続/自衛隊の強化は喫緊の課題だ
“シーチン”修一
【雀庵の「大戦序章」373/通算804 2025/令和7年3/10 月】 小生の読書は「教養・学問系」が多い。娯楽系の本は読んでも「ああ、面白かった!」で終わってしまい、血肉にならないから時間とカネの浪費みたいで好まない。「悪貨は良貨を駆逐する」と言うが、「悪書は良書を駆逐する」のではないか。ボケ老人の小生は気に入った本や、難しくて咀嚼(そしゃく)できなかった本などをパソコンの近くや枕頭に置いている。数日前に何気なく手に取った加瀬英明氏著「日本と台湾 なぜ両国は運命共同体なのか」(初版2013年、祥伝社)を読んでいたら、ちょっとビックリした。小生の師匠である渡部亮次郎氏が登場していた! 以下転載すると――
<◎:田沢湖と澄清湖(とうせいこ)との姉妹湖協定: 日本と台湾の間は、民間による強い絆(きずな)によって結ばれている。日本にとって台湾ほど幅広く強い民間交流によって結ばれている国は他にない。私は1986/昭和61年に秋田県田沢湖町(現在の仙北市)で国際交流をテーマとしたシンポジウムが模様されたのに講演を依頼されて招かれた。主催団体の理事長を、秋田県出身で親友の渡部亮次郎氏が務めていた。
初めて田沢湖を訪れたが、日本で最も水深が深いという湖水は美しかった。シンポジウムが始まる前に、田沢湖にアメリカやヨーロッパから観光客を誘致したいが、どうしたらいいか教えて欲しいと求められた。当時、札幌の雪まつりに海外から多くの観光客が訪れていた。
湖畔のホテルの会場は地元だけではなく隣り町や村の人々でいっぱいだった。私は「申し訳ありませんが、アメリカやヨーロッパから観光客がご当地までやって来るとは思えません」と述べてから、「これから東南アジア諸国が急速に豊かになってゆきます。すでに台湾は豊かになっています。台湾から東南アジアまで雪が降らないし、紅葉もありません」と、こう続けた。
「台湾は日本にとって縁が深い大切な国です。台湾をアジアの玄関と考えて、まず台湾の人々に田沢湖の美しさを知ってもらったらどうでしょうか」と問いかけた。話しながら、姉妹都市という言葉がひらめいた。「みなさんは姉妹都市をご存じだた思います。台湾には美しい湖水(湖)がいくつかあります。皆さんが希望されるなら、田沢湖と台湾の湖水と姉妹湖の縁結びをしたらどうでしょうか」
と呼び掛けた。おそらく、それまで世界に「姉妹湖」は例がなかった。そのうえで、台湾政府に多くの友人を持っているから提案してもよいよと付け加えた・・・>
加瀬氏や日台双方の努力で、高雄市の「澄清湖」(とうせいこ)がパートナーに決まり、1986年11月には田沢湖町の一行が訪台し、姉妹湖縁結びの調印式には台湾中の主要メディアが報道したという。
田沢湖町は現在は「仙北市」になっているが、WIKIによると――
<田沢湖地区は日本で最も深い湖・田沢湖がある。農林業と観光業が盛んで、小規模な縄文遺跡が点在し、北部に位置する玉川温泉の北投石は国指定の特別天然記念物である。角館地区は武家屋敷を中心とした重要伝統的建造物群保存地区があり、「みちのくの小京都」と呼ばれる歴史の町であるとともに、桜の名所である桧木内川堤を擁する。秋田新幹線開業後は更に観光客が増加し、東北有数の観光地となっている>
しかし人口減には歯止めがかからず、渡部亮次郎氏も今は温暖で便利な東京で暮らしている。小生も神奈川県高座郡座間町入谷の生まれ故郷にここ数年は行っていない。行ったところで知らない人が住んでいるだけで、小生を知っている人や親戚も今はいなくなってしまった。「故郷(ふるさと)は遠くにありて思うもの」と古人は生まれ育った地への複雑な思いを書いたが、今や伝統の「家長による一子相続」が米国GHQによって廃止されたために、両親が亡くなると生まれ故郷の家は「都市部の良い物件」ならば子供ら相続人たちの「バトルの舞台」になるのだ。バトルが終われば故郷は事実上消滅、兄弟姉妹の交際も絶えて、まるでアカの他人のようになる。古き良き日本を取り戻すには「王政復古」的な改革が必要ではないか。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
いささか前置きが長すぎたが、この項の前回(3/2)に「自衛隊は個人ではなく同志、集団になって行動する『滅私」がルールなのだなあと思う・・・いずこの国でも軍隊はそういうのが基本なのだろうが、衣食住足りて戦意喪失のような日本、自衛隊は大丈夫か・・・」と書いた。今回は元陸上幕僚長・岩田清文氏の産経2025/2/3「正論 自衛官の処遇の本質的改革を」から転載、紹介する。
