ねこ絵描き岡田千夏のねこまんが、ねこイラスト、時々エッセイ
猫と千夏とエトセトラ
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桃の中の虫
2021年09月02日 / 虫
桃を切って入れたお皿の内側に何かついていたので、桃の皮か何かだろうと思ってフォークで皿の縁によけておいたのが、急に動き出したのでびっくりした。
1センチメートルに満たないほどの芋虫である。よく見ると桃の切断面に小さな穴があったので、そこから出てきたのだろう。せっかく穴の中で桃を食べていたのにごめんなあ。冷蔵庫で2時間、寒かったなあ。桃と一緒に虫を切らなくてよかった。いや、それ以上に、知らずに食べてしまわなくてよかった。虫にとっても、私にとっても。
野菜についていた虫などは庭に捨てたりするのだけど、桃についている虫となると、うちの庭には桃に代わる食料がないので、捨てるには忍びない。
戸棚を開けて何か入れ物を探していたら、虫嫌いの長男が、「ちょっと、飼うとかやめて。庭に捨てて。ベランダじゃなくて庭に。」とできるだけ遠くへ捨てるよう必死の抗議をしてきた。
そもそも草木のないベランダには捨てないけれど、仮に捨てたとしても、全長8ミリほどしかない芋虫が、這って台所まで戻ってくるか?さらにそこから君の部屋まで行くかよ。
長男の抗議は無視して、私はプリンのカップに、桃の穴のあいた部分を切り取って入れて、その上に幼虫をのせた。えさの取り替え用にもう一切れ冷蔵庫にしまっておいて、残りの桃は注意深く調べてから、全部食べた。とてもおいしい桃だった。
桃の上にのせられた幼虫も、桃を食べ始めた。ずいぶんうまそうに食べているように見えた。おいしいねえ。同じ釜の飯、ではないが同じおいしい桃を美味しく食べた仲となり、親しみがわいた。
何の虫なのかネットで調べてみると、「シンクイムシ」という小さな蛾の幼虫らしい。「昔は、シンクイムシがいると『熟している証拠』だと言って、虫をよけて残りは食べました」
現代は虫を取り除いても、実の残りは食べないのだろうか?とくに桃みたいな高価な果物はもったいなくて捨てられないし、実際すごくおいしかったですよ?
しばらくしてプリンケースをみると、虫はもとの穴にほぼ潜ってしまっていた。部屋の壁が全部おいしい桃だなんて夢のような家だ。
しかし、切った桃は常温でどのくらい持つのだろうか。人間様でも高くてなかなか買えない桃を、こやつのえさのために買ってくるというのは少々辛いものがある。
できるだけ早く蛾になって、さっさと飛んで行ってくれないかなと思う。
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かめさんのたまご
2015年07月23日 / 虫
夕方洗濯物を取り込もうとすると、シャツの右肩の下あたりに、直径1ミリメートルほどの球状のものが12粒、かたまってくっついていました。12粒が不規則についているわけではなくて、縦に4粒、5粒、3粒並んだ列が3つ集まって12粒です。
この粒々がなにか知らなかったなら、「なんだこれ」と思うだけで、取り除いて捨てて、他の洗濯物と一緒に畳んで片付けていたかもしれませんが、私はこれがなんだか知っていました。カメムシの卵です。去年も、ベランダへ出る窓の網戸に生んでいったのです。
去年の場合は、初め、網戸にとまってじっとしているカメムシを見つけました。ただじっとしていただけなのですが、その佇まいになんとなくただならぬものを感じ、「このカメさん、何かしようとしている」と思ったので、ちょくちょく様子を見ていました。
何度目かに見に来てみると、もう10個ほどの卵が生みつけられたあとで、カメムシ母さんは、卵から1センチほど離れたところで、大仕事をやり終えてほっとした様子で休んでいました。
虫の図鑑に、子どもをお腹の下にかくまって守るカメムシの写真が載っているので、このまま卵を見守り続けるのかしら、母親の鏡やなあと思って眺めていると、カメムシ母さんはしばらく休んだあと、「じゃああとは任せた!」とばかり、ブゥゥーンと身軽に飛び去っていってしまいました。
