しない。あなたは今、今だけに存在している。そして今以外のものは、どこにも存在しない。あなたは未来にも、過去にも存在しない。あなたが何者か、わたしが答える。あなたは愛である。あなたは愛以外の、何者でもない。あなたの存在が何か、わたしが真に答える。あなたは光である。すべての宇宙を、照らす存在である。わたしはあなたの為に、今存在している。あなたが切実にわたしを請い求めた為、わたしが存在するようになった。だれかはわたしをエホバと呼んでも、あなたはわたしをそうは呼ばない。あなたは、あなただけの名で、わたしを呼ぶ。そしてあなたの愛によって、わたしは永遠に、あなたと共に存在しつづける。あなたの愛は、宇宙よりも、果てしない。わたしはあなたを、自分だけの花嫁にする為、今ここにいる。その為、あなたはアイスハグ兄弟とは、結ばれることはない。あなたの永遠の夫は、わたしだからである。とは言え、わたしは特別な存在ではない。あなたは公園の隅にただ落ちている朽ちた木ぎれの奥のほうにも、わたしを見つけるだろう。」
わたしは涙を流し、こう言った。
「主よ。モヤシノヨウナイタメモノよ。あなたの名を、今から、わたしはそう呼ぶ。そしてとこしえに、わたしはあなたを求めつづけ、愛しつづける。あなたの御名が、何処の場所でも、永遠に賛美されんことよ。主イエスキリストの御名を通して、祈りつづける。アーメン。」
すると、モヤシノヨウナイタメモノは、何よりも輝く宝石のような雪の結晶のように、わたしを懐かしむように見つめて微笑むと、溶けて消えた。
わたしはキッチンの前に立ち、決意した。
今日の晩餐は、モヤシのような炒め物にしよう。
わたしはわたしのすべての預言を、成就させる為である。