<近年、自衛官の募集難が大きな問題となっている。令和5年度(2023年度)は2万人の募集に対し1万人しか採用できないという危機的な状態であった。この状態が長く続けば、現場部隊から若い自衛官が大幅に減少し、災害派遣ですら国民の負託に十分に応えられない厳しい状況となることも懸念される。
◎:危機的募集難に対し▶ 危機的募集難に対し、石破茂首相は就任直後から指示を出し、政府としての対策検討を加速させてきた。昨年12月20日までに4回の閣僚会議を開催し、政府として「自衛官の処遇・勤務環境の改善及び新たな生涯設計の確立に関する基本方針」を決定した。
この基本方針において定められた方策は(1)自衛官の処遇改善(2)生活・勤務環境の改善(3)新たな生涯設計の確立―の3点である。
具体的には、過去に例のない30を超える手当等の新設・金額の引き上げ等により現役自衛官の処遇を改善する。また若い世代のライフスタイルに合わせた駐屯地・基地内の勤務環境の改善により、やりがいと働きやすさを向上させることだ。
そして3つ目に、退官後の再就職や再就職後の収入に不安を感じさせないように、再就職後の収入引き上げに関わる施策などにより、自衛官としての生涯設計を充実させることなどが含まれている。
今までに類を見ないほどの総合一体的な改善であり画期的な進化である。3カ月という短い期間で改善の道筋をつけた首相のリーダーシップと関係者の労は称賛に値する。これらの具体策が今後努めて早期に具現化され、安定的な自衛官確保に繫(つな)がることを期待したい。
一方で、これをもって自衛官の募集難が解決されるほど、日本の少子高齢化の波の大きさと募集環境の厳しさは甘くない。若い世代がなぜ自衛隊に入隊することを望まないのか。それは、単なる手当や勤務・生活環境などの処遇の問題だけではないだろう。もちろんそれも重要な要因ではあるが、最も大きな要因は、「自衛官という職業が一生を懸けるほどの『誇りと名誉』ある職業なのか、生涯を通じ、社会からも敬意と感謝の念を抱かれる対象であるのか」という点である。
◎:命を懸け国を守る地位▶ 国は自衛隊法において、自衛官に命を懸けて国を守ることを宣誓させるが、命を懸けるに値する地位を自衛官に与えているのかが最大の問題と認識する。自衛官は「特別職国家公務員」との位置付けにあるにもかかわらず、既存の公務員制度(一般職の公務員制度)に引きずられ、抜本的、本質的な改革には踏み込めていない。
そもそも自衛官は国際法的には軍人と位置付けられており、日本防衛のために防衛出動した自衛官は軍人として扱われ、ジュネーブ条約における文民の保護を受けることができない。すなわち国際法上、軍人は戦闘において殺傷されたとしても、誰にも文句を言うことが許されない立場にあり、自己犠牲を前提に国のために命を懸ける存在なのである。だからこそ、各国は軍人を特別扱いし名誉と誇りを与えている。
例えば米軍であれば、20年以上勤続した将兵には、その勤務年数に応じた恩給(20年勤務で除隊時の本俸の5割、30年で7・5割、40年で10割)が他界するまで支払われる。その他、除隊後も多くの厚遇が保証されているが、何よりも重要なのは米国社会全体が、米軍人が名誉と誇りを持って勤務に専念できるよう、あらゆる社会活動の場面において敬意を表していることである。ここまで国民から期待されれば、国のために命を懸けようと思う若者が途絶えることはないだろう。
◎:名誉と誇りある立場に▶ 憲法改正の道筋が見えない中、自衛官を軍人と規定できないのであれば、例えば、自衛官に替えて「防衛官」という国のために命を懸けることを前提とした地位を新設し、各国同様の名誉と誇りある立場に改革することを提唱したい。
併せて精強性維持のため防衛官としての若年定年制は維持するものの、56歳以降、階級に応じて逐次退官した後は、現状のように自衛隊と関わりのない一民間人として再就職させるのではなく、一般の国家公務員・予備防衛官として任用することを提唱したい。
彼らに対し、65歳までの間、自衛隊の管理業務や隊員募集業務など、防衛官でなくともできる業務を担わせることにより、若い現役防衛官たちを、防衛行動に直結する本来の職務や訓練などに専念させることが可能となる。