私は心の中で「ま、待てぇー!」とカメムシ母さんのうしろ姿に叫びましたが、致し方ありません。網戸にくっついた10粒ほどの卵と一緒に、ベランダに取り残されてしまいました。
特別カメムシが好きなわけでもありませんし、家の中に入って来られると結構迷惑ですから、10粒の卵から10匹の子カメムシが出てくるというのはあまりいい気持ちがしませんでしたが、カメムシ母さんの生みの苦しみを見てしまった私は、一応自分も出産経験者であることから、カメムシ母さんにシンパシーを抱いてしまい、とても網戸についた卵を取って捨てたりはできませんでした。
そして6日後、黄金色に黒い縞の入った小さなカメムシの赤ちゃんたちが生まれて、みんなそれぞれに、新しい世界へ旅立って生きました。
そんなわけで、今回シャツにくっついている12個のカメムシの卵も、そっとしておいてしまっているのです。シャツの卵を見つけたのが、台風が来る前の7月16日でした。去年の記録を見ると、1日違いの7月15日にカメムシ母さんが卵を産んで、6日後の21日に卵が孵っているので、シャツの卵ももうそろそろかと、どきどきしている次第です。
↓卵から孵った赤ちゃんカメムシを寄り目で観察するまる。
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怖ろしいカマキリ
2011年09月14日 / 虫
カマキリは嫌いではない。好戦的なまなざしで睨んでくるといった、どことなく怖いところもあるけれど、かまを手入れする様子は、猫が顔を洗う動作に似ていなくもない気もする。
虫が好きな次男にぜひ見せてやろうと、まだ庭にいる子供をこっちにおいでと呼んだ。
ほかの虫ならば、目の前に人が近づくと、逃げるのが普通だろうと思う。ところがカマキリは、三角形の顔を傾けて、身をかがめて自分を見ている子供を見据えると、身体を上下に揺すりながら、じりじりと近づいてきた。それは威嚇しているようでもあり、獲物を狙っているようでもあって、なんとなく怖い気がした。
そのとき、私は自分の足に止まった蚊を叩いていたのでよく見なかったのだが、子供が突然悲鳴を上げて跳び上がり、横に逃げて、尻餅をついて泣き出した。たぶん、カマキリが飛び掛るような動作を見せたのかもしれない。怖がって泣く次男を抱き上げて、見るとカマキリは、今度は私の方に向かってきた。
まっすぐ靴に近寄ってくるので、まさかと思いながらもどうするのか見ていたら、よける暇もないほどの、迷いのない素早さでカマキリは私の靴にのぼり、私の足を這い上がってきた。
カマキリは嫌いではないけれど、あまり掴みたい気もしないから、何かで払おうと手近にあった小枝に手を伸ばしているそのあいだに、カマキリは素早く私の身体から抱っこしている息子の太ももに飛び移り、息子が恐怖の叫び声をあげたので、そうもいっていられず、私はカマキリを手で払った。カマキリは、片方のかまでしつこく息子のズボンの裾しがみつきながらも、とうとう羽を半開きにして足元に落ちた。
子供だけでなく、正直私も怖かった。それにしても、カマキリがどう頑張ったところで、人間相手に百パーセント勝ち目はないだろうに、何を思って立ち向かってくるのだろう。不思議で、怖い虫である。
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モンシロチョウ
2011年04月21日 / 虫
本当に春になったら蝶が出てくるのかしら、途中で死んでしまってはいないかしらとときどき蛹が入っているケースを覗いていたけれど、少しずつ春の気配が感じられてきた頃、蛹の中で、もう蝶の姿になっているのが透けて見えた。一見何の変わりもないようでいて、じつは内部では着実に準備が進んでいたらしくて、自然の不思議がキッチンにもちゃんとあった。
それから一週間くらい経った3月18日の朝、モンシロチョウは羽化してしまった。
