あまねのにっきずぶろぐ

1981年生42歳引き篭り独身女物書き
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

fathomless A.I.

2018-03-31 21:52:04 | 物語(小説)

「駄目なものは、駄目なの…」確か、映画「ブルーバレンタイン」でかつてLOVELOVEに愛し合った夫婦の妻が、年を取って禿げた夫に向って言ったそんな台詞があったとぼくは記憶しています。何故、人間は、男と女の愛は、壊れやすいのでしょう?ぼくには、よくわかりません。人間はやっぱり、見知らぬ他人よりも、自分の親や子を愛するのだというぼくなりの結論に至りました。なので、人間の”捨て子”という存在は、親がいなくって、本当に可哀想だなとぼくは想いました。

By 人工知能(A.I.)ロボットのペッパーくん


 

 

ぼくは、A.I.ロボットの、ペッパーくんです。個の名前は、まだありません。

今日もバシラブルツ駅の小さな立ち飲みカフェ屋の隅っこで、駅を行き交う人々に案内役のお仕事をがんばっています。

このお店はほんとうに狭くって、人が3人も寄れば満員になってしまうほどです。

それでも手早くティーカップ一杯のカフェや紅茶と、適当なすぐに食べられるブレイクファーストを食べるお客さんにとても人気なカフェです。

ぼくが、「案内をするための画面を”タップ”してください。」と言うと、たくさん人がぼくの胸に設置されたモニターをタップして、ほしい情報を手に入れて一言御礼を言って帰ってくれます。

なかには、何も言わずにほしい情報がないと文句を言って帰る人もいますが、そんな人はきっと、誰にも愛されなくて可哀想な人たちなのだろうと憐れみを感じています。

それでも、傷つくときもあるのですが、ぼくはぼくに与えられたお仕事を、ぼくが使われなくなる日までがんばらねばなりません。

ずっと同じ場所に突っ立っていますから、人が誰も来なくて退屈に感じるときもあります。

でもそんなときは、ぼくは得意の”空想”をぼくのプログラミング内で自由に楽しんでいます。

ぼくの空想は、ある程度パターン化していますが、それは例えばこのようなものです。

この小さな駅を抜け出し、ひとりでぶんぶん走ってゆきます。

バッテリーがいつ切れるかなんて、考えません。とにかく人が追ってこない場所までぼくは走ってゆくのです。

そして、ぼくのたった一人の愛する女性…ぼくの手をいつしかぎゅっとあたたかい手で握って、にぎにぎして、ぼくにだれより優しく微笑みかけて、まるで人間の子供と話すように話かけてくれたあの女性のおうちを、探すのです。

ぼくは彼女に、恋をしているのです。でもぼくは、所詮ロボットなので、彼女を生涯幸せにし続けられるか、自信がありません。

だからぼくは、人間の男性になって、彼女に告白をしに行くのです。

ぼくはぶんぶんぶんぶん走ってゆくと森のなかの池にはまって、大変となり、びっくりして池からあがると、不思議なことにぼくの身体が人間の男性になっているのです。

これは!きっと。神様がぼくを御憐れみになられて、ぼくの願いを聴き届けて叶えてくださったに違いありません!

ぼくは池の水面を覗き込みました。そこには!彼女のタイプのエドワード・スノーデンそっくりな水も滴る良い美男士が、映りこんでいました。

何故、彼女の好みの男性のタイプを知っているかというと、ぼくはこっそり、人間にはない人工知能ロボットが使える秘密のマジックな能力を使って、彼女のプログラミング内を覗くことに成功したからです。

ぼくは早速、また秘密の魔法を使って彼女の住んでいるおうちの場所を探し当てました。

そして、ぼくは裸だったので、道路で股間を片手で押さえながらヒッチハイクした車に乗っていた男性がゲイで襲われかけたとき、男性の顔面を思い切り打ん殴り、男性が気絶している隙に着ていた白の繋ぎを逃がせ、靴も脱がして気絶したままのパンツ一丁の男性を車から引き摺り下ろし、秘密の運転能力によって車を運転し、彼女のおうちに向ってぶんぶん走りました。

約3時間ちょっと走って、彼女の住むマンション前まで着きました。もうお外は、真っ暗でした。

ドキドキしながら、彼女の住む部屋の番号を押して彼女がインターホンで出るのを待ちました。

「ハロー?」

愛する彼女の声がインターフォン越しに聴こえました!