加えて、有事には彼ら国家公務員・予備防衛官を防衛官に任用し、民間業者を派遣することが困難な戦闘地域近傍において、支援任務に従事させることができれば、有事における問題点をも是正できることとなる。
歴史的な改善の一歩を踏み出した首相には、ここでとどまることなく、ぜひ真の抜本的、本質的改革に取り組んでもらえることを期待したい。(いわた きよふみ)>以上
・・・・・・・・・・・・・
「憲法改正の道筋が見えない」「56歳以降、階級に応じて逐次退官した後は自衛隊と関わりのない一民間人として再就職」・・・情けないことだ。が、水を差すようだが、自衛隊員といってもピンからキリまで、中にはごく少数だろうがトンデモナイ輩もいるのだ。
人間、特に穏やかな善人が多いだろう日本人でも、「道義、道徳に反することをしてしまった」と反省することはままあることかもしれない。小生も恥ずかしいことをし、今になっても後悔し続け、死ぬまでにきちんと謝りたいと40年以上もグズグズしていることがある。「(JR系旅行会社の)日本旅行の真行寺さん、取材時間に遅れたのは寝坊したせいです、それを『アポイントの時間を間違えた』と嘘をつき、見破られて『忙しいから』と門前払いされました。以来、私は取材時間を厳守するようになりました。あらためてごめんなさいと言わせてください」
振り返れば恥多き人生・・・閻魔様はお見通しだから間違いなく地獄行き。自首すれば情状酌量で刑期は多少短くなるかどうか・・・
そういうアバウトな小生に偉そうなことを言う資格はないが、仕事で元自衛官と接触する機会があり、残念ながら良い印象はない。自衛隊退官後に起業した方に頼まれて会社案内を創ったが、請求書を送っても梨のつぶて。催促しても馬耳東風・・・つまり「全く払う気がない」のには驚いた。自衛隊に出入りする業者は自衛隊から仕事をもらっているので小さな仕事は「サービス」というのが慣例になっているのかもしれない。
小生の上司は自衛隊出身で、部下を手なずけるのがとても上手かったが、取材して記事を書く経験がないからライバル紙の記事を参考にしていて、小生はびっくりした。要は記者としては絶対にしてはいけない「パクリ、盗用、無断転載」である。締め切りが迫っていると裏取りしないでライバル紙からパクるという誘惑に負けやすいのだろうが、「通らばリーチ」は「ロン」でいつかはバレる。パクられた会社は抗議し、パクった会社は謝罪してカネを出し、記者は当然クビ(馘首)で、二度と記者にはなれない。出版界はそういう世界である。
自衛隊出身の上司は自衛隊の教育機関や大学などで学び、一応「大卒」ということになっていたが、まったく読書とは縁のない人だった。それでも「なすべき大事な重要事項の仕事は山ほどあるが、まずは『優先事項』に取り組むべきだ」などと教えてくれた。上意下達の自衛隊員としては上司の命令に忠実であるべきだが、上司が現場の状況を正確に知っているとは限らないので「優先事項」から着手せよ、と教えているわけだ。それなりのフェイルセーフ(障害が発生した場合、常に安全側に動作するようにする仕組み)である。
しかし近年、特に今年は、本音が分かりにくいトランプ政権のスタートにより「フェイルセーフをさらに向上させていく必要がある」と多くの自由民主主義国は軍事力を強化するようになった。日本でもその機運はようやく始まりつつあるようだ。産経2025/212 織田邦男・元空将の「正論『自衛官職務執行法』の制定を」から。
<誤解を恐れずにあえて単純化すれば、自衛隊は平時は警察であり、有事に軍隊となる。武力攻撃事態が認定されて防衛出動命令が下令されたときに初めて自衛隊は自衛権行使が可能になる。だが、それまでは警察官職務執行法(以下「警職法」)を準用する警察権しか行使できない。
◎:平時と有事の境界崩れ▶ 現代は「防衛と治安」「侵略と犯罪」「有事と平時」の伝統的な境界が曖昧になっており、「グレーゾーン」の用語が市民権を得て久しい。尖閣諸島では、中国の海警船が領海侵犯を繰り返しているが、平時における明らかな主権侵害行為である。
現代戦はハイブリッド戦争だといわれる。「高度に統合された設計の下で用いられる公然・非公然の軍事・非軍事・民間の手段を使った戦争」である。宣戦布告もなく正規戦、非正規戦、サイバー戦、情報戦などを組み合わせた非正規戦を主とする戦いである。