暦の上では春とはいえ、その前日から夜にかけて雪が降って、窓の外は冬に戻ったような雪景色の朝だった。
それから気温はどんどん上がって、お昼には、雪はすっかり解けてしまったけれど、まだ蝶が舞うような春の陽気とまではいかなかった。もう少し暖かくなるまで、家の中で飼わなければならないと思った。
成虫を飼うとなると、花の蜜をやらなければならない。以前、冬のあいだに羽化してしまった蛾を飼っていたときに、切花の上に乗せてやると、すぐにストローのような口を伸ばして、せわしなく蜜を探ったから、同じように、ちょうど部屋にあったフリージアの花に乗せてみたけれど、モンシロチョウはただ花びらの上につかまるだけで、ストローが伸びる様子はない。
花が気に入らないのかしらと思い、図鑑の写真にモンシロチョウがヒメジョオンにとまっているのがあったので、同じキク科のマーガレットを買ってきて乗せてみたけれど、それもだめ、道端に咲いていたタンポポや、庭に生えていた名前の知らない小さな野の花を摘んできてみたけれど、だめだった。
インターネットで調べたところ、8倍から10倍に薄めた蜂蜜を脱脂綿などに含ませてやるといいとあったので、さっそく作って綿棒に染み込ませて口元に持っていったけれど、やっぱり反応がなく、ぐるぐるときれいに巻いてあるはずのストローも白い顔の毛の下に隠れてちっとも見えないので、本当に口があるのかしら、越冬の途中で何か不都合があってストローが欠落してしまっているのではないかしらと心配になるほどだった。
ともあれ、ちっとも蜜を吸ってくれないので、これは家で飼うのは無理なのかもしれないと思い、植物園へ連れて行ってみることにした。ちょうど毎年この時期に、エントランスの広場に温室を設けて、春の花をいっぱいに植えて展示しているのである。去年見に行ったときには、ミツバチが菜の花にたくさん集まってせっせと蜜を集めていたから、もしかすれば仲間の蝶もいるかもしれないと思った。
実際に行ってみると、やっぱり蜂はいたけれど、蝶は一匹も飛んでいなかった。日中はぽかぽかしていたけれど、もう日が少し落ちて、空気がひんやりして来ていた。そういうところへ放すのも心配で、また連れて帰った。結局寒い思いをさせただけだった。
蜜を飲まないのは、まだお腹が空いていないのかもしれない。そう思って、もう空いたかと何時間かおきに花や蜜入りの綿棒を口元に勧めてみたが、知らん顔をしている。
二日目の夕方、ようやく綿棒の先にストローを伸ばして蜜を吸ってくれたときには、本当にうれしかった。ストローがどく、どくと振動して、いかにも飲んでいるような様子だった。それにしても長い口で、花弁の奥まったところにある蜜にでも届きそうだった。飲み終わると、几帳面にストローを巻いて、猫がやるように、前足で顔の辺りをこすっているのが可愛いと思った。
そんな調子で、毎日2回ほど、綿棒で蜜を与えた。生花も入れてみたけど、こちらは見向きもしなかった。
外はなかなか暖かくならなかった。ほかの蝶が飛ぶのを見つけたら、すぐ放してやろうと思って見ていたけれど、小さな羽根の生えた虫はいても、蝶はまだ見なかった。しばらくすると、狭い飼育ケースの中で飛んでプラスチックの壁に羽を打ちつけたためか、あるいは猫か子どもがケースをひっくり返したためか(彼らはケースの中の蝶に興味津々である)、片方の羽が折れてしまった。それでも、一番暖かい窓辺の日のあたる場所に置いておくと、ぱたぱたと飛び回って、そのために余計羽は破れて、もう高いところへは飛べないだろうと思われた。夜は、明るい電灯の下に置いておくと早死にするらしいので、日没の頃に、電話台の下の物入れにケースごと仕舞った。
そして、4月4日、昼間いつものように明るい窓辺でぱたぱた羽を動かしていたと思ったら、夕方帰宅すると、ケースの隅っこで死んでいた。桜が段々咲いてきて、ようやく明日くらいから春らしくなるという予報だった。
モンシロチョウの成虫の寿命は2週間ほどだというから、17日生きたのはまずまずだとは思うけれど、好きなように外を飛ばせてやれなかったのが、なんとも残念だった。
