恐・怖・体・験(後編)

ある晩、青虫はあいかわらずケースの壁に張り付いたままだった。夕食の頃、青虫を見たが特に変わったことはなかった。
それから小一時間も経っただろうか。ふと、青虫の飼育ケースの横を通ったとき、視野の隅でとらえたケースの中の様子に、胸騒ぎがした。何か変だ。近寄る。形がおかしい。蛹?ちがう、いびつすぎる、え、動いている?うわあ!
青虫の体全体から、びっしりと二十匹近くの同じ緑色をした小虫が頭を突き出して蠢いていた。寄生虫だ。青虫の体を食い破って、いっせいに出てきたのだ。
鳥肌が立った。すでに寄生虫の卵を体内に産みつけられていたのだ。
青虫が生存している見込みはない。出来るだけ見ないようにしながら、ケースごと二重のごみ袋に入れて口を固くしばった。袋を持つ手が震える。
私はそれを、外のごみバケツの一番底に封印した。出てきませんように、出てきませんように。
 この寄生虫事件以来、野菜に虫がついてきても、速やかに外へ出て行ってもらうようにしている。

(あとで調べたところ、この寄生虫はアオムシコマユバチというハチの幼虫であった。)



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恐・怖・体・験(前編)

 ブロッコリーの房を切り取ると、うす緑色の青虫が姿を現した。冷蔵庫の中で眠っていたらしく、しばらく見ているとゆっくり動き出した。きっとモンシロチョウの幼虫だ。私はミニトマトのケースに、青虫を入れた。
 我が家の台所にやって来た幼虫たちを、私はたびたび飼育してきた。トマトやレタス、あるいはガーベラの花についていたオオタバコガ。小松菜の中に潜んでいたヨトウガ。
 しかし、すべて蛾であった。もちろん、蛾でも育てているとそれなりに愛着を覚えるし、羽化した時の感動はひとしおであるが、それでもやっぱり育てるなら華やかな蝶がいい。
 キャベツ科のブロッコリーについていたこと、およびネットで検索した画像から、モンシロチョウであることは確実だった。今度こそ蝶である。
 キャベツの葉をいれてやると、両方の前肢ではさんでしゃりしゃりと食べた。丸っこい吸盤のついた極端に短い足はなかなか愛嬌がある。
 私は青虫を毎日観察した。黄緑色の葉を食べれば黄緑色の糞をし、濃い緑色の葉を食べれば深緑色の糞をする。下に敷いたキッチンペーパーが緑色に汚れると、キャベツの葉と一緒に、新しいものに換えてやった。
 しばらくして、青虫はキャベツを食べなくなった。ケースのふたに登ったまま動くこともない。脱皮するのだろうか。今までの蛾の幼虫はみな、脱皮する前には食べるのをやめてじっとしていた。あるいは蛹になるのかもしれない。ふたたびネットで調べてみる。
野菜についていた幼虫を飼育する人というのは意外にたくさんいて、それぞれが日記や写真付の飼育記録をホームページに載せているので、参考になる。
モンシロチョウのページを探してみると、同じように飼育ケースのふたの裏側で蛹になりました、という報告があった。では、いよいよ蛹になるにちがいない。
しかし、青虫はなかなか蛹にならなかった。少しずつケースの壁を移動しているようである。
そして、赤い糞をした。(つづく)