「超限戦」という用語もある。2人の中国軍人が唱えた戦い方で、物理的な戦闘に留(とど)まらず、外交、テロ、諜報、金融、サイバー、心理、メディアなどあらゆる手段で制約なしに戦うというものだ。もはや平時、有事の概念すらない。
「認知戦」も脚光を浴びる。相手の心や認知に訴(うった)えるもので、威嚇、恫喝(どうかつ)、偽情報などで恐怖、不安を与え、敗北主義を引き起こさせる。平時が主戦場であり戦意を喪失した時、敗北が決まる。今、台湾周辺では認知戦が始まっている。中国は周辺で軍事演習、海上封鎖の模擬行動を繰り返す。多数の戦闘機が中間線を越え、対応する台湾軍を疲弊させる。2023年には戦闘機、無人機の飛行が9200回、空母、駆逐艦の航行が7万回に及んだという(ロイター通信24年8月27日)。
軍人、非軍人の区分も曖昧である。近年、台湾周辺やバルト海で海底ケーブル切断が頻発している。いずれも台湾有事とウクライナ戦争との関連が指摘される。海底ケーブルは日常生活のみならず、軍事作戦に欠かせない。切断の当事者は民間船といわれ、非軍人が軍事作戦を遂行している。サイバー戦もまさにそうだ。
◎:シームレスな対応難しく▶ こういう現代戦には、自衛隊、警察、海保、そして民間企業を含めた力を有機的に連携させ、シームレスに対応しなければ有事を抑止できない。我が国はそれが可能だろうか。紙幅の関係上、ここでは自衛隊に焦点を絞る。
冷戦時に制定された自衛隊法は平時、有事が明確に区分され、しかも平時から有事への移行手続きが煩雑であり、シームレスな対応は難しい。自衛隊は先述のとおり平時には最小限の自衛権行使さえできない。火種は小さいうちに消すのが鉄則である。だが事態認定に時間が費やされ、タイミングを失する可能性大である。
また事態認定の行為そのものが「日本は宣戦布告した」「日本が事態を拡大させた」との口実を敵に与えかねない。従って政治家は事態認定を躊躇(ちゅうちょ)する。その結果、自衛隊は身動きがとれず事態は悪化する。この傾向は台湾有事のシミュレーションでも現出した。
また警職法準用の武器使用権限は「自衛官は~ができる」と主語が「自衛官」と規定される。他方、自衛権行使の主語は「自衛隊」である。平時の武器使用の責任は基本的には「自衛隊」ではなく「自衛官」個人に帰する。武器使用責任が個人に帰する軍隊など他にない(「治安出動」だけは特別で、主語が「自衛官」で同じだが「当該部隊指揮官の命令によらなければならない」とある)。
◎:現代戦への抑止力強化を▶ 自衛権行使の場合、「必要な武力を行使することができる」が、警職法準用の場合、「合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる」ものの正当防衛、緊急避難の場合を除き「人に危害を与えてはならない」。
この非合理性は、いわゆる「米艦防護」を例にとれば明らかだ。我が国の防衛に資する活動に従事している米艦艇等を防護するのに、必要と判断される限度で武器を使用することができるが、正当防衛、緊急避難に該当する場合のほか、「人に危害を与えてはならない」のは同じだ。しかもその主語は「自衛官」である。
米艦艇の防護任務を「人に危害を与えてはならない」条件で果たして遂行できるのか。しかもその責任は自衛官個人に帰する。そもそも正当防衛、緊急避難といった個人の行為を「米艦防護」といった防衛作用に適用すること自体に無理がある。台湾有事における重要影響事態下の武器使用権限も警職法準用であり同様の問題を抱える。
今の自衛隊法は平時、有事が曖昧な現代戦に適合していない。警職法準用ではなく、平時から有事へシームレスに対応できる自衛官職務執行法を新たに制定し、現代戦への抑止力を強化すべきである。防衛費を増額しても、自衛隊が合理的に職務を遂行できる法体系を整えなければ画餅に帰することになる。(おりた くにお)>以上
・・・・・・・・・・・・・
*読者諸兄の皆さま、御意見を! https://note.com/gifted_hawk281/ または ishiifam@minos.ocn.ne.jp までお願いいたします。小生の記事は以下でもお読みいただけます。
渡部亮次郎 「頂門の一針」<ryochan@polka.plala.or.jp>
必殺クロスカウンター ttps://www.mag2.com/m/0001690154.html
https://blog.goo.ne.jp/annegoftotopapa4646
ishiifam//1951@outlook.jp