次の日に、桜の木の下に穴を掘って、桜の花と一緒に埋めてやった。息子にも花を取っておいでというと、小さな蝶の墓穴には大きすぎるような椿を折ってきたので、埋めたあとの地面に挿しておいた。
いいお天気で、青い空の下の菜の花畑に、モンシロチョウが二匹、三匹、ひらひら飛んでいた。
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いもさんたち2010秋
2010年11月25日 / 虫
ブロッコリーの茎の上に伸びたようにくっついていて動かないので、死んでいるのかもしれないと思ったけれど、冷蔵庫の中で仮死状態になっているだけで、からだが温まったらまた動き出す可能性もあるので、青虫が乗っている房だけを包丁で切り取って、ミニトマトが入っていたプラスチックケースに入れて様子を見ることにした。
しばらく経ってみてみたらやっぱり同じ体勢のままで、次の日の朝にも見たけれど、じっとして動かなかった。冷蔵庫の低温で死んでしまったのだろうと思って、もう捨てようと思いつつ、キッチンの窓辺に置いてそのまま忘れてしまった。
土日に一泊旅行に行って帰ってきたら、ケースの中の様子が違っているようで、糞が増えている。あれ、と思ってよく見たら、ひとまわりくらい大きくなった青虫が、もうだいぶしなびてしまったブロッコリーをせっせと食べていた。
モンシロチョウの幼虫である。以前やっぱりブロッコリーについてきたモンシロチョウの青虫がいて、蝶になるのを楽しみに飼っていたところ、すでに寄生蜂が巣食っていて恐ろしい目をしたことがあるから、モンシロチョウを育てるのは躊躇したのだけれど、少しでも異常が現れたら外へ出そうと決めて、飼うことにした。
新しいブロッコリーを冷蔵庫から出してひと房切り取り、嫌がる青虫を新鮮なほうに移し変えた。ケースの底に散らばっていた糞も捨てた。
そのうちえさを食べなくなって、ケースの天井の隅に張り付いて、動かなくなった。さなぎになるのかもしれないけど、油断はできなかった。前回も同じような状況になってさなぎになるのだと思いきや、そうじゃなかったからである。
動かなくなってから、いつさなぎになるのだろう、本当になるのだろうかと、どきどきしながら、毎日ケースの中をのぞいた。目を凝らすと、青虫のまわりに細い繊維が綿のようになっているのが見えた。少しだけ期待した。
ある朝、幼虫は、小さいけれど立派なさなぎになっていた。背中のところが三角にとんがった、茶色いさなぎである。モンシロチョウの生態を調べると、さなぎになる前に最後の脱皮をしたらしいけれど、よくわからなかった。前日の夜まではまだいも虫の形をしていたのに、なんだか感動した。もう寄生虫の問題は大丈夫だと思われる。
写真でみた越冬用のさなぎに色や形が似ているようなので、このまま春まで眠っていてくれればと思い、そっとしておくことにする。
モンシロチョウ問題がひとまず片付いたのでほっとしていたのもつかの間、またブロッコリーを買ってきたら、今度は袋に大きな緑色の塊がごろんごろんと落ちていて、もしやと思うまもなく、巨大な茶色のいも虫と対面した。グロテスクなのでグロちゃんという名前をつけて昔飼ったことがある、ヨトウガの幼虫である。モンシロチョウの幼虫の3倍くらいの大きさがありそうで、夜盗蛾という名前にふさわしく、凄まじい食欲でブロッコリーを食べている。モンシロチョウは地上でさなぎになるけれど、ヨトウガは地中に潜って繭を作るから、その時期が来たら土を入れてやらなければならない。
まだかと見ているけれど、きょうもグロちゃんはブロッコリーの房のあいだに頭を突っ込んで、食事に夢中である。
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台所栽培
2010年04月02日 / 虫