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ビニタイの誘惑

 ここでも何度か書いたが、みゆちゃんはビニタイが大好きである。パンの袋などをねじってとめてあるのをはずして手渡すと、前足ではじいて床を滑らせ、それをどんどん追いかける。廊下へ持っていって、右へ左へ何往復も追いかけて走る。
 しばらくすると、そういうがむしゃらに追いかける単純な遊びに飽きたのか、それとも走り回るのに疲れたのか、ちょっと複雑な遊びに移行する。ビニタイを台所へ持って行って、今度は林立するテーブルや椅子の脚の間を動かして遊ぶ。自分は横着な格好で寝転がったまま、椅子の脚につかまってビニタイにじゃれている。
 あるいは、何か別の物の下へビニタイを隠しては、ふたたび取り出す遊びをする。冷蔵庫の下などへ手を突っ込んで、届くかな、届かないかな、というところがスリルがあって面白いのかもしれない。実際取れなくなってしまうことも多い。困っていると思って物差しなどで取ってあげるのだが、すぐにまた入れてしまう。
 何かの袋にビニタイがついているたびにみゆちゃんにあげているので、家の中には相当な数のビニタイがあるはずなのだが、そうやってどこかに入れて隠してしまうからか、目につく場所にはひとつもない。
 時々、みゆちゃんはどこからともなくビニタイを出してきて遊ぶ。ある時、みゆちゃんがピアノの下からビニタイを取り出すのを見た。もしやと思ってピアノの下を物差しでかき出して見ると、次から次へとビニタイが現れ、結局5、6本のビニタイが出てきた。台所のテーブルを動かしたときにも、脚の下に何本も隠れていた。
 ビニタイはほとんどみゆちゃんにあげるのだが、そのうちのいくつかは、必要なときのためにテーブルの上の小箱に入れて置いている。が、それもあまり意味はない。みゆちゃんが勝手にテーブルに上り、持っていってしまうからだ。箱の中から前足で器用に取り出してテーブルの上を滑らせ、ぽとり、と床に落とす。落下の様子をテーブルの縁に座ってゆっくり見物してから、床に下りてビニタイ遊びをする。
 ある時、袋の口を閉じようと思ってテーブルの小箱を調べたが、置いておいたはずのビニタイはやはり一本もない。仕方がないので私は居間へ行って扇風機を持ち上げ、その下にあったビニタイを拾い上げて、袋の口を閉じた。


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猫vs掃除機

 掃除機をかけていると、ソファの上のひざ掛けがもぞもぞ動いて、中で眠っていたみゆちゃんが逃げ出していった。みゆちゃんは掃除機が怖い。しっぽを吸うなどのいたずらをとくにしたわけでもないのだが、掃除機をかけると部屋を逃げ回る。二階まで逃げていた以前に比べると少しは慣れた。たとえば座布団の上で落ち着いているときに掃除機が近づいてくると、この快適な場所を捨ててまで逃げるべきか、怖いけれど耐えるべきか、かなり悩んでいるようである。
 掃除機が嫌いな猫は多い。掃除機の轟音が嫌なのか、吸い込み口を得体の知れない動物の口だと思うのか。一見怖いもの知らずの実家のトラ猫ネロも、自分と同じくらいの大きさのハンドクリーナーが怖い。怖いが暴君ネロの名に恥じないよう、ただ逃げ回るだけでなく一応反撃を試みる。掃除機が動かなくなると、隠れていた物陰からそっと出てきて逃げ腰のまま近づき、できるだけ離れた場所からえいっと掃除機に猫パンチを食らわして、また逃げる。
 その様子が面白いので、いたずらをする。掃除機のスイッチをオンにしたまま、コードは伸ばして抜いておく。掃除機が動いていないと思って、ネロがびびりながら反撃しに近寄ってきたところで、こっそりコードをプラグに差し込むと、突然動き出した掃除機にネロは飛び上がってあとずさり。しかし、しばらく様子を見て掃除機が動きそうにないと、また猫パンチを繰り出しにじわじわと近寄ってくる。
 ところがネロよりもずっと小柄な雌のトラ猫ちゃめは、掃除機が平気である。掃除機でおなかを吸ってみても、怖がるどころかホースを噛んだり蹴ったりの大反撃。これには驚いた。
 みゆちゃんがちゃめにけんかで負けるわけである。


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Y男の膝の上(三毛猫みゆちゃんのひとりごと)

 人間はワタシのこと、毎日が休日だにゃんていうけれど、こう見えて結構忙しいのです。ひもを追っかけないといけないし、どんぐりも転がさないといけないし、テレビの上でサックスを吹いているオジサンをバケツに沈めたりしないといけないし…
 むしろ休日なんてニャイくらいなんですが、あえて人間の休日に合わせていうと、どこでしょう、よく行く場所って。休日も平日も、どうせ家の中と庭をうろうろするくらいですし。
 あ、でも休日は、いつもは帰りの遅いY男が家でのんびりしています。そろそろ寒い冬も近いことですし、休日はY男の膝の上にまいりましょうか。

(トラックバック練習板:休日によく行く場所はどこですか?)