“シーチン”修一
【雀庵の「大戦序章」373/通算804 2025/令和7年3/10 月】 小生の読書は「教養・学問系」が多い。娯楽系の本は読んでも「ああ、面白かった!」で終わってしまい、血肉にならないから時間とカネの浪費みたいで好まない。「悪貨は良貨を駆逐する」と言うが、「悪書は良書を駆逐する」のではないか。ボケ老人の小生は気に入った本や、難しくて咀嚼(そしゃく)できなかった本などをパソコンの近くや枕頭に置いている。数日前に何気なく手に取った加瀬英明氏著「日本と台湾 なぜ両国は運命共同体なのか」(初版2013年、祥伝社)を読んでいたら、ちょっとビックリした。小生の師匠である渡部亮次郎氏が登場していた! 以下転載すると――
<◎:田沢湖と澄清湖(とうせいこ)との姉妹湖協定: 日本と台湾の間は、民間による強い絆(きずな)によって結ばれている。日本にとって台湾ほど幅広く強い民間交流によって結ばれている国は他にない。私は1986/昭和61年に秋田県田沢湖町(現在の仙北市)で国際交流をテーマとしたシンポジウムが模様されたのに講演を依頼されて招かれた。主催団体の理事長を、秋田県出身で親友の渡部亮次郎氏が務めていた。
初めて田沢湖を訪れたが、日本で最も水深が深いという湖水は美しかった。シンポジウムが始まる前に、田沢湖にアメリカやヨーロッパから観光客を誘致したいが、どうしたらいいか教えて欲しいと求められた。当時、札幌の雪まつりに海外から多くの観光客が訪れていた。
湖畔のホテルの会場は地元だけではなく隣り町や村の人々でいっぱいだった。私は「申し訳ありませんが、アメリカやヨーロッパから観光客がご当地までやって来るとは思えません」と述べてから、「これから東南アジア諸国が急速に豊かになってゆきます。すでに台湾は豊かになっています。台湾から東南アジアまで雪が降らないし、紅葉もありません」と、こう続けた。
「台湾は日本にとって縁が深い大切な国です。台湾をアジアの玄関と考えて、まず台湾の人々に田沢湖の美しさを知ってもらったらどうでしょうか」と問いかけた。話しながら、姉妹都市という言葉がひらめいた。「みなさんは姉妹都市をご存じだた思います。台湾には美しい湖水(湖)がいくつかあります。皆さんが希望されるなら、田沢湖と台湾の湖水と姉妹湖の縁結びをしたらどうでしょうか」
と呼び掛けた。おそらく、それまで世界に「姉妹湖」は例がなかった。そのうえで、台湾政府に多くの友人を持っているから提案してもよいよと付け加えた・・・>
加瀬氏や日台双方の努力で、高雄市の「澄清湖」(とうせいこ)がパートナーに決まり、1986年11月には田沢湖町の一行が訪台し、姉妹湖縁結びの調印式には台湾中の主要メディアが報道したという。
田沢湖町は現在は「仙北市」になっているが、WIKIによると――
<田沢湖地区は日本で最も深い湖・田沢湖がある。農林業と観光業が盛んで、小規模な縄文遺跡が点在し、北部に位置する玉川温泉の北投石は国指定の特別天然記念物である。角館地区は武家屋敷を中心とした重要伝統的建造物群保存地区があり、「みちのくの小京都」と呼ばれる歴史の町であるとともに、桜の名所である桧木内川堤を擁する。秋田新幹線開業後は更に観光客が増加し、東北有数の観光地となっている>
しかし人口減には歯止めがかからず、渡部亮次郎氏も今は温暖で便利な東京で暮らしている。小生も神奈川県高座郡座間町入谷の生まれ故郷にここ数年は行っていない。行ったところで知らない人が住んでいるだけで、小生を知っている人や親戚も今はいなくなってしまった。「故郷(ふるさと)は遠くにありて思うもの」と古人は生まれ育った地への複雑な思いを書いたが、今や伝統の「家長による一子相続」が米国GHQによって廃止されたために、両親が亡くなると生まれ故郷の家は「都市部の良い物件」ならば子供ら相続人たちの「バトルの舞台」になるのだ。バトルが終われば故郷は事実上消滅、兄弟姉妹の交際も絶えて、まるでアカの他人のようになる。古き良き日本を取り戻すには「王政復古」的な改革が必要ではないか。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
いささか前置きが長すぎたが、この項の前回(3/2)に「自衛隊は個人ではなく同志、集団になって行動する『滅私」がルールなのだなあと思う・・・いずこの国でも軍隊はそういうのが基本なのだろうが、衣食住足りて戦意喪失のような日本、自衛隊は大丈夫か・・・」と書いた。今回は元陸上幕僚長・岩田清文氏の産経2025/2/3「正論 自衛官の処遇の本質的改革を」から転載、紹介する。
