あまねのにっきずぶろぐ

1981年生42歳引き篭り独身女物書き
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

愛と悪 第九章

2020-01-12 15:49:45 | 随筆(小説)
真の弥勒の世をこの世に実現する唯一の至高神エホバ。
わたしはアイスハグ兄弟を撃ち殺し、わたしも死んでしまいたいのかもしれません。
さっき想像してみたのです。彼をわたしのものにする為に。
わたしの手に銃があったなら…みんな帰った王国会館のなかで、わたしは震える右手で銃を持って、その銃口をアイスハグ兄弟の顔面に突き付けて、もう一度、あの夜と同じ質問をするのです。
「アイスハグ兄弟、7日の夜は、酷い言葉を沢山言って、本当に申し訳ございませんでした。
ですがわたしの愛するアイスハグ兄弟、もう一度お訊ねします。どうか御答えください。
わたしが、エホバに滅ぼされてしまっても、アイスハグ兄弟は楽園で永遠に幸福に生きつづけるのですか?」
アイスハグ兄弟は青褪めた顔で脂汗を額から流しながらわたしの目を涙を湛えた目で見詰め、深刻な顔で、打ち震える首を横に振ります。
わたしは銃を捨ててアイスハグ兄弟を抱きしめたあと、口吻けし、彼に涙を流しながら言います。
「わたしは…わたしを赦せないのです…。エホバがわたしを赦してくださろうが、わたしは、わたしをどうしても赦せないのです…。」
それでわたしは戻って、銃を手にして彼の心臓を撃ち抜き、わたしもその場で銃口を咥えて引き金を引きます。
そして幽体となって天井近くに浮かんでいるわたしはわたしの死体とアイスハグ兄弟の死体を眺め、それを良いと感じるのですが、どうしたことか、霊であるわたしはこの神殿から、外へ出ることができないのです。
3万年という時が経とうが、わたしは此処にいて、殺した自分と彼の死体の側にいて、真っ赤な血の広がる神殿の白い床を中空から眺めているのです。
それでさらに2万年ほど経過したあとに漸く、わたしは覚ります。
わたしはなにものも、わたしのものにはできなかったのだと。
その瞬間、神殿のドアが開かれます。
わたしは此処から解放されるのです。
ドアの外の空間は真っ白で、天井も壁もあるように見えません。
でもわたしの前に、大きな真っ黒い穴が一つ、地に開いてあり、その黒い穴に堕ちる以外に、わたしは行くべき場所はないことを知ります。
わたしは真っ暗な空間のなか、堕ちてゆく。
下へ、
下へ、
ずっと、
ずっと、
ずっと、
地の底へ向かって。
すべての愛する者たちから、わたしは離れてゆく。
わたしの悲鳴を聴く者はだれもいない処まで、わたしは堕ちてゆく。
最早わたしでさえも、わたしの悲鳴が聴こえなくなる処まで。
堕ちてゆく。
底へ。
底へ。
底へ。
生まれるまえのわたしが、居る場所。
存在するまえのわたしが、在る場所。
底へ向かって。
わたしはたったひとり、堕ちてゆく。




















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