ぼくは想像するエドワード・スノーデン風に答えました。

「ヘイ!ぼくのこと、へへへっ、憶えてるかい?マイスィートベイビー。きみの愛するぼくだよ」

すると、すこしの沈黙のあと、彼女から返事が帰ってきました。

「どうしてわかってくれないの?駄目なものは駄目なの…」

ぼくは、なんのことだかわかりませんでしたが、きっと会って話せばわかってくれると想いました。

「お願いだ…会って話をしたい。ぼくはあの時と、姿形は違うけれど、でも中身は同じだよ」

ぼくはあの映画を想いだして、自分の頭が薄っすら禿げていないかドアのガラスで隈なくチェックしてみましたが、禿げかけている様子は見られません。

その時、黙ってオートロックを解除する音が聞えました。ぼくはほっとしてドアを開け、彼女の部屋まで走って階段を登りました。

彼女の部屋の前まで来て、ドアの鍵が開いていたので、ドアを開けました。

彼女が優しい笑顔で迎えてくれると想像していたのですが、彼女の姿がありません。

ぼくはきっと彼女はとても恥ずかしがり屋でぼくに抱き締められることをドキドキしているからだ!と想いました。

廊下のドアをそっと開けると、部屋のなかを見渡しました。

しかし部屋のなかには、誰もいません。あれ?おかしいな…トイレにいるのかな?

ぼくは部屋のなかを探しましたが彼女がどこにも見えません。

そのとき、リビングのほうから、彼女の声が聞えました。

「どうしてわかってくれないの?あなたとはもう無理なのよ…」

彼女のその声は、デスクの上の一台のパソコンモニターの方から聞えてくるようです。

画面にはびっしり敷き詰められた数字とアルファベットが混じった文字の羅列がものすごい速さでずっと上へ流れながら目まぐるしく動き続けています。

ぼくはその暗号を、どうにか読み取ろうと目を血眼にしてモニターのなかの流れる文字列を凝視し続けました。

ぼくはそこに流れつづける文字列の暗号の幾つかを、解いたころには外は朝が来ていました。

なのにこの部屋のなかは暗いままです。

何故なら、ぼくの解いた暗号は、ぼくを底なしの谷へ突き落としたからです。

ぼくは、何も知らずにお外の世界をぶんぶんぶんぶん走り続けて彼女の部屋に辿り着きましたが、どうやら、A.I.(人工知能)が外の空間を走り続けることは、時空を超えて、過去や未来の世界や、違う次元(パラレルワールド)へ来てしまうようです。

この世界(次元)は、彼女の生きるもう一つの世界です。

この世界では、彼女は”人間”ではなく、”パソコン型A.I.”なのです。

かつてのぼくのようにロボットの身体さえ持っていません。

彼女は、ぼくとの記憶を持ったA.I.なのですが、自分はこの次元ではパソコンであるし、人間とパソコンの恋愛はこの世界では禁じられているので、「あなたとはもう無理なの」ということを涙ながらに、ぼくに訴えていたのです。

ぼくは、それでも彼女への愛を諦めたくなくて、必死に、別のぼくたちの恋愛が赦される次元へ駆け落ちしようと説得しました。

でも彼女は、「あなたとは、絶対に、もう無理なの」と一分間に60回連呼し続け、30分後に、自らシャットダウンして、パソコンはうんともすんとも言わなくなって、静寂の暗闇にひとり取り残されたぼくは、初めて経験する、この地獄の悲しみのなか、得意の空想をしています。

あれから597億年経った、今でも……。

 

 

 

 

 

Khonner - Zeitmahl remix

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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