<近年、自衛官の募集難が大きな問題となっている。令和5年度(2023年度)は2万人の募集に対し1万人しか採用できないという危機的な状態であった。この状態が長く続けば、現場部隊から若い自衛官が大幅に減少し、災害派遣ですら国民の負託に十分に応えられない厳しい状況となることも懸念される。
◎:危機的募集難に対し▶ 危機的募集難に対し、石破茂首相は就任直後から指示を出し、政府としての対策検討を加速させてきた。昨年12月20日までに4回の閣僚会議を開催し、政府として「自衛官の処遇・勤務環境の改善及び新たな生涯設計の確立に関する基本方針」を決定した。
この基本方針において定められた方策は(1)自衛官の処遇改善(2)生活・勤務環境の改善(3)新たな生涯設計の確立―の3点である。
具体的には、過去に例のない30を超える手当等の新設・金額の引き上げ等により現役自衛官の処遇を改善する。また若い世代のライフスタイルに合わせた駐屯地・基地内の勤務環境の改善により、やりがいと働きやすさを向上させることだ。
そして3つ目に、退官後の再就職や再就職後の収入に不安を感じさせないように、再就職後の収入引き上げに関わる施策などにより、自衛官としての生涯設計を充実させることなどが含まれている。
今までに類を見ないほどの総合一体的な改善であり画期的な進化である。3カ月という短い期間で改善の道筋をつけた首相のリーダーシップと関係者の労は称賛に値する。これらの具体策が今後努めて早期に具現化され、安定的な自衛官確保に繫(つな)がることを期待したい。
一方で、これをもって自衛官の募集難が解決されるほど、日本の少子高齢化の波の大きさと募集環境の厳しさは甘くない。若い世代がなぜ自衛隊に入隊することを望まないのか。それは、単なる手当や勤務・生活環境などの処遇の問題だけではないだろう。もちろんそれも重要な要因ではあるが、最も大きな要因は、「自衛官という職業が一生を懸けるほどの『誇りと名誉』ある職業なのか、生涯を通じ、社会からも敬意と感謝の念を抱かれる対象であるのか」という点である。
◎:命を懸け国を守る地位▶ 国は自衛隊法において、自衛官に命を懸けて国を守ることを宣誓させるが、命を懸けるに値する地位を自衛官に与えているのかが最大の問題と認識する。自衛官は「特別職国家公務員」との位置付けにあるにもかかわらず、既存の公務員制度(一般職の公務員制度)に引きずられ、抜本的、本質的な改革には踏み込めていない。
そもそも自衛官は国際法的には軍人と位置付けられており、日本防衛のために防衛出動した自衛官は軍人として扱われ、ジュネーブ条約における文民の保護を受けることができない。すなわち国際法上、軍人は戦闘において殺傷されたとしても、誰にも文句を言うことが許されない立場にあり、自己犠牲を前提に国のために命を懸ける存在なのである。だからこそ、各国は軍人を特別扱いし名誉と誇りを与えている。
例えば米軍であれば、20年以上勤続した将兵には、その勤務年数に応じた恩給(20年勤務で除隊時の本俸の5割、30年で7・5割、40年で10割)が他界するまで支払われる。その他、除隊後も多くの厚遇が保証されているが、何よりも重要なのは米国社会全体が、米軍人が名誉と誇りを持って勤務に専念できるよう、あらゆる社会活動の場面において敬意を表していることである。ここまで国民から期待されれば、国のために命を懸けようと思う若者が途絶えることはないだろう。
◎:名誉と誇りある立場に▶ 憲法改正の道筋が見えない中、自衛官を軍人と規定できないのであれば、例えば、自衛官に替えて「防衛官」という国のために命を懸けることを前提とした地位を新設し、各国同様の名誉と誇りある立場に改革することを提唱したい。
併せて精強性維持のため防衛官としての若年定年制は維持するものの、56歳以降、階級に応じて逐次退官した後は、現状のように自衛隊と関わりのない一民間人として再就職させるのではなく、一般の国家公務員・予備防衛官として任用することを提唱したい。
彼らに対し、65歳までの間、自衛隊の管理業務や隊員募集業務など、防衛官でなくともできる業務を担わせることにより、若い現役防衛官たちを、防衛行動に直結する本来の職務や訓練などに専念させることが可能となる。