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猫と息子(その2)

 一歳の息子が保冷バッグを提げて遊んでいると、みゆちゃんが息子の持つバッグの中に入ろうと片手を縁にかけた。みゆちゃんの手をほどこうと息子はバッグを引っ張る。みゆちゃんは無理にでも入ろうと、後足で立って首をバッグの中に突っ込む。みゆちゃんの侵入を防ごうと息子はバッグを持った両手を高く挙げるが、身長が足らないのであまり意味がない。まるで子供同士の取り合いのようだ。しょうがないので色違いで同じ形のバッグを息子に渡して、その場は収まった。
 最近、息子は猫の出来ないいろんなことができるようになって、ようやく猫を追い抜いたかと思ったが、このバッグの取り合いを見ていると、まだまだ同じレベルでみゆちゃんと張り合っているところがある。少し前までは明らかにみゆちゃんが息子をリードしていて、よちよちと危なっかしげに歩く息子を相手に、鬼ごっこを仕掛けたりしていた。
 今でもみゆちゃんのほうが一枚上手な例もある。おもちゃの汽車を取り合っているとき、みゆちゃんはいったん退いて別のおもちゃの箱の中にぴょんと入り、息子の気を箱の方に引きつけておいて、そのあいだに汽車の座席に陣取ったのである。
息子の真似をみゆちゃんがすることもある。私の服の飾りボタンを息子がいじっていると、それを横で見ていたみゆちゃんも、私の服の別のボタンを同じように前足で突っつき出した。猫とこどもに両側からボタンを引っ張られ、私は奇妙な気分である。
 今のところ、お互いにちょうどいい遊び相手なのかもしれない。


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猫と息子

 息子がベビーベッドで眠っていると、よくみゆちゃんが一緒に寝ようとやって来る。夏の間は遠慮がちにベッドの隅っこで眠っていたが、ここのところ寒くなったので、息子の足元に背中をべったり押し付けて、もたれるようにして寝ている。それで息子が起きることはあまりない。
 息子がもっと小さい頃から、みゆちゃんにはよしよししてあげなさいとなでることを教えてきたので、少々乱暴ながら、息子はみゆちゃんの体をなでてあげる。みゆちゃんもまんざらではなさそうである。ごろごろ言いながら息子にすり寄ったりもする。
 みゆちゃんのえらいところは、息子には手を出さないことだ。たまに、遊びが高じてつい猫パンチが出たり、眠いときにあんまりしつこく触られると噛む真似をすることもあるが、基本的には手を出さない。息子にひげや耳を引っ張られても、迷惑そうな顔でじっと我慢している。
 その鬱憤を時々息子のおもちゃに晴らしている。動物の顔のついた布製のボーリングのピンに抱きついて噛みつき、後足で蹴っ飛ばす。かまってほしいのに私が息子を抱っこしていて手が離せないときなどは、私を攻撃する。さらにベビーベッドに飛び乗って、シーツをぐしゃぐしゃにする。やっと寝ついた息子をそっとベッドに置こうとしたときにシーツがぐしゃぐしゃになっていると、それを直すのにまた息子が起きてしまうので、かなり頭にくる。頭にくるが、みゆちゃんだって相手になって欲しいので、息子が寝たあと、お気に入りのひもを振って遊んであげる。
 要するにみゆちゃんはやきもちやきなのだが、この反応は、下の子供が生まれたときに上の子が親の気を引こうと無理に悪さをするのと、まさに同じであるように思われる。息子には、みゆちゃんと仲良く育って筋金入りの猫好き人間になって欲しいものだ。



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シャム来襲

 またもや、庭から不穏な音が聞こえてきた。庭に通じる裏口のドアを開けて見てみると、そこにいたみゆちゃんがしきりと上のほうへ首を伸ばして鳴いている。裏口を出たところは畳三畳分ほどトタン屋根がついていて雑多な物が置いてあるのだが、そのトタン屋根がみしっと鳴った。屋根の上に何かがいるらしい。
 息を呑んでみゆちゃんと見つめていると、屋根の上のそれが動き出した。たたん、ととん、トタンの上を踏んでいく。猫だ。乳白色のトタンに、四足をついた猫のシルエットが透けて見えた。
 誰だろう。フサフサ君か、トラかシロか。屋根の端に向かってゆっくりと歩いていく。が、あと数歩で屋根の端からその姿が見えそうだというところで、足の動きを止めてしまった。無論こちらの気配に気づいているのだろう、さらに先へ行こうか、躊躇しているようである。どんな猫か見たいので、私は声に出さず「進め、進め」と念じた。みゆちゃんはひげレーダーを精一杯屋根に向けて見上げている。縞々の尻尾は、まるでいつもとは違う別の生き物のように太くなっている。
 やがて、猫は意を決して再び歩き出した。私は猫の姿が見えるように、屋根の下からそろりと出て待った。みゆちゃんも足元でそれにならう。
 屋根の端からひょいと顔を出したのは、フサフサ君でもシロでもなく、シャムネコみたいな猫だった。きれいなグレイの毛。アーモンド型の青い目でじっとこちらを見つめている。
 ここで、私の中で葛藤が起こる。このシャムちゃんと仲良くしたい。しかしそれで頻繁に来られては、みゆちゃんとのあいだでややこしいことになるだろう。脅かして追い払わなければ。
 私を見るちょっと寄り目がかった顔がひょうきんな印象を与える。もしかすると人懐っこいのかもしれない。チッチと舌を鳴らして呼んでみようか―結局私は、どっちつかずの気持ちから、猫なで声で「こら」と言った。
 途端、シャムが赤い口をかっと開いて「シャーッ」と威嚇した。すかさず私も大口を開けて「シャーッ」とやり返した。シャムはおどろいて、ぱっと塀の向こうへ逃げていった。



