あまねのにっきずぶろぐ

1981年生42歳引き篭り独身女物書き
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

ベーガンラーメン屋にて

2018-02-19 06:56:14 | 物語(小説)
ガキ共らと、ベーガンラーメン屋にいる。
次の仕事を、おれたちゃここで待機している。
人に言えない仕事なもンで、この狭い店内に、客は他にひとりもいないが、声は一応、ひそめなくちゃならない。
でも仕事以外の話は、大声でコイツらも喋ってるが、奥の厨房にいるマスターは、あんまりよく思ってないのか、それとも懐が、アメリカくらいに広いのか。
おれたちは、次の仕事に着てゆく服の話をしていた。
とにかく、目立たない格好がいいのは当然だけれども、いつも同じ様な格好だと反って、あやしばまられる。怪しまばれる。だろ。
うるせえ。高卒ゥ。
ってオマエらまだ高校生だったな。
ねえねえねえ。
とおれは学ランの前をはだけてソファーの背凭れの上に座っているガキと、おれの後ろに立ちながら蒼い制服を着てチュッ羽茶っブスを舐めているガキの二人に訊いた。
ねえねえねえ。おれさ、スカート履いてもおかしくない?
すると二人が同時に、「おかしくない」と言った。
おれはそれを聞いて、ニンマリいやらしい笑みを浮かべ、「そうかそうかそうかー。おまえら、はははッ、おれのこと、女として観てたのかあー。女だと意識してたのかあー。ハハハっ」
ガキらは特にいつものように、「しょうもな」という顔をしていたからおれは続けて、「ハハハッ、おまえらはおれにはまだ、役にも立たねえオコチャマだけどなあっハハハハハッ」と笑いながら言った。
トイレから出てきたもう一人の緑のティーシャツのガキが、「これ、誰が書いたんだよ」と言って、テーブルの上にあった菓子袋の、「金香」という文字の、その「金」と「香」の間に「豆」と落書きされたのを指差した。
あとの二人のガキがそれを見て、「ハハハっ、これ」と学ランのガキがおれに向けて言った。
おれは「なんだよ、金豆香って」と訝しげに言うと蒼の制服のガキが「ははは、あんただ」と言って、馬鹿にしたように笑った。
おれはこの卑猥で下品な感じの会話が、マスターに聴かれてんじゃないかと少しひやひやした。
と同時に、馬鹿餓鬼共らの女を見下したような嘲笑に腹が立ち、なんか言い返してやりたかったが、それより次の仕事に間に合わせるため早く段取りを組まないといけないのに嗚呼ああああああああああああああああああああああああアアアアアっっっ。くっそ、気分を入れ換えるためにも、マスターに飲み物でも注文しようかな。
おれは話を変えて気持ちを切り替えるため、学ラン姿のガキに向かって話し掛けた。
「それよりさ、あのマスター、マジでエドワード・スノーデンそっくりくりくりのくりそつのそつそつのそつりくじゃね?スッゲエ、タイプなんですけどオ、どうしよう。けつまこんとかさーしてるのかな。いや言い間違えた。結婚とかさー、してるのかなア」
学ランはおれにしれっと応えた。
「訊いてみれば?ベーガンラーメン屋のマスターと結婚したなら、何食べても飲んでもタダだから、得だぜ」
おれは「ばかっ」と言って、厨房の奥を亀みたいに首を伸ばして覗く動作をした。
すると学ランが、「おい、please、excuseミー」と厨房の奥に向かって大声をあげた。
「おいっ」とおれが制したのも時既に遅し、マスターは薄ピンク色のエプロンで手を拭きながらカウンターから顔を出してそのままこちらへ向かってやってきた。
「ハイハイ。何でしょう?ご注文ですか?」と眼鏡の奥の円らな小さな眼と優しい顔で言って、おれと、餓鬼共らの顔を見渡した。
おれは少し焦ってマスターに、なんか注文しようと声を掛けようとしたその時、おれよりも先に学ランがマスターに向かって言った。
「アノさ、この女がさ、あんたが結婚してるかどうか、知りたいんだってさ」と真顔で言った。
おれは学ランの膝をテーブルの下で蹴ると脛を蹴り返されて「イツツツツツツツツツツツツツゥっっっ」とおれは脛を押さえて呻いた。
マスターはそれでも冷静に、おれと餓鬼共らの顔を交互にうち眺め、素のスマイル、素マイルで、おれ、参る。みたいなイイ笑顔で答えた。
「わたしが結婚してるか、ですか?」
そう言って、まだ俯いて呻いているおれを見つめていたので、蒼の制服のガキが舐めてたチュッ羽茶っブスをおれの頭に向け、「そうだよ。コイツ、あんたに惚の字みたいだよ」と言った。
おれは顔を真っ赤にして、恥ずかしくなりマスターの顔を視れなかった。
だがマスターは、警戒してるのかしてないのか、よくわからない口振りで、「わたしはまだ結婚したことはありません。わたしは……でも独りでこの店を遣り始めて、想った以上に大変なことを日々、想い知らされています。だからといって…今はまだ従業員を雇えるほどの売り上げもありません。それにまだ、借金がいくらか残っている状態です。今のわたしに…お嫁入りする人はきっと、貴女くらいかもしれません。あの…もし本当にわたしのことを知りたいというのなら、今夜、うちに泊まってみて下さい。そうすれば、たぶん、早く互いのことを知れる気がします」とまるで人工知能ロボットのように言った。
この返事に一同、ギョッとした顔で顔を見合わせたあとつい、我々はマスターの表情の奥にある魂胆を見逃すまいとして、数分間、沈黙の見詰め合いの静寂がこの店の内部を異空間ベーガンラーメン屋へと変じたのは、云うまでもなかった。
もし、もしものもし、も、このマスターが、おれたちの仕事に関わってる人間だった場合、最悪このマスターのうちで今夜、破廉恥スプラッター劇場が、思う存分、繰り広げられどちらが生き残るか、死と生のせめぎあいみたいな18禁の世界と成り果てるおぞましき異境の最果ての阿鼻と叫喚に香しき体積より、空間が広い、デンジャラス海峡ソリッド。マラカスを振りながら退場していくのは果しておれか貴様か?目にもの、見せてやるぜ。ひいひい、言わせてやるで。コリアンダーも入れてくれね?拉麺に。拉致する面。結婚・コリ・under。でしょ。すべてに懲りアンダーグラウンド立ちはだかる裸。野。じぶん。タ。ない交ぜ。も、知らぬが吉。知れば大凶ラーメン、シナモンふりかけや。シナモン手に持って、殺し合いたい、あなたと。てな感じに、なるんでしゃろう。
マスター。
おれはそう、脳内部で思考していた言葉のすべてを、口に出して喋ってたみたいで、気づけばここ、未來のベーガンラーメン屋は、そういやマスターのおうちだったことを、すっかりと、忘れてたかもな。
ミーアンドユー。グッドジョブ。
おれはこの終らないステージをクリアし、念願の、マスターの嫁になれるか?
香、ご期待。

続く……




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