加えて、有事には彼ら国家公務員・予備防衛官を防衛官に任用し、民間業者を派遣することが困難な戦闘地域近傍において、支援任務に従事させることができれば、有事における問題点をも是正できることとなる。
歴史的な改善の一歩を踏み出した首相には、ここでとどまることなく、ぜひ真の抜本的、本質的改革に取り組んでもらえることを期待したい。(いわた きよふみ)>以上
・・・・・・・・・・・・・
「憲法改正の道筋が見えない」「56歳以降、階級に応じて逐次退官した後は自衛隊と関わりのない一民間人として再就職」・・・情けないことだ。が、水を差すようだが、自衛隊員といってもピンからキリまで、中にはごく少数だろうがトンデモナイ輩もいるのだ。
人間、特に穏やかな善人が多いだろう日本人でも、「道義、道徳に反することをしてしまった」と反省することはままあることかもしれない。小生も恥ずかしいことをし、今になっても後悔し続け、死ぬまでにきちんと謝りたいと40年以上もグズグズしていることがある。「(JR系旅行会社の)日本旅行の真行寺さん、取材時間に遅れたのは寝坊したせいです、それを『アポイントの時間を間違えた』と嘘をつき、見破られて『忙しいから』と門前払いされました。以来、私は取材時間を厳守するようになりました。あらためてごめんなさいと言わせてください」
振り返れば恥多き人生・・・閻魔様はお見通しだから間違いなく地獄行き。自首すれば情状酌量で刑期は多少短くなるかどうか・・・
そういうアバウトな小生に偉そうなことを言う資格はないが、仕事で元自衛官と接触する機会があり、残念ながら良い印象はない。自衛隊退官後に起業した方に頼まれて会社案内を創ったが、請求書を送っても梨のつぶて。催促しても馬耳東風・・・つまり「全く払う気がない」のには驚いた。自衛隊に出入りする業者は自衛隊から仕事をもらっているので小さな仕事は「サービス」というのが慣例になっているのかもしれない。
小生の上司は自衛隊出身で、部下を手なずけるのがとても上手かったが、取材して記事を書く経験がないからライバル紙の記事を参考にしていて、小生はびっくりした。要は記者としては絶対にしてはいけない「パクリ、盗用、無断転載」である。締め切りが迫っていると裏取りしないでライバル紙からパクるという誘惑に負けやすいのだろうが、「通らばリーチ」は「ロン」でいつかはバレる。パクられた会社は抗議し、パクった会社は謝罪してカネを出し、記者は当然クビ(馘首)で、二度と記者にはなれない。出版界はそういう世界である。
自衛隊出身の上司は自衛隊の教育機関や大学などで学び、一応「大卒」ということになっていたが、まったく読書とは縁のない人だった。それでも「なすべき大事な重要事項の仕事は山ほどあるが、まずは『優先事項』に取り組むべきだ」などと教えてくれた。上意下達の自衛隊員としては上司の命令に忠実であるべきだが、上司が現場の状況を正確に知っているとは限らないので「優先事項」から着手せよ、と教えているわけだ。それなりのフェイルセーフ(障害が発生した場合、常に安全側に動作するようにする仕組み)である。
しかし近年、特に今年は、本音が分かりにくいトランプ政権のスタートにより「フェイルセーフをさらに向上させていく必要がある」と多くの自由民主主義国は軍事力を強化するようになった。日本でもその機運はようやく始まりつつあるようだ。産経2025/212 織田邦男・元空将の「正論『自衛官職務執行法』の制定を」から。
<誤解を恐れずにあえて単純化すれば、自衛隊は平時は警察であり、有事に軍隊となる。武力攻撃事態が認定されて防衛出動命令が下令されたときに初めて自衛隊は自衛権行使が可能になる。だが、それまでは警察官職務執行法(以下「警職法」)を準用する警察権しか行使できない。
◎:平時と有事の境界崩れ▶ 現代は「防衛と治安」「侵略と犯罪」「有事と平時」の伝統的な境界が曖昧になっており、「グレーゾーン」の用語が市民権を得て久しい。尖閣諸島では、中国の海警船が領海侵犯を繰り返しているが、平時における明らかな主権侵害行為である。
現代戦はハイブリッド戦争だといわれる。「高度に統合された設計の下で用いられる公然・非公然の軍事・非軍事・民間の手段を使った戦争」である。宣戦布告もなく正規戦、非正規戦、サイバー戦、情報戦などを組み合わせた非正規戦を主とする戦いである。