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お猫さまの身だしなみ

 朝、行ってきますと出勤する夫のズボンのお尻が、真っ白になっていた。どうやらみゆちゃんの寝ていた椅子に座ったらしい。
 猫と暮らしていてちょっと困るのは、抜け毛である。黒い服を着て出かけるときなど、うっかり抱っこでもしようものなら、あっというまに毛だらけになる。粘着テープのローラーが必需品だ。
 抜け毛に加え、庭でごろんごろんやって埃っぽくなったりもするので、みゆちゃんのブラシを買うことにした。
 せいぜい三、四百円くらいだろうと思ってホームセンターへ行ってみると、生意気にも猫用のブラシはその倍の値段がした。しかも、手入れの段階によって三種類のブラシがある。第一段階でもつれやむだ毛の除去、第二段階で毛を整えて埃を払う、そして最後につや出しである。それに比べてうちの人間様用は、普通のブラシ一本きりしかない。
 もちろん三本そろえる気はないから、中から一本を選ぶ。長い時間をかけてそれぞれの説明書きを読み、目的が抜け毛の除去と埃を払うことだから、第二段階で使うピンブラシというものにすればいいことがわかった。結局、ピンブラシとつや出しブラシが背中合わせで一本になったものがあったので、それを買うことにした。
 買ってきたブラシをテーブルの上に置いておくと、みゆちゃんがくんくん匂いを嗅ぎにきた。前足でパッケージの上から引っ掻こうとする。つや出しブラシは贅沢にも天然の豚毛なので、動物のにおいがするのかもしれない。
 早速ブラッシングしてあげると、予想以上に嬉しがった。すぐにごろごろ音を発し、くねくねすり寄って来る。ピンブラシは硬くて、実際自分の頭にあててみると少し痛いくらいなのだが、猫の体にはちょうどいいようである。うっとりとした目で顔の側面やおでこをぐいぐい押し付けてくる。
 あまりの喜びように、まあいい買い物だったかと思ってしまうほどであった。



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「ネコ注意!」

 ずいぶん寒くなった。猫も人も布団が恋しい季節である。
 午前中、寝室についてきたみゆちゃんが、ベッドカバーと毛布のあいだに頭を突っ込んで、もぞもぞとベッドにもぐっていった。ベッドにできたこぶがむくむく移動していき、ベッドの真ん中あたりに到達したところでぺたりと平たくなった。そこで丸くなって落ち着いたようである。暖かくてよほど寝心地がよかったのだろう、夕方までぐっすり眠っていた。
 猫はみんな、布団にもぐる。ネロもちゃめも、デビンちゃんももぐる。なかでも寒がりのデビンちゃんは夏でもベッドカバーの下で寝るほどで、その分もぐるのもうまい。布団をまったく乱すことなく、もぐった形跡が全然ない。だから、危ない。気をつけないと、知らずに上から寝転がったり踏みつけたりしてしまうかもしれない。
 我が家に猫が来る以前、セキセイインコを部屋に放して飼っていた。そのインコに布の下にもぐる癖があって、ある時床の上に落ちていたシャツの下にもぐっていたのを、父が知らずに踏んでしまった。幸い足の骨折だけで済んで、それもきれいに治った。心を痛めていた父も何とか胸をなでおろしたが、そういうこともあって、うちでは猫が布団の中で寝ているときは、その上に「ネコ注意!」と大きく書いた紙を置くようにしている。


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