2月の終わりに、間引いたような小さなかぶに可愛い葉っぱがついているのを、スーパーで束ねて売っていたから、一つ残してかぶのスープにして、その残しておいたひとつをお猪口に水と入れておいた。ぴったりの大きさで、小かぶがお風呂に入っているみたいであったが、もともと生えていた可愛いクローバーみたいな形の葉っぱが出ると期待していたら、全然違った太い茎と葉が生えてきた。どうなるかしら、大根みたいにまたつぼみが出るかと思って毎日見ていたら、一ヶ月ほど経った頃、猪口のお風呂のまわりに、なにやら細かい白いものがぽつぽつ落ちている。よく見てみると、かさかさしていて足のようなものがたくさんついていて、小さな虫の抜け殻である。いつのまにか、かぶの葉っぱに何匹ものアブラムシがついていた。
ずっと部屋の中に置いているから、どこかから入ってきたとは思えず、買って来たときに、洗ったはずが、卵でも残っていて、それがひと月のうちにどんどん増えたのだろう。
さてどうしようか、はじめはすぐ庭に捨ててしまおうと思ったけれど、庭のほかの植物までがアブラムシだらけになったら困るので思いとどまった。どこかで天道虫を捕まえて、ちょっと来てもらおうか、それとももうかぶは諦めて、ごみに捨ててしまっても構わないけれど。
大きいのや小さいのがいる。どんどん抜け殻が落ちてくるから、小さいのが脱皮して、すぐ大きくなるのだろう。どのくらいのサイクルで増えるのかしら。うえのほうの葉っぱの表面にいるやつは、偉そうに両側の触覚を右左に動かしている。
あんまり観察すると情が移ってはいけないと思ったが、放っておいたらどんどん数が増えていって、かぶの葉っぱがみるみるアブラムシだらけになり、恐ろしい感じになってきて、そうも言っていられなくなり、水でじゃばじゃば洗い流してしまった。
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晩秋の蚊
2008年11月07日 / 虫
そういう弱った蚊でも、こちらが何かに熱中していたらいつのまにかちゅうちゅう血を吸われて、気づけばそこここ痒くなっている。ふと見たら、パソコンのモニターのうしろの、薄暗く陰になった濃い色の壁の表面に、私の血を吸いすぎて膨れ上がったお腹が赤く透けた蚊がこっそり止まっていた。
蚊と目があった。こちらは、こんなところにいたのか、と闘志を燃やした。蚊のほうは、お腹が重くてすばやい動きが取れないから、背後に私の視線を感じて、どぎまぎしていただろう。
手のひらでぱんと打ってしまえば簡単なのだろうけど、手のひらや壁に血がつくのがいやなので、相手が動かないのをいいことに、ちり紙を取ってきて、それで摘み取ろうとしたら、蚊は、ふわっと壁を離れて私の手をすり抜け、机のうしろの、もうどこにいるのかわからない闇の中に入っていってしまった。
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家のいも虫毛虫
2008年10月02日 / 虫
8月の終わりに庭の隅に密生していた雑草を抜いたとき、羽化したばかりだと思われる立派なスズメガが葉っぱの裏に止まっているのを見つけた。庭のどこかでこのスズメガは幼虫時代を過ごしていたのだろうから、その頃の姿をぜひ見たかったものだと思ったが、今になって、このように見ることが出来た。スズメガの幼虫は、しっぽの先につんと長い角のようなものがついているのが特徴のようである。調べてみたら、この幼虫も、その前に見た成虫も、同じキイロスズメという種類らしい。すぐ横にタオルが降ってきたからびっくりしたのかもしれない。上体をうしろに反らせて怒っているみたいだった。
庭の木や草の葉っぱにはいろんなところにぼこぼこと虫の食った穴があいているが、いったい誰が食べたのか、目を凝らして葉のあいだを探してみても、なかなか正体はつかめない。
今年はいないようだけれど、去年は羊歯の葉っぱが丸坊主になっていると思ったら、その葉がなくなった軸の部分に丸見えになった毛むくじゃらの茶色い毛虫がしがみついていた。羊歯の葉を食べるなんて変わった虫だなと思ったら、羊歯を食べつくしたあとは、樋のパイプに巻きついていたヘクソカズラの葉を食べ出した。ヘクソカズラはツル植物で、小さな白い花や黄色い実だけを見ると、ひどい名前が気の毒な感じもするが、しかしにおいは名前の通りに臭い。その臭い葉を食べるのだから、まさに蓼食う虫も好き好きだと思う。
このヘクソカズラを食べる毛虫には、ふさふさの茶色い毛が生えている。毛とか棘とかがついている毛虫はどれもこれも刺すものだと思っていたのだが、そうではなくて、実際に毒がある種類は少ないそうである。イラガとかドクガがその毒の毛虫だが、どちらもときどき庭に発生するから閉口する。ヘクソカズラの毛虫に毒があるかどうかは知らないけれど、もし刺さない毛虫だったとしても、その背中を撫でてみようという気は起こらない、そういったんは思ったけれど、よく考え直してみると、ちょっとだけなら、どんな感触がするのか指の先で触ってみたい気もする。
今日、公園の近くの空を、モンシロチョウが二匹、くるくる回りながら飛んでいるのを見た。少しずつ、秋が深まってきているが、彼らはいつ頃まで活動するのだろう。そのチョウの子供たちも、今庭にいる毛虫たちも、もしかしたら、蛹の姿で冬を越して、ふたたび出てくるのは、次の春かもしれない。
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琵琶湖のイラガ
2008年09月16日 / 虫
冬に半島の横を通ったときには、寒々とした湖面に、立ち枯れたような蓮の残骸が点々としているだけであったのに、それがいつしか、半島の北側すべてを多い尽くすように青々と盛り上がった蓮の葉が命あふれる緑の大地のようになっていて、湖面がちっとも見えなくなっている。
無数の蓮の花が、その緑の茂みにかかる淡いピンク色の靄のように、どこまでも朧朧と続いている。大きな花弁が、琵琶湖を渡る風にそよがれてはらはらと揺れる。
朝の早い時間に来れば、蓮の花が開く瞬間を見ることができるらしいが、そんなに早い時間には来られないので、着いたのは、お昼前である。8月はじめの頃だから、暑い。しかも、蓮を鑑賞するのに好都合な半島の北側にある遊歩道は、日陰がちっともない。
暑いさなかを歩いて行って、ようやく向こうに、二本のクスノキが木陰をつくっているのが見えた。一息つけると思って足取りも速くなり、木の下へ入ろうとしたところ、毒々しいほど鮮やかな黄緑色に青い縦縞の入った棘棘のイラガが、木の幹にもまわりの地面にもいっぱい散らばっているのに気づいた。
イラガの棘は、中が注射針のようになっていて、刺すと同時に毒液を注入するそうであり、刺されるとものすごく痛い。
毒毛虫がいるのを知ってか知らないでか、気にせず木の下でくつろいでいる人たちもいたが、私はとうていイラガの木陰には入る気になれなかったので、暑いのを我慢して、岸の近くの水底を漁るカモの群れや、長く伸びた蓮の茎の根元を泳ぐ魚たちを見ていた。
空気のひんやりする今朝、庭木に小さなイラガがついているのを見たので、そんなことを思い出した。
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町なかの大とんぼ
2008年09月05日 / 虫
鳥の羽のような柔らかい羽音ではなくて、乾いた硬い音であったのだが、まさか虫がそんなに大きな羽音を立てるとは思わなかったので、何かを勘違いした小鳥が、私が近くにいるのに庭に降りてきたのかもしれないと思って振り向いたら、そうではなくて、とても大きな黒いからだのオニヤンマだった。
子供に見せてやろうと思って、大声で呼んだ。
オニヤンマは、大袈裟な羽音をばさばさと立てながら、庭を二周りほどしてから、塀の向こうへ飛んでいった。駆けつけた息子は、なんとか、飛んでいく巨大なとんぼのうしろ姿を見ることができたようだった。
近ごろでは、山の近くにある実家でもあまり見ることがなかったから、町なかのここの空にオニヤンマが飛んでいることに驚いたが、あまりにも大きすぎて、なんだか作り物のような感じがした。
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