「超限戦」という用語もある。2人の中国軍人が唱えた戦い方で、物理的な戦闘に留(とど)まらず、外交、テロ、諜報、金融、サイバー、心理、メディアなどあらゆる手段で制約なしに戦うというものだ。もはや平時、有事の概念すらない。
「認知戦」も脚光を浴びる。相手の心や認知に訴(うった)えるもので、威嚇、恫喝(どうかつ)、偽情報などで恐怖、不安を与え、敗北主義を引き起こさせる。平時が主戦場であり戦意を喪失した時、敗北が決まる。今、台湾周辺では認知戦が始まっている。中国は周辺で軍事演習、海上封鎖の模擬行動を繰り返す。多数の戦闘機が中間線を越え、対応する台湾軍を疲弊させる。2023年には戦闘機、無人機の飛行が9200回、空母、駆逐艦の航行が7万回に及んだという(ロイター通信24年8月27日)。
軍人、非軍人の区分も曖昧である。近年、台湾周辺やバルト海で海底ケーブル切断が頻発している。いずれも台湾有事とウクライナ戦争との関連が指摘される。海底ケーブルは日常生活のみならず、軍事作戦に欠かせない。切断の当事者は民間船といわれ、非軍人が軍事作戦を遂行している。サイバー戦もまさにそうだ。
◎:シームレスな対応難しく▶ こういう現代戦には、自衛隊、警察、海保、そして民間企業を含めた力を有機的に連携させ、シームレスに対応しなければ有事を抑止できない。我が国はそれが可能だろうか。紙幅の関係上、ここでは自衛隊に焦点を絞る。
冷戦時に制定された自衛隊法は平時、有事が明確に区分され、しかも平時から有事への移行手続きが煩雑であり、シームレスな対応は難しい。自衛隊は先述のとおり平時には最小限の自衛権行使さえできない。火種は小さいうちに消すのが鉄則である。だが事態認定に時間が費やされ、タイミングを失する可能性大である。
また事態認定の行為そのものが「日本は宣戦布告した」「日本が事態を拡大させた」との口実を敵に与えかねない。従って政治家は事態認定を躊躇(ちゅうちょ)する。その結果、自衛隊は身動きがとれず事態は悪化する。この傾向は台湾有事のシミュレーションでも現出した。
また警職法準用の武器使用権限は「自衛官は~ができる」と主語が「自衛官」と規定される。他方、自衛権行使の主語は「自衛隊」である。平時の武器使用の責任は基本的には「自衛隊」ではなく「自衛官」個人に帰する。武器使用責任が個人に帰する軍隊など他にない(「治安出動」だけは特別で、主語が「自衛官」で同じだが「当該部隊指揮官の命令によらなければならない」とある)。
◎:現代戦への抑止力強化を▶ 自衛権行使の場合、「必要な武力を行使することができる」が、警職法準用の場合、「合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる」ものの正当防衛、緊急避難の場合を除き「人に危害を与えてはならない」。
この非合理性は、いわゆる「米艦防護」を例にとれば明らかだ。我が国の防衛に資する活動に従事している米艦艇等を防護するのに、必要と判断される限度で武器を使用することができるが、正当防衛、緊急避難に該当する場合のほか、「人に危害を与えてはならない」のは同じだ。しかもその主語は「自衛官」である。
米艦艇の防護任務を「人に危害を与えてはならない」条件で果たして遂行できるのか。しかもその責任は自衛官個人に帰する。そもそも正当防衛、緊急避難といった個人の行為を「米艦防護」といった防衛作用に適用すること自体に無理がある。台湾有事における重要影響事態下の武器使用権限も警職法準用であり同様の問題を抱える。
今の自衛隊法は平時、有事が曖昧な現代戦に適合していない。警職法準用ではなく、平時から有事へシームレスに対応できる自衛官職務執行法を新たに制定し、現代戦への抑止力を強化すべきである。防衛費を増額しても、自衛隊が合理的に職務を遂行できる法体系を整えなければ画餅に帰することになる。(おりた くにお)>以上
・・・・・・・・・・・・・
*読者諸兄の皆さま、御意見を! https://note.com/gifted_hawk281/ または ishiifam@minos.ocn.ne.jp までお願いいたします。小生の記事は以下でもお読みいただけます。
渡部亮次郎 「頂門の一針」<ryochan@polka.plala.or.jp>
必殺クロスカウンター ttps://www.mag2.com/m/0001690154.html
https://blog.goo.ne.jp/annegoftotopapa4646
ishiifam//1951@